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第33話 まかさのセパレートスタイル


「まずは私が縄を使って奴を足止めする。厄介な触手はフレイヤが排除する。その間にお前があいつの上空にジャンプして、上から泉の水をまきちらす」


「ふむ、それで現れた魔石をぱっかーんとやるのだな!」


「いやいや、ちょっと待って!俺が飛び掛かるっていうのは決定事項なのかよ?」


 ヘルヴェノムがゆっくりと近づいてくる中、俺たちは作戦会議中だ。

 どうやったら奴に必殺の一撃をくれてやれるか考察を重ねる。

 フレイヤが言うには、奴の体のどこかに魔石があるらしいので、それを粉々に破壊すれば俺たちの勝ちなのだ。


 しかし、あんな巨大なモンスターの魔石をどうやって探り当てろと言うのか。


「そりゃそうだろ、私はロープを抑えてないといけないし。フレイヤが触手を切り捨てないと、みんな、死ぬだろ?」


「エル殿が一番、ジャンプ力があるのだ!エル殿のとぶ姿はかっこいいのだよ!」

 二人はニコッと笑って俺に決意を促す。


 かわいい系のフレイヤ、美人系のハイジ。

 美女二人の前ではかっこつけたくなるのだが蛮勇は常に死と隣り合わせだ。

 慎重に議論を重ねて最善の手を打つしかない。


「そういえば、イルとリースはどこに行ったのだ?」


「イルには俺の村に戻ってもらった。村のみんなにも伝えておこうと思ってな。リースには森の奥に残った人たちを運んでもらってる」


 イルは急いで帰れば15分程度で村につくといっていた。

 もしかしたら、村からの援護もあるかもしれない。


「やばいな、私としたことが震えてるぜ……。魔王以来だな、こりゃ」


 ハイジはそういうと苦笑いをする。捕縛の勇者でも恐怖を感じたりするらしい。


「にゃはは!このフレイヤ、これまで以上の活躍をするのだぞ。エル殿にはあたしの勇猛さを見ていてほしいのだ!筋金入りのヴァルキリーは死んでも戦うのだ!」


 一方、フレイヤは相変わらずだ。

 彼女は「あたしにどぉんと任せるのだ」などと言ってどぉんと胸を叩く。その反動で胸元の二つの果実がどぉんと揺れる。体は小さい癖に肝っ玉も胸の大きさも尋常じゃない。


 ……っていうか、死んでも戦うってほとんどモンスターだな。


「ゆ、勇者様!化け物が二つに分かれました!しかも、モンスターを大量に生み出しています!」


 勇気を奮い起こしていたのも束の間のことだ。

 見張りの兵士が大きな声をあげて俺たちのもとにやってくる。


「なんだって!?」

 慌てて城壁からヘルヴェノムを見にいくと報告の通りのことが起きている。

 空間を切り取るように大小二つの黒い球体がぷかぷかと浮かんでいるのだ。悪いことには奴らの足元に真っ黒いモンスターまで生み出されているではないか。


「ハイジ、二つを同時に足止めするってことは可能か?」


「二つの距離が思ったよりも離れているな。ロープの射程からいって一体ずつ片付けるしかないぜ。足元にいるのも厄介だ、あれは毒をもったシャドウマンだぞ」


「にゃはは、シャドウウルフもいるのだ!毒を吐くゾンビ狼でそこそこ強いのだ」


 嫌な汗がたらりとほほを伝ってくる。

 現れたのは真っ黒い人間の影をしたモンスターと、これまた真っ黒いオオカミ型のモンスター。

 どちらもアンデッドの類で沼地にいるやつだ。

 そいつらが数百体の軍勢となって歩いてくる。ふらついているくせに、こちらに一直線に向かってくるのが非常に不気味だ。


「マジかよ……」


 このタイミングで敵が分裂するなんて予想外過ぎてため息が出る。

 これじゃ最初の作戦が水の泡になってしまうじゃないか。


「盗賊野郎に、狂戦士女!ここであったが100年目だな!」


 そんな折、後ろから声がする。


「あ、炎の剣で余計なことをしでかしたおっさんなのだ!名前はまだしらない!」


 見ればシルフォードの屋敷で戦った冒険者ギルドのギルドマスターのおっさんがいる。

 フレイヤが余計なことを言ったので、おっさんは苦笑いする。


「余計なことをしたっていうな!今は反省してるんだ。それに、俺にはガタカという立派な名前があるんだぞ」


「くふふ、反省というのは態度であらわすものなのだぞ?ガタガタのおっさん?」


「ガタカだ!冒険者ギルドの有志を募って手伝いにきてやったんだ!感謝しろ!」


 その後ろには筋骨隆々の剣闘士や、杖を持った魔法使いなどの冒険者の皆さん。

 なるほど、このシルビアを守るために協力してくれるってことなのか。


「ハイジ、お前がこの戦いを指揮してるのか?」


「違う。この戦いはこの盗賊野郎のエル・ヘルムートが戦いの指揮を執っている。それでもついてくるのか?」


 ハイジは冒険者たちの瞳を見つめてドスの利いた声で尋ねた。

 勝手にリーダーに祭り上げられている気もするが、それぐらいしないと彼らの本気度はわからない。作戦の途中で行き違いが起きたら、即、ジエンドだ。


「「「ついていくぜ!」」」


「「「ついていくわ!」」」


 冒険者たちは大声を出す。

 通常、冒険者の連中は金のために戦う存在だ。命をなげうってまで街を守るなんて、この人たち、そうとう素っ頓狂だな。


「よろしく頼むぜ。こないだは敵同士だったが、今回はお前が俺たちのリーダーだ」


 おっさんは俺に手を差し出して握手を求める。

 リーダーなんて言われるとちょっとこそばゆい。だが、俺もがっちりと手を握り返す。


「がはは!楽しそうだな、エルよ!わしたちも遊びに来たぞ!」


「エルちゃん!楽しませてもらうわね!」


 振り返ると、親父と母さんがいるではないか。

 二人を連れてきたイルは「パパママコンビなら百人力でしょ!」と胸を張る。


「ギルバートとエリスだ。あいにく兄と姉は出張でおらんのだが、今日はよろしく頼む」


「……あんたらが来てくれるとは鬼に金棒だな」


 親父はそういうとギルドマスターとがっちり握手を交わす。

 二人は目を合わせてにやっと笑い、協力関係にあることを確認し合う。


「エル!森に残っていた人たちの避難は完了したわ!ウオウちゃんとサオウちゃんにはあとで肉をおごってよね」


 そして、間髪入れずにもう一人が駆けつける。

 魔獣使いのリースがゾゾイの森から帰ってきたのだ。

 人命救助に大活躍している2頭の狼には肉を大盤振る舞いしてあげよう。


「リーダー殿、それではもう一度、作戦会議なのだ!」


 城壁にはあわせて総勢数十人の応援が駆け付けた。

 これなら作戦の幅は大きく広がる。


「「「やるぞぉおお!」」」と一同が大きな声を張り上げる。


 仲間がいればやれるかもしれない。

 残された時間の中で最良の作戦を立てるのだった。


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