第4話 エンカウンター王女様
「ふぅ~、全くエル兄のおかげでひどい目にあった。……ん、あんた、どうしたの? 顔色が悪いけど?」
俺たち三人は倉庫を抜け出し、先ほどの酒場に戻った。
イルは足を投げ出した姿勢で椅子に座って「疲れた」って言葉を連発する。
ホットパンツからのぞく細くて長い脚は美しいことこの上ないが、お行儀が悪いぞ。
「ないの! 私の指輪がないのよ! ……あなたたち、知らない?」
フードの女の子は顔を真っ青にして尋ねてくる。
しかし、俺たちは指輪などは見ておらず、首を横に振るだけだった。
彼女はぶつぶついいながら頭を抱え、うろうろとあたりを歩き回る。
「嘘でしょ……まずいわ……」
彼女はそれ以降、何もしゃべることなく下を向いてしまう。
高価なものだったのだろうか、指輪をなくしてしまったことにショックを受けたのだろう。
だけど、ここは命あっての物種だ。助かっただけでもマシなんだから。
「がはは、今日は上出来だ! しかし、まさかわしとエルたちとで二人も助けてしまうとはな! 君はポルトさんの娘さんだよな? 君は……どちらさんなのか……、うぅむ、その髪はまさか……」
酒場で合流した親父は予想外の出来事に腕組みをしていた。
親父は忍び込んだ先で依頼人の娘を助けたのだ。
……ということは俺たちが助けたのは一体誰なんだってことになる。
その後、ポルトさんの娘を引き渡すと、酒場に微妙な空気がたち込め始める。
意外なことに、その空気を打ち破ったのはフードの女の子自身だった。
「あなたたちって森の外れに住んでいる盗賊一家のヘルムートよね?」
「そ、そうだけど?」
「シルビアの王女ウララ・シルビアとして、あなたたちに依頼を出すわ。私をあなたたちの村に連れて行きなさい!」
彼女はそういうとフードを外す。
銀色の髪の毛が現れ、さらにその上にあるのは……獣人族の耳だった。狐人族を思わせるケモミミであり、端正な顔立ちとすごくにあっている。
「……ん、王女……さま?」
「うぅむ、やはり王女様でしたか!たしかにその見事な銀髪は王族の証ですな」
まさかの展開だ。
目の前の女の子は自分を王女だと主張し、親父はその場にひざまずいて、頭を下げてしまうではないか。
親父の反応からして本物だと判断していいのだろうか。
「ん?あんた、今、なんて言った?連れていけ?」
親父が恭しくしているのに、イルの態度は正反対。
あろうことか王女様相手に「あんた」などと軽々しい口を利く。
「……連れて行きなさいって言ったの!追手が来る前に!」
「とはいってもねぇ? 王女様を連れていくなんてリスク高すぎるしなぁ」
「くっ、お金はいくらでも出すわ。これは手付け金よ」
彼女はそういうと足首にはめてあったアンクレットを机に置く。
キラキラと輝く宝石の付いたそれは明らかに高価なものだろう。こんなの見たことない。
「おひょぉお! あんた話せばわかるイイ奴じゃん、さすがは王女様! 気に入った!」
イルはがばっと王女様の手を取ってぶんぶんと振る。
……こいつ、金に目がくらみやがったぞ。
「ふーむ、金はいいとしても、バレたら村ごと皆殺しか」
しかし、意外なことに親父は冷静なのだった。
当然といえば当然だ。
もし本当に王女だったら、彼女を追って村までシルビアの軍隊が攻め込んでくる可能性もある。
喜んでいるイルには悪いが、俺たちの手に負える案件じゃない。
常識的に考えて、お断りするのが賢明だろう。
「なによ、王女の依頼が聞けないって言うの?」
俺たちがしぶっていると彼女の機嫌はみるみる悪くなる。
王女様らしくわがままそうな性格。
威圧感すごいし、じゃっかん目つきは怖いし。
「じゃ、王女として命令を出すわ、あなたたちの村に誘拐しなさい」
放っておくと事態はさらに深刻化する。
誘拐しなさいって生まれて初めて聞いたよ。この王女様は人に頼む態度を知らないらしい。
「……お願い!あなただけが頼りなの!私を一人にしないで!」
彼女は俺の腕にすがりついてきたのだ。
しかも、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
……どうやら頼む態度を知っていたらしい。
温かくて柔らかな感触が俺の腕を襲い、「ふひっ」などと妙な音が俺の口から漏れる。彼女のケモミミはしゅんと伏せた状態であり哀愁さえ感じさせる。
ううむ、かわいそうすぎる。
すっかり骨抜きになりそうな俺なのであった。
「親父、やっぱり人助けはしなきゃいけないよな。俺たちは正義の盗賊なんだろ?」
決して彼女の色仕掛けに負けたわけじゃない。
困ったときはお互い様っていう、義賊の原点に立ち返ったんだ。
「確かに我々は義賊!王女様の依頼を受け入れようじゃないか」
親父は豪快に笑い、一人で盛り上がって腕をぶんぶん振り回す。
「がはは」などと笑っているが、その腕に当たったら死ぬと思う、まじで。
「ありがとう!恩に着るわ!」
ケモミミ王女は俺の手を取ると、がっちりと両手で握手をする。
悲しいかな俺の握力はほとんど残っていなかったが、それでも胸がドキドキしてしまうのだった。
お読みいただきありがとうございました!
次回は別視点が入ります。
「まぁまぁ面白かった!」
「続きが気になる!」
「作者、もっと頑張れ」
と思った方は、広告の下にある☆☆☆☆☆からの評価、ブックマークへの登録をお願いします!