第42話 エピローグ -空っぽの盗賊、今日も依頼を受ける-
「エルさぁぁああん、こっちみてぇ!」
一夜明けて、王都では街を救った面々による祝勝パレードが行われていた。
ウララ・ウルル姉妹を先頭に、俺、ハイジ、フレイヤ、イル、リース、そしてギルドマスターといった面々は集まった住民たちに手を振り、歓声にこたえたのだった。
その後、王宮の謁見の間に案内されると、ウララが中央に立って俺たちを出迎えてくれた。
「そのままの姿勢でいいわ。エルをはじめとして、今回のヘルヴェノム討伐、本当によくってくれました。シルビアの王女、そして、国王代行として礼を申します」
ウララの高い声が高い天井に響く。
彼女は青いドレスを着ていて、銀色の髪の毛は相変わらず宝石のように輝いていた。
あぁ、ウララって本当に王女様だったんだと今さら実感する俺なのであった。
「皆には何なりと褒美を取らせましょう。冒険者ギルドにも、ヘルムートにも相応の報酬を上乗せします」
ウララはテキパキと報酬やこれからのことについて伝えていく。
ヘルヴェノムとの戦闘は昨日のことだったのに政務をがんがんこなすなんて、ウララはいい女王様になるだろうな。
「さて、私は反省しなければならないことがあります。それは悪職差別についてです」
コホンと咳払いをして、ウララは悪職差別という言葉を出す。
それを聞いた大臣たちが、「何もこんなところで」「王宮に入れているだけでも特例なのに」と声をあげる。確かに、俺たち悪職が女王様に謁見できることは夢物語に近い。
こうやってウララと接していられるのも、今日までだろう。
明日からは盗賊と王女様っていう相容れないものになるのだ。
「今回の皆さんの働きからジョブを差別することの愚かさを実感しました。そこで、今後、シルビアでは聖教会とは距離を置き、独自の政策をとります」
ウララの落ち着いた口調に大臣たちはざわざわとし始める。
「悪職差別を禁止し、ギルドをはじめとして悪職の皆さんでも働ける場所を用意します。いいわよね、大臣のみなさん?」
そして、彼女がしゃべり始めるころには、あたりはしぃんと静まり返る。
口には笑顔を浮かべているが、目力で最大限の威圧を放つウララ。
「おっ、仰せのままに!」
迫力に気おされ、顔をひきつらせたままひれ伏す大臣たち。
それを見たウララは満足したように俺にウインクをするのだった。
……あぁ、怖い女王様になりそうだよ、あんたは。
「それじゃ、パーティよ!中庭にごちそうを用意したわ。今日だけは羽を伸ばしましょう!」
「ごちそう!うしし、ウララは最高なのだ!」
「肉が食べられるのね!ひっさびさだわ!お土産ももらって帰るからね!」
ごちそうの言葉に矢も楯もたまらず急ぎ足で中庭に向かうフレイヤとリース。
お前らどれだけ飢えてるんだよ、まったく。
「ウララにはしっかりと利子と延滞料と慰謝料を請求しなきゃね!くふふふ」
イルは金に飢えた獣のような笑みを浮かべて中庭へと急ぐ。
利子も延滞料も慰謝料も発生してないと思うのは俺だけではあるまい。
「エル、今回は世話になったな。お前の戦いぶりには感銘を受けたぞ。」
ぽんっと俺の背中をたたくのは捕縛の勇者のハイジだ。
彼女の縄がなければ動きを止められなかったわけで、どう考えてもお世話になったのは俺の方なんだが。
「とはいえ、私は勇者でお前は盗賊だ。お前がまたどこかに盗みに入るというのなら、次こそは捕縛してやる!」
ハイジは笑いながら中庭へと向かっていく。
盗賊のジョブをやめるつもりはないが、再び彼女の縄に追われるのは勘弁してほしい……。
「エル、そろそろ乾杯の挨拶をしてくれるかしら!」
パーティ会場につくと、ウララから乾杯の音頭を取るように言われる。
本来は俺なんかよりウララがするべきだと思うが、やれというのなら仕方がない。
「それじゃ、えーと、シルビアの未来に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
みんなの声が響き、楽団たちが音楽を奏で始める。
心地よい音楽の中、俺は自分が盗賊に生まれてきてよかったと噛みしめるのだった。
「エル兄!なに辛気臭くしてんのさ!次の依頼を持ってきたよ。ダンジョンだよ!合法的に盗み放題!」
一人でまったりしていると、イルが笑顔で駆け寄ってくる。
やたらと上機嫌だと思ったら、もう次の仕事を請け負ってきやがった。
しかも、よりにもよってダンジョンの仕事かよ。
まったく、休む暇もないな……。
「りょーかい。それじゃ、次の仕事も頑張らせてもらうか!」
とはいえ、俺は感謝しているのだ。
腕を使えない俺が盗賊としての仕事を受けられることに。
空っぽだからこそ、何だって盗み出せることに。
さぁ、次の依頼人は誰だろうか?
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エルたちのお話は今回のお話で一応の完結となります。
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