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第24話 ウララ(偽物)リターンズ


「くくくっ、ウララ王女、戻ってきたか!」

 

 セキレイさんに連れられて俺はシルビアにまで帰還する。

 時刻は夕方過ぎ。王宮には警備兵が多数配置されていた。

 大臣のシルフォードが俺たちを出迎える。その笑顔はひたすら下品だった。


「お久しぶりです。シルフォード様」


 俺はできるだけ喋らないことにしている。喋るときも小声だ。

 いくら声や顔を似せているからと言って、喋れば喋るほど粗は目立つ。それにこの変装術はマナを一気に消費するスキルなのだ。できるだけ早くこの姿を解除したい。


「ウララ王女、私に渡すものがあるのではないかな。お前がコソ泥に頼んで盗ませたものだ。 渡さないというのなら……」


 シルフォードは手を広げて指輪を要求し、後ろの方に目配せをした。


「お姉さま!セキレイ!」


 人相の悪い男に連れられてウララによく似た女の子が現れた。

 年は10歳かそこらだろう。


「ウルル様!」とセキレイさんが思わず声をあげる。

 そこにいたのはウララの妹のウルルという少女だった。かわいそうに、その瞳には涙が溢れていて今にも零れ落ちそうだ。

 シルフォードはにやりとして「早く渡せ」と語気を荒げる。


「お姉さま、ダメです!それはお母さまからもらった大事なものです!」


 男に制止させられているが、ウルルは大きな声で叫んだ。

 その声は泣き声交じりで、か弱い女の子を泣かせるなんて、なんて卑劣な奴だ!

 シルフォードへの怒りがこみ上げるが、今の俺にはどうすることもできない。


「これを……お返しします」


 うんざりしながら指輪をシルフォードの手のひらに置くのだった。


「ふははははは!これで終わりだ!わしがこのシルビアの王になるのだ!」


 シルフォードはのけ反って大笑いを始める。

 醜悪極まりない姿であり、蹴っ飛ばしてもぶん投げてもバチは当たらないだろう。

 しかし、ここで突発的な行動に出てはダメだ。


「明日の王位継承の儀式が終わったら、お前たちなど異国の地に追いやってくれる!」


 奴の高笑いが聞こえる中、俺たちはウルルちゃんと一緒に部屋へと戻されるのだった。


「まったく、やってらんねぇな……」


 ドアが閉まると俺はふぅっと溜息を吐く。

 あ、いけね、安心したせいか素の口調が出てしまった。


「お姉さま?」


 俺の独りごとを聞いていたウルルが驚いた顔をしている。

 妹をだまし続けることはできないだろうし、俺はウルルに本当のことを話すことにした。


「……実は俺はウララじゃないんだ」


「ひぇええ、びっくりしました!もしやとは思ったのですが、やっぱりお姉さまではなかったのですね!」


「え、わかってたの?」


「はい、一目見た時から香りが違いましたから。お姉さまは香水を少量しかつけません!」

 ……なるほど、香りか。

 獣人のウララ・ウルルの姉妹は嗅覚が発達しているのだろうか。


「ウルルさま、説明は私がさせていただきます」


 セキレイさんはそう言ってウルルに耳打ちをする。


「ふむふむ、なるほどです。へぇーえぇえ、そうなんですかぁ」


 彼女が相槌をうつ度に、狐の耳がぴくぴく動く。たいそうかわいらしく、ケモミミの良さを再確認する俺なのであった。


「しかしですよ、悪職のお兄様!指輪はどうなさるのですか?このままではシルフォードの叔父様が次の国王になってしまいます。本当はお姉さまが国王になるのがご神託のはずです」


 ウルルは小声で今後のことについて尋ねてくる。

 小さくてかわいらしいが、かなり利発なタイプらしい。


 俺は夜のうちに大臣から盗み出すことを伝えると、ウルルは「銀狐様のお仲間の盗賊英雄みたいですね!」と目を輝かせていう。もちろん、歴史に疎い俺はそんなの知らないのだが。


