第27話 女たちピローバトル
「はぁ……、明日は大丈夫かしら……」
「ウララ、どうしたのだ?まだ寝ないのだ?」
「エル兄ならうまくやってくれるって。抜けてるけど天才肌なんだから」
フレイヤとイル、そしてウララは同じ部屋に寝ることにした。
ヘルムートの村が敵に襲われることを危惧したためだ。フレイヤとイルの二人がいれば鬼に金棒だと考えたのだ。
しかし、ウララは寝付けなかった。
明日になればシルビアの未来を決める王位継承の儀式が行われる。
当然、ウララが大きな役割を果たすことになっている。彼女はその重責を今更ながら噛みしめていたのだ。
「エルのことは信頼してるもの。私だって大丈夫だって思ってるわ……」
ウララはベッドに座った姿勢で枕を抱いたまま話し始める。
その顔には不安と恐れが入り混じった感情が現れていた。
「だけど……怖いの。もし、私が失敗したらどうしようって」
ばふっと枕に顔を打ち付けて不安を吐露する。
いつもは強気なウララがそんな顔をしているのは珍しい。
イルとフレイヤはその様子を眺めると、にやっと笑うのだった。
「いつもは偉そうなこと言ってるくせに本番に弱い人だったんだぁ?」
イルが小馬鹿にした声を出す。
「にゃはは、ウララはいざという時に泣いちゃうお子様なのだ」
フレイヤもそれに続けてウララを茶化す。
「何よ!人の気も知らないで!」
ばふっとウララの投げた枕がイルにあたる。
それが枕投げ開始の合図だったらしい。
三人はそれから数十分にわたって枕をお互いにぶつけ合うのだった。
特にフレイヤとイルの投げ合いは壮絶なもので、仕合といっても差し支えないものだった。
ウララは持ち前の頭脳を駆使したフェイントプレーで二人をかく乱。当てた回数ではウララが一番多かった。次点は猛烈な剛速まくらを投げるフレイヤである。
「あー、楽しかったのだ、すっきりしたのだ」
「次は負けないからね、あんたたち……」
フレイヤとイルとウララはぜぇぜぇ言いながらベッドに大の字になる。
生まれて初めての枕投げを体験したウララもぐったりした様子だ。
それでも、彼女の口元には笑みが浮かべられていた。
緊張でガチガチになっていた自分の心を二人が解きほぐしてくれたのを感じる。
自分には一生無縁だと思っていた『友達』とか『仲間』という言葉が心の中に浮かんでくる。
たとえ、一時の幻想だとしても、ウララは一生の思い出になったと思うのだった。
「次も私が勝つからね」
ウララは少し小さな声で二人にそう伝える。それは王女としての言葉というより、一人の少女としての言葉だった。それを察したのか、イルとフレイヤはにまぁっと笑顔を浮かべる。
「次は負けないのだ、友達とはいえ手加減しないのだ」
フレイヤは屈託のない笑みを浮かべてウララに抱き着く。
「って、あんたはいつから友達になったのよ!?……まぁ、友達っていえば、友達ね」
距離感の近すぎるフレイヤに苦言を呈しながらも、イルは友達であることには同意する。
「そうだ!次はエル殿も一緒がいいのだ。あたしとエル殿が最強悪職チームを組むのだ」
「はぁ?どう考えても、ヘルムート兄妹VSその他寄せ集めチームでしょ?」
「シルビアの法令に従ってエルは私がもらうわ。私が法律よ!」
ウララがまとめると、三人はすぐさま大笑いするのだった。
出会ってから数日の仲なのだが、まるで姉妹のように強い絆ができつつある三人だった。
明日は王位継承の儀式が行われる。
ウララはベッドの中に潜り込み、大きく息を吐いた。
「ふふふ、ウララが一人じゃ眠れないみたいだから一緒に寝てあげるのだ!」
「ちょっと、フレイヤ!?」
「いいね、それ、ベッドをつなげちゃえ!」
「イルまで!?」
フレイヤはウララの心をしっかりほぐしてあげたいと思ったらしく、ベッドの中にまで侵入してくる。普段は斜めな態度をきどっているイルも面白いと思ったのかそれに便乗する。
「おやすみなさい……」
ウララは二人の柔らかい感触と甘い香りの中でゆっくりと目を閉じるのだった。
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