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第31話-1 災厄ヘルヴェノム


 ゴゴゴゴゴゴ……ギギギギギギ……


 テオドラがいなくなると祠から地鳴りとモンスターの絶叫が合わさった奇怪な音が聞こえてくる。

 背筋がぞわぞわとして、かなり気持ち悪い。


「な、なんだ?」


「おい、揺れてるぞ!」


 シルフォードの配下の兵士たちも異変に気付く。

 だが、彼らの頭目のシルフォードはもういない。どうすればいいかわからない状態でオロオロしているだけだった。


「弓や魔法を使えるものは、祠に全力で攻撃をして!復活する前に封印するわよ!」


 ウララは祠を指さして、皆に号令をかける。

 確かに今のうちありったけの攻撃をすればダメージを与えられるかもしれない。

 合図と共に放たれる大量の弓矢に魔法。

 それはまるで地獄の嵐のようだった。


「……やったか?」


 普通の敵なら死骸さえ残らないだろう。兵士の一人が祠の穴に近づき、その中を覗き込む。

 しかし、俺の背筋にぞわっと冷たい感覚を覚える。

 直感でそう感じた俺は「離れろ!」と叫ぶ。


「うわぁあああああ!?」


 祠から真っ黒な腕が伸びあがり、覗き込んだ兵士を捕まえる。

 「ひぎゃああ」と声をあげて彼は暗闇の奥へと消えていった。


「ギギギっギギギ……!」


 ぼこっと土が盛り上がったかと思うと、空中に現れる異形の魔物。

 それは真っ黒な姿をした直径5メートル程度の球体のモンスターだった。

 体の表面はぬらぬらしていて、ところどこに突起がある。

 目も口も見えないが、こいつがヘルヴェノム!?

 奴は攻撃の意識はないのか空中で静止したまま、触手をふよふよと動かしている。


「リース!ウララとウルルとセキレイさんを狼で退避させてくれ!イルは歩ける奴らを誘導して森を抜けてくれ!」


 とりあえず今は人命優先だ。特に王女姉妹の命は絶対条件だ。

 敵は空中に浮かんでいるだけだから、今なら安全に王女姉妹を運び出せるだろう。


「エル兄!私だって戦えるよ!?」


 リースは二つ返事で応じてくれたが、イルは不満そうな声を漏らす。

 だが、イルの能力はあいつと相性が悪い。それならば補助に回ってもらった方がいい。


「イル、わかってくれ。あいつにナイフもシュリケンも効かないっぽいから」


「……わかったよ、バカ兄貴」


 イルはぷいと向こうを向いて怒ってしまう。

 一緒に戦いたいのはわかるけどリスクが大きすぎる。

 今度ばかりは守れるかもわからないし、イルを失ったら親父にも母さんにも顔向けできない。


「お姉さま、お乗りください!」


 ウルルとセキレイさんが狼に乗って駆け寄ってきた。それなのにウララは首を横に振るのだ。


「私は残るわ。これを復活させてしまったのは私の責任でもあるもの。ウルルは大臣たちを呼び出して、守りを固めさせておいて!」


「ぐぬぅ、本気なのですね。わかりました!お姉さま、必ず帰ってきてくださいよ!」


 ウルルはそういって狼に乗ってかけていく。


 ……っていうか今のウララの指示を即座に理解するなんて賢すぎるだろ。


「歩けるものはイルとリースに続きなさい!歩けないものは聖泉の水を配るから待っているのよ!そして、体力があって、戦う意志のあるものはこの場に残りなさい!」


 彼女は大きな声を張り上げて、この場の兵士たちを再編する。

 さきほどまで銀狐様が出入りしていた聖泉の水には回復効果があるらしい。

 俺たちを含めて数十人がこの場に残り、けが人や戦意喪失した兵士たちは王都への道を引き返していく。


 さぁ、化け物退治をしてやろうじゃないか!


「「「ギガファイア!」」」


 魔法使いたちが一斉に攻撃を始める。

 俺は運よく回避できたけど、空中を泳ぐ無数の炎の矢は凄まじい破壊力のはず。

 いくら伝説のモンスターでも直撃すれば黒焦げだろう。

 

 爆発音が響き、真っ黒い煙が立ち上る。

 しかし、煙の中から現れた奴の体には傷一つついていなかった。


「うぉおおおおお!シルフォード様を返せぇええ!」


 敵が何の攻撃もしてこないことを好機と見たのか、数人の剣闘士たちが斬り込んでいく。

ざしゅっと勇猛果敢に敵の丸い体に剣を突き立て、雄たけびを上げる。


 しかし、それが悪夢の始まりとなってしまう。


「ギギッギイイ!」


 剣を突き立てたところから飛び出す真っ黒い液体。

 それが血しぶきのように剣闘士たちに直撃したのだ。


「ううぁぁあああああ!?」


 液体を浴びた彼らはその場で皮膚の色を変色させて倒れ込んでしまう。

 それを皮切りに敵は真っ黒い液体をあたり一面にまき散らし始めるのだった。

 液体の触れた部分は音を立てて腐っていく。

 草や木々だけじゃない、地面でさえも同じだ。

 俺はなんとかよけきるものの、回避できなかった兵士たちの声で阿鼻叫喚となる。


「猛毒を吐き出してるわ!絶対に触れちゃだめよ!」


 警戒の声を出すウララ。

 だが、油断していたこともあって損害は大きく、かなりの人数が戦闘不能になってしまった。


「伝説のモンスターだか知らないが、私がやってやる!神々の重圧(ラディアントマス)!」


 阿鼻叫喚の中でも並々ならぬ闘志を発揮するのがハイジだった。

 彼女はヘルヴェノムにロープを飛ばし、ぐるぐる巻きにする。

 なるほど斬るのではなくて、ロープでつぶすっていう発想だろうか。

 それなら行けるかもしれない。


「ギギギギッギギギイ!」


 しかし、敵の体からにじみ出てくる毒液によってロープはぼろぼろになってしまう。


「私の縄が……崩れた!?」


 崩れ落ちるロープを眺めて呆然とするハイジ。

 とんでもなく固いロープだったのに溶かすなんて、信じられない化け物だ。


「ギギギギギギ……」


 そうこうするうちに奴は紫色の光を発し始める。

 その光のあまりの禍々しさに嫌な予感がぞわぞわと背中を駆け巡り、不穏な汗が流れ始める。


「あいつ、毒草を集めてるわ!それに、毒蛇や毒のあるモンスターなんかも吸い込んでる!」


 状況を察知したウララが叫ぶ。

 奴は四方八方に腕を伸ばし、植物や動物、はてはモンスターをどんどん取り込んでいっているらしい。

 毒を外部から取り入れて自分の毒を強化する仕組みなのか。

 俺は焦る心を抑え、あいつの弱点を分析する。

 伝説のモンスターだろうが、絶対に倒せるはずだからだ。

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