第29話-1 形成逆転サドンリー
「待ちなさい!」
俺の死刑執行が行われそうになった瞬間だった。
近くの茂みからウララが駆け出してくる。
ウララの存在に気づいた兵士や勇者は「ウララ王女様!?」と驚いた声を出す。
もちろん、俺の処刑はいったん中断だ。
「シルフォード様、私があなたの王位のために踊ります。だからエルを離してあげて!」
ウララはシルフォードの王位のための舞を自分が行うという。
そんなことをしたら計画は水の泡だ。俺はじたばたもがくもマナが足りず身動きがとれない。
「今度は本物だろうな?お前が心を込めてわしのために踊るのなら考えてやろう」
「わかりました。……エル、待っててね」
そういうと、ウララは舞を踊り始める。
その姿はまるで天女のようで、彼女の長い四肢は光り輝くようだ。この場にいる全ての視線は彼女にくぎ付けになっている。
「……エル、お前、もしかしたらマナが切れてるんじゃないか?」
振り返れば、捕縛の勇者のお姉さんが神妙な面持ちをして小声で俺に尋ねてくる。
なぜそんなことを聞くのか不明だが、どうすることもできない俺は無言でこくりと頷く。
「ふふふっ、それじゃまるで英雄譚そのものじゃないか。よし、私のマナを分けてやる。……えっと、こうすればいいのか?」
彼女はそういうと、縛られた姿勢の俺に添い寝をしてくれる。
俺が身動き取れない状態だからしょうがないんだろうが、かなりきわどい姿勢だ。
肩に感じる彼女の温もり、柔らかさ、そして、呼吸の音!!
イルやウララやフレイヤともまた違う感覚でものの数秒で活力がみなぎってくるのがわかる。どうやらマナっていうのは人によって結構感触が違うものらしい。
しばらくたつと、ごぽごぽごぽ……と音がして、再び銀狐様が現れる。
「銀狐様!私が指輪の資格者のシルフォードです。私に王権を授けたまえ!」
今度こそとシルフォードは青い宝石のついた指輪を掲げる。
俺は「あぁ、くそっ……」と奥歯を噛んで眺めているしかできない。
「ふむ、お前が次の王になるのか。運命とは数奇よな。では、わが息子よ、近くに寄れ」
シルフォードは銀狐様のもとに歩み寄り、ひざまずいて祝福を得る姿勢になった。
銀狐様は手のひらをゆっくりとシルフォードにかざそうとする。
「飛べ!エル・ヘルムート!」
まさかのまさか、このタイミングで勇者が叫ぶ!
気づけば俺を縛っていた縄が緩くなっている。
ハイジの言う「待ってろ」っていうのは、このことだったのか!?
「このやろおぉぉお!」
俺は一気にジャンプし、シルフォードの手から指輪を奪い取る。
銀狐様の手がシルフォードに触れる直前のギリギリセーフのタイミングで。
指輪が俺の手に渡ったからか、すすーっと銀狐様は掻き消えてしまう。
「なっ、何をするっ!?おのれ、勇者め、寝返ったな!?」
ハイジの突然の裏切り行為に、もちろんシルフォードは怒り心頭。
何十、何百もの兵士たちが色めき立ち、俺たちの周りをとり囲む。
「シルフォード様、あなたは国王にふさわしくない。奴隷商人に踊らされ、国民をないがしろにする国王など!そもそも、あなたは自分の意志で王になりたいと思っているのか?」
「何をいうか。わしはこの田舎の中立国、シルビアを発展させてやるのだ。奴隷の労働力でゾゾイの森を開拓し、シルビアをもっと豊かな国に変えてやる。帝国にも、聖教会にも負けない国にして見せる!ええい、ものども、皆殺しにしろ!ウララとウルルも捕まえよ!」
シルフォードの合図とともに、兵士たちが雄たけびを上げる。
数百人の兵士に完全に囲まれている以上、逃げ出すことも難しそうだ。
奥歯をぎりっと噛んで、俺は覚悟を決める。こうなったら戦うしかない。
「ウララ、もう一回、踊ってくれ!俺たちが守るから、その間に王位継承の儀式をしてくれ!」
「……わかったわ!あなたたちを信じるわ」
俺は指輪をウララに渡す。
彼女の瞳は俺たちのことを信じるっていう強い熱意に燃えていた。
「ハイジ、ウララの儀式が済むまで一時停戦だ。ウララたちを守ってやってくれ」
「もとよりそのつもりだ。盗賊野郎と共闘なんて趣味じゃないがな」
俺は捕縛の勇者、ハイジ・ゼニガタと背中合わせになる。
背中の温もりがやけに頼もしい。ハイジの強さを知っている俺は尚更そう思うのだ。
「勇者様、エルさま、微力ながら私がウルル様をお守りします!」
メイドのセキレイさんがウルルを連れてこちらに走ってくる。
見ればウルルの後ろにいた男たち数人がノックアウトされているではないか。結構、腕の立つメイドさんだったらしいぞ。
これなら何とかなる!
「ぐぬぬ、ものども、かかれぇっ!」
怒りと焦りに満ちたシルフォードの声が響き渡る。
それに合わせて十数人の兵士たちが俺たちに向かってくるのだった。
しかし、俺は恐れない。
人数が増えれば増えるほど、人間の動きは単調になるものだからだ。
兵士たちは同士討ちのリスクを避けるために順々に斬り込むか、突き刺すぐらいしかできない。
むしろ動きは単調なぐらいだ。
「刀狩り!」
俺は腕を輝かせ、片っ端から敵の武器を奪い、片っ端からアイテムボックスに入れていく。
戦うたびに自分の動きのキレが良くなっていくのに気づく。
もしかすると、俺はすごい速さで成長してるのかもしれない。
「百本捕り物を喰らえ!」
そして、ここでハイジのスキルが発動。
生き物のようにうごめく無数の縄が兵士たちをどんどん縛っていく。
たちが悪いことにこの縄、いったん捕まったら抜けることはできない。ぐるぐる巻きにされたら人間は無力なのだ。
「ぬぐぐ、我らが魔法部隊よ!反逆者に目にもの見せてやれ!」
肉弾戦だと不利だと見たのか、シルフォードは魔法使いの部隊に命令を下す。
彼らは兵士たちの後ろに立って呪文を詠唱し始める。
「「「ギガファイア!」」」
魔法使いたちが同時に叫ぶと空中に巨大な炎の矢が現れる。明らかに直撃すると死ぬやつだ。しかし、俺はこんなこともあろうかと「準備」をしてきたのだ。
「こいつでも喰らえ!」
燃え盛る矢の真正面に立った俺は手のひらから大量の水を噴射させて鎮火する。
水の出どころはアイテムボックスで、今朝、早起きして水を大量に入れておいたのだ。
こないだ、火炎剣のおっさんと戦っといてよかったぜ。
「エル、もう少しだ!」
後方を見ればウララの姿が再び輝き始めていた。その姿は神々しく、女神そのものに映る。やっぱりウララは銀狐様の血をひいているんだなぁと実感する。
こうなったら、俺は俺のできることをするのみ!
俺は歯を食いしばって、相手をにらみつけるのだった。
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