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第32話 銀狐レガシー


 ゆっくりとシルビアへと浮遊していくヘルヴェノム。

 このまま放置したら王都はきっと一晩で死の都になるだろう。

 しかし、どうやったら止められるんだ!?


『極意2:お前の頭が空っぽなのは、お前が聞き上手になれるからじゃろうが!』


 ここで再び、熱血老人の声。

 相変わらずの極意、しかもその2。

 頭が空っぽで悪かったな、確かに俺は頭脳明晰とはいかないだろうよ。

 しかし、聞き上手って言われても何を聞けばいいんだよ?


 ……まてよ!

 ここで俺の脳裏にはあるアイデアが浮かんでくる。


「ウララ、銀狐様はどうやってあいつを封印したんだ?」


「そんなのわからないわ。銀狐様は口伝でなんでも伝える人で、記録だって残ってないし!」


「く、口伝ってなんだよ!?」


「歌とかお話とかそういうの。ほら、あなたの村で歌ってあげたじゃない?」


「あれかよ!?」


 ここまで言われて俺の脳裏にはウララの歌ってくれた歌が思い出される。

 お世辞にもうまいわけではなかったが、歌詞の意味は覚えていた。


「ようは草と水を投げつけろってことか?」


「……それだわ!あいつが毒の塊なら、薬草で対抗すればいいのよ!そのために銀狐様はゾゾイの森にシルビアを開いたんだわ」


 なるほど、ゾゾイの森に生えている薬草をぶつければいいのか。


 もし、それが本当なら王族はゾゾイの森を守らなければならないという言い伝えには、きちんとした意味があったことがわかる。

 つまりはここの薬草で対抗できるってことだ。


「銀狐様、お願いします!私たちを導いてください!」


 ウララは目を閉じると、祈るような姿勢をとる。


「わわっ、草が輝き始めたのだ!森にも光ってる木があるのだぞ!?」


 ウララが祈り始めると、草や木々が光り始める。

 すごいぞ、これがウララの受けた薬師の加護ってやつなのか?


「光っているのは薬草よ!動ける人はみんな、薬草を集めてエルの前に置きなさい!」


 ウララが号令をかけると兵士たちは森へと分け入り始める。

 かなりの量の薬草が生えているらしく、どんどん薬草の山ができ始める。確かに直接攻撃する術がない以上、薬草をぶちまけるのはいいアイデアだ。


「あと、水ってなんだ?ウララ、わかるか?」


「水って言えば、聖なる泉のことじゃない?あの水には不思議な力があって体力を回復させてくれるのよ。結界は破られたけど、聖なる水は枯れちゃいないわ!」


 ウララはケモミミをぴーんと張って答えをひねり出す。

 確かに毒が周辺にまかれたというのに、この泉だけは美しさを保っている。

 きっと、銀狐様の特別な加護があるのだろう。


「そういえば、あたしの濡れたマントを投げたら痛がっていたのだ。エル殿がこの水をぶっかければいいのだ!」


 フレイヤがぽんと手を叩いて、俺にガッツポーズをする。

 ゾンビみたいなアンデッドは聖水をまけば倒せることもあるという。

 聖水をもって毒を制すというアイデアも行けるかもしれない。


「しかし、相手はゆっくりとはいえ動いてるんだぞ?どうやって足止めできるんだ?」


「それなら任せとけ!私の縄を泉の水に浸せばうまくいくかもしれない」


 さっきまでは愕然としていたが、ハイジもやる気を取り戻したようだ。

 よし、足止めと攻撃方法の二つはそろった。あとはやるだけだ。

 俺はさっそく聖なる泉に両手を入れる。


 水よ、聖なる泉の水よ、俺のアイテムボックスに入れるだけ入ってくれ!

 そう念じると、どんどん吸い込まれていく!

 俺のアイテムボックスって、いったい、どれぐらいの容量があるんだ!?


 しばらくの間、俺はとにかく薬草の山と聖なる泉の水をアイテムボックスに入れる。

 ハイジは聖なる泉の水で縄を慎重に湿らせ、フレイヤは槍を磨く。

 のんきに見えるけれど、これしかできることは残されてない。


 その間、ヘルヴェノムはのたりのたりと進んでいく。

 森を出るにはまだまだ時間はかかるだろう。奴の足が遅いことだけが唯一の救いだ。


「エル、そろそろ時間がないわ。あいつがゾゾイの森を抜けたらシルビアにも入ってくる。そろそろ行くわよ!」


「あいよ、ウララを女王様にしてやろうじゃないか!」


「ふふ、かっこいいわ。つまりは俺の屍を越えてゆけってやつね?」


「いや、どうしてそうなる!?俺は死ぬつもりはないからな?」


 俺も相当頭に血が上っていたのだろうか。

 結構恥ずかしいことを言ってしまう。だが、妙な勘違いをしたウララに返り討ちにされる。


「エル兄!急がなきゃやばいよ。あいつが近づいてきてるじゃん!」


「避難は完了したわ。だけど、あの真っ黒い化け物が街に来るわよ。どうするのよ!?」


 けが人を避難させていたイルとリースが二頭の狼に乗ってやってくる。

 ナイスタイミング!彼女たちの狼ならなんとか追いつけるだろう。


「リース、助かったぜ!俺たちを乗せて引き返してくれ!」


「いいわよ、つかまってて!」


 俺たちは汚染された毒を避けながら、ヘルヴェノムを追いかける。

 あたりからひどい悪臭が漂い、森が著しく汚染されているのがわかる。


「……あれ、あいつまた大きくなってないか?」


 そして、近づけば近づくほど、俺たちの絶望感は増大していく。

 ヘルヴェノムは明らかに大きくなっているのだ。

 最初に見たときには直径5メートル程度の化け物だったのに、今では十数メートルはあるだろう。

 武者震いをしながら、俺はごくりとつばを飲み込んだ。



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