第40話 人形使い、テオドラ
「ふーん、残念。シルビアがここまでしぶといとはねぇ……。相性なのかなぁ」
少し休もうと思っていた時に、背筋に嫌な感覚が起こる。
勝利を祝っていた俺たちの後ろに奴が現れたのだ。
奴隷商人のテオドラ。
ヘルヴェノムの封印を解いた張本人の大悪党だ。
見かけはセクシーなお姉さまのくせに、極悪非道な女。
「残念だったな。俺たちが力を合わせりゃこんなもんだ。ヘルヴェノムは俺が回収したぜ、もう二度と復活しないぞ」
俺はふらつきながら立ち上がる。正直言って、こいつにはバックドロップをくらわしてやりたい気分だ。
それに、どうしてこんなことをするのか問いただす必要がある。
「へぇ、君があの魔石を持ってるの?あははは、すごいアイテムボックスを持ってるねぇ」
こいつは俺が魔石を持っていることを見抜き、さらにはケラケラと笑う。
情緒が不安定なのか、計算づくの演技のか分からない。だが不快な奴であることは変わりない。奴こそがシルビアを崩壊間際まで追い込んだ張本人なのだ。
「今さら現れて、お前を許すと思っているのか?」
俺の背後でハイジ殺気を漂わせるのを感じる。
その声は低く、すぐにでも捕縛するつもりであることが伝わってくる。
「テオドラ・ガリアーノだな?祖父に負けず劣らず外道な奴め」
「私の子供たちを困らせてくれるなんて悪い子ね。すぐにナイフのサビにしてあげるわ」
しかし、ハイジより先に動いたのは俺の両親だった。
テオドラの首元には母さんのナイフが、眼前には親父の拳が突きつけられている。
それは瞬きの間の一瞬の出来事だった。
「あら、ヘルムートの三ツ星夫婦かぁ。同じ三ツ星どうしでも、近接戦闘は分が悪いかもねぇ」
テオドラはにやにやしたまましゃべり続ける。
親父たちはどう見ても本気で殺しに来ているのに、どうしてそんな口調でいられるんだよ。
「ふふ、今日のところは退いてあげるよ。赤目と白鬼によろしく言っといて」
「ぬかせっ!」
親父はテオドラの顔面に鉄拳を叩き込む!
……が、当たる寸前で止めてしまった。
何が起きたのかというと、テオドラの体は横倒しになって動かなくなっているのだ。
「くそっ、人形使いめ……」
親父は忌々しそうにつぶやく。
テオドラのジョブの名前は人形使いというものらしいが、かなり不穏な感じがする。
まさか人間を人形のように使うジョブなのか……?
「あと、お土産にこの子の首をもらっとくよ?エルなんて趣味の悪い名前は大嫌いなんだよね」
しかし、奴は消えてはいなかった。
奴の声だけがあたりに響き、俺たちはあたりを見回す。
次の瞬間、俺は背中に猛烈な冷たさを感じる。右斜め後ろから何かが飛んでくる!?
ギリギリのところで俺はそれを避ける。
見れば足元には透明な針が数本刺さっていた。
「……いいねぇ。エル・ヘルムート。ふふ、気に入ったよ。君は僕のライバルになってほしいなぁ」
俺の真後ろにいたのは、俺と同じぐらいの背格好の少年だった。
だが、その存在感は俺とは全然異なっていた。
いわゆる美少年っていう奴だろうか、金色の髪の毛に愛くるしい大きな瞳はまるで人形のようだった。
ここまでくると、ボーイッシュな女の子っていう可能性もある。
かわいらしい見た目のくせに、その瞳は邪悪な意思で溢れている。
「また会う時には君の右腕をもらうことにするよ」
奴はにやっと笑うと城壁の上からいなくなってしまう。
親父たちは後を追いかけるが、姿はどこにもなくなっていた。
なんだったんだ、一体……。
「何をいってやがる……」
テオドラが消えると緊張の糸が切れたのだろう。
猛烈な睡魔に襲われた俺はほとんど前倒しに倒れこむのだった。
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