 ウルルと話していると、こんこんっとノックの音がする。

 誰かが来たようだ。


「ハイジ・ゼニガタです。王女様がお帰りになったと聞きまして、お目通りを……」


 俺はその声に聞き覚えがあった。

 この間、シルフォードの屋敷で対決した捕縛の勇者、ピンク髪のお姉さんの声だ。うっわぁ、今、一番会いたくない奴だな。


「エル様、どうされますか?勇者様に助けを求めるのもよいかと思いますが」


 セキレイさんが俺に耳打ちをする。

 残念ながら、あいつは大臣の手下なのだ。もちろん俺は横に首を振ろうとした。


「いいアイデアです!勇者様は困った人々の味方なのです!」


 しかし!


 子供特有の素直さというべきか無垢さというべきか、ウルルが勝手にドアを開いてしまう。


 俺は心の中で「のぉおおお!」と叫ぶも、そこにはピンク髪のお姉さまが立っているわけで、俺は必死に平静を装うことにした。


「勇者様! お久しぶりにございます!」


ウルルはドアの先にいた勇者にしがみつく。

 間近で見ると身長が高く、すらっとした印象の美女だった。

脚が長く、スタイルがいい。

この間はギラギラした武人って感じだったけど、今はそんなオーラはみじんもない。


「勇者様、ごきげんよう」


 俺は覚悟を決めてウララ仕込みの挨拶をする。


 ……お願いだ、ばれてくれるなよ!


「ウララ王女殿下に、ウルル王女殿下!お元気そうで何よりです」


「ありがとう。勇者様もお元気そうですね」


 ウララに言われた通りの角度で、会釈を返す。

 生きた心地がしなさすぎる!


「……ウララ様、つかぬ事をおききしますが、昨日の夜はどこにいらっしゃいましたか?」


「昨日の夜ですか……?」


 捕縛の勇者も馬鹿じゃないらしく、一番聞かれたくないことを聞いてくる。

 俺の背中に冷や汗がにじみ始める。


「ウララ様は私とウルルさま一緒に教会にて儀式のための浄化行を行っておりました」


 詰まった俺に代わって、セキレイさんが何とか助け船を出してくれる。

 俺は「身も心も清浄にしませんとね」と続けるのだが生きた心地がしない。

 数秒間の沈黙の後、勇者は「なるほど、そうですよね」とだけ言う。


「それでは王女様、私は警備がありますので失礼いたします」


 そういうと、勇者は扉を閉めていなくなってしまうのだった。

 ウルルは「勇者様に相談するのを忘れてた!」というが、なんとか制止する。

 部屋に滞在した時間は1分少々。それなのに何年か寿命が縮まる思いをしたぜ。

 俺は溜息を吐きながら変装術を解除して、がっくりとうな垂れる。


 あぁ、疲れた……。


「エル様、それでは私がマナチャージをさせていただきますね」


 俺の疲労を察したのか、セキレイさんは俺の右手を彼女の胸に押し当てる。


「すみません、本当に使えないやつで」


 手のひらに感じるマナの流れと、セキレイさんの温もり、柔らかさ。

 ウララから命じられているとはいえ、見ず知らずの俺にそこまでする義理はあるのだろうか。


「謝る必要はございません。エル様はシルビアの希望ですから。ご遠慮なさらず、いくらでもお使いください。お望みなら直でも大丈夫ですよ?」


 そういって彼女は俺の右手を自分の胸により強く押し当てるのだった。


「あうひぃいいいい、直は勘弁して下さぁあい……」


 クールな目つきで見つめられたままのマナチャージである。

 快感と恥ずかしさで変な声が出る。


「それってマナチャージですよね!私もさせて頂きます!」


 さらにはウルルが俺の腰に抱き着いてくる。

 ひぃいぃ、やめてくれ、ちょいとばかし犯罪の匂いもするし!

 俺はバタバタと体を動かすも、ウルルはむりやりしがみついてくる。

 おかげでマナは完膚なきまでに叩き込まれることになったのだった。


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