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第28話 無茶ぶりフォレストゾゾイ

 どうしたんだ?

 なぜ合図がないんだ?

 もしかして、三人に何かあったのか?


 一言で言えば、俺は焦っていた。

 いや、めちゃくちゃ焦っていた。


 ゾゾイの森の奥深くの美しい泉のほとり。

 銀狐様がモンスターを封印した石造りの祠がある場所であり、王位継承の儀式が行われる場所だ。


「それではウララ王女に王位継承のための舞を踊ってもらおうか。ふはははは」


 泉のほとりには石でできた演台のようなものがあり、王位継承の儀式の際にはそこで伝統の舞踊をするしきたりがあるらしい。


 非常に都合が悪いことに王位継承のための踊りをこの俺に踊れというのだ。

 明らかに見せしめの意味も込めてウララに踊らせようという魂胆であり、シルフォードの性格の悪さが伝わってくる。


 しかし、敢えて言おう、無理であると!


 俺はその王位継承のための舞とやらを全くもって知らないし、知らされてもいないのだ。


 計画では俺とウララはとっくに入れ替わっているはずだった。

 本物のウララが躍っている間に、俺が指輪を盗み出し、イルはウルルとセキレイさんを連れて離脱する。襲ってきた敵はフレイヤが排除するという筋書きだった。


 それなのに作戦の初歩の初歩で立ち往生しているのが現在の状況。

 これは非常にまずい。まずすぎる。


 一番の心配はマナ切れだ。朝からずっとこの姿でマナを使っている状態であり、イルたちの到着が遅れるだけでジエンドになる。

 女装した変態として斬首されるのは勘弁だ。


「ウララよ、早く踊れ!」


 しかし、俺に残された時間はわずかしかない。

 シルフォードが目配せした先にはウルルがいるのだ。

 その後ろには奴隷商人の子分の男たちが待機していて、逃げ出すことさえ叶わない。


 俺は舌打ちをして演台に昇る。

 破れかぶれではあるけれど、踊って時間稼ぎでもするしかない。


「あーらよぉっ、こぉらぁさぁー」


 ……とにかく物は試しと踊ることにする。


 もしかしたらと、自分なりのアレンジで歌ってみたりもする。

 うぅ、俺も歌には自信がないんだった。ウララのことなど言えたもんじゃない。


「な、なんだ、そのふざけた踊りと歌は!何も起こらんではないか!?」


 1分後、焦りと不安の入り混じった声を出すシルフォード。

 ウララ、早く来てくれ!

 心の中で必死に念願しながら俺は軽妙なステップを踏み続ける俺なのだった。


 ごぽごぽごぽ・・・


「おおっ!?現れるぞ!」


 俺の願いが届いたのかわからんが、泉から気泡が湧き始める。

 気づけば目の前には光り輝く女神様が現れるではないか!

 

 その頭部にはウララと同じようなケモミミが見える。髪の毛はウララ以上に銀色でまるで星の光のように光り輝いている。

 これが銀狐様なのか!?


 大昔の人のはずだが生きているのだろうか。

 体から光を放っており、非常に美しい。

 この世のものとも思えないその姿に、俺はしばし見惚れてしまうのだった。


「わはは!よくやったぞ、ウララ!さぁ、銀狐様、私が次の王となるシルフォードですぞ」


 シルフォードは笑いながら銀狐のほうに駆け寄っていく。

 その手には青い宝石の指輪が握られている。

 やばいぞ、ウララが到着しないうちに王位継承の儀式が始まってしまうではないか。


「ほほう、泉のほとりでわしの子によく似たものがおると思ったら……。お前のしわざか、ヘルムート、久方ぶりじゃのぉ。お前は相変わらず死ねないようだな」


「は、はぁ?ヘルムート?」


  銀狐の女神様はシルフォードに目もくれず、俺のほうにすいーっとやってくる。

  やけに馴れ馴れしいのだが、俺は完全に初対面なんですけど。

  しかも、あろうことか俺の正体までばらすなんて!


「わしと遊ぶためにここにきたのか?しかし、悪ふざけがすぎるのぉ?わしはおぬしの目つきの悪い顔のほうが好きじゃぞ?」


「うわっ!?」

 

 女神様がそういい終わると、あたりに猛烈な風が吹きあれる。

 吹き飛ばされるわけじゃないけど、髪の毛がばさばさっと音を立てる。


「な、なんだ、貴様は!? 貴様がウララに化けていたというのか!」


 隣には激昂するシルフォードがいて、俺を指さしてわめいている。


「え?うっそぉ……まじかよ、これ」


 恐る恐る水面を覗き込むと最悪の事態が発生していた。

 俺の顔が元に戻っているのだ。

 どうやら女神さまに術を解かれてしまったらしいけど、何なんだよ、銀狐様!


 いや、待てよ。

 冷静に考えろ。

 今は女神様を批判している場合じゃないだろ!


「くそっ!」


 俺はシルフォードから指輪を奪おうと、勢いよく飛びかかる。

 だが、体に力が入らない!?足も鉛のように重い!?

 悪いことは重なるもので、右腕が赤く点滅しているではないか。

 ちっくしょう、こんなところでマナが切れてしまったのかよ!?


「すまんな、さすがにここでお前を逃がしてやる道理はないんだぜ?」


「ぐぐっ……」


 俺はなすすべもないまま、勇者のお姉さん、ハイジ・ゼニガタの縄にぐるぐる巻きにされる。

 体をねじって抜け出そうとするも、そのたびに締め付けが強くなる。


「……ヘルムート、おとなしく白状しろ。ウララ様どこにやったんだ?」


 ハイジの奴はそういって、俺の手足をぎゅうっと締め付ける。

 縄が食い込むと骨がきしみ、全身に激痛が走る。ぐぅっ、呼吸すら厳しいぞ、こりゃ。


 「ウララに化けるとは身の程知らずの愚か者の変態め!わはははは」


 悲鳴を上げる俺を見てシルフォードは手下の奴隷商人たちと大笑いするのだった。

 そんな中、俺の耳元で「ちょっと待ってろ」とささやく声が聞こえる。その声はハイジの声だとわかる。だが、待ってろってどういうことだ?


「ええい、尋問など生温い!高貴なる王族の聖なる儀式を妨げた、この男を殺せ!」


 シルフォードが叫ぶと、大きな剣を携えた大男が俺のもとへとやってくる。

 嘘偽りなく、俺をこの場所で始末するつもりらしい。


 ……さすがに、まずくね?



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