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第21話 ネバーギブアップ王女様


「いいわね、ウルル?セキレイの言いつけを聞いて、教会にじっとしているのよ?」


 これはウララが誘拐される数日前のこと。

 彼女は王都シルビアの郊外のとある村の教会に妹のウルルを連れていった。


「わかりました、お姉さま。しかし、1週間後の王位継承の儀式には連れていってくださいよ。お姉さまの一生に一度の晴れ舞台なのですから!」


 ウルルは姉のウララによく似た顔立ちだが、6歳も年下だ。

 まだまだ上背は低く、高い声かつ早口でまくし立てる。


「大丈夫、それまでには迎えに来るから。セキレイ、あとはよろしくね。くれぐれも見張りを怠らないようにお願い」


「ははっ、委細承知しました」


 ウララは護衛で世話係のセキレイにウルルのことを任せると、シルビアに戻るのだった。


◇◆◇


「おーい、ギル!お前んちの客人に用があるってよぉ?ハーフエルフなんだが、えんらくぼろぼろになってるぞ。門のほうにおるんだが」


 それはちょうど、俺が朝食を食べ終わった頃合いだった。

 村の門番をしているおじさんが俺の家に駆けこんでくる。

 この家の客人……っていうとウララかフレイヤのことだよな。

 フレイヤは肉をかじっている真っ最中であり、心当たりはなさそうだ。


「ハーフエルフですって!?」


 ウララはおじさんの言葉にピンときたらしく、村の門のほうに走っていった。

 冷静沈着な彼女にしては慌てすぎている。

 明らかに何かがあったらしい、俺たちも急いで追いかけるのだった。


「王女様!ウルルさまが連れ去られました!申し訳ございません!」

 

 行ってみると、村の門のところでハーフエルフの女性が叫んでいた。

 彼女はウララの下に土下座するような姿勢になって泣いている。


「なんですって!?相手はまさかシルフォード!?」


「……はい。シルフォードから言付けを受けています。ウルルさまの無事のためには、本日、夕方までに城にお戻りになるようにとのことです。もし、できない場合には命の保証はないと……。私がいながら誠に申し訳ございません!」


「シルフォードめ、あの男、なんて卑怯なのっ!せっかく宝石を取り戻したのに!」


 ウララはそういうと両手で顔を覆う。

 焦りと落胆、そして絶望が彼女の背中から漂ってきている。


「どうした、どうしたのだ?力仕事ならあたしがやるのだ!」


「なになに、新手の誘拐事件?金貨五枚で毎度ありなんだけど!」

 

 打ちひしがれているウララたちのところに、まったく緊張感のない二人が割って入ってくる。

 フレイヤに至ってはまだ肉をかじっている始末である。


「……取り乱して悪かったわね」


 ウララは観念したかのようにこちらを向いて、ふぅっと息を吐く。


「紹介しておくわ。うちのメイド長のセキレイよ。私たちの世話をメインにしてくれて、妹のウルルを預けていたんだけど……。今日の夜明け前に、妹がシルフォードに連れ去られたみたいで……」


 そして彼女は俺たちに詳しい事情を話し始める。

 片田舎の教会に預けていた妹が賊に連れ去られて人質になってしまったとのこと。

 今日中にウララが城に戻らなければ彼女の命に保証はないこと。

 さらに、ウララをかくまえば俺たちのヘルムートの村であるピッタ村に軍隊を使って攻め込んでくること。


「つまりは妹さんと、俺たちの村、二つが人質に取られたってことか……」

 

 口に出してみると絶望感がすごい。

 なんて卑劣な奴だ、あのやろう。

 宝石を盗み出すだけじゃなくて、フレイヤをけしかけてやればよかった。


「誠に申し訳ございません……。王女様ならびに皆様に多大なご迷惑をおかけして……」


「泣きたいのは私もいっしょよ!悪いのはあいつなんだから、あなたが謝ることじゃないわ」

 

 ウララはセキレイさんの肩を抱いて、これ以上の罪悪感を感じないように叱責する。

 やっぱり人の上に立つ器なんだなと俺は理解するのだった。


「あはは、ウララのくせにちょっと泣いているのだ!」


「まったく女狐の目にも涙だよねー」


 しかし、俺の隣には人の心の機微を理解しないのが二人いる。

 人の涙を無邪気に笑うフレイヤと斜めから批評するイル。

 お前らなぁ、絶対にこういう場面で言うべきことじゃないだろ。


「……あなたたち二人は黙ってなさい、毒漬けにするわよ?」


「「はい……」」


 実は頭に来ていたのか、ぎろりとにらむウララ。

 あまりの剣幕に震えながら返事をする二人なのであった。


「エル……、今までありがとう。昨日は命まで張ってもらったけど、私はこれでおいとまするわ」


 しばしの沈黙の後、ウララは少しだけ口元に笑みを浮かべてそういった。

 自分がここに滞在しているだけで妹の命は危険にさらされる。

 そればかりか、この村まで攻め落とされてしまう。

 この状況を危惧しての判断なのだろう。

 自分を差し出せば解決するとウララは考えているのだ。


「だけど、それって……お前はどうなるんだよっ!ウララの命こそ、どう考えても危ないだろ!」


 気づけばついつい荒っぽい口調になってしまうのだった。

 王女様を「お前」呼ばわりしたことでセキレイさんはびっくりしてたけど、俺はウララがこんなところで諦めるのは嫌だった。


「そんなこと言われてもしょうがないじゃない!このままじゃ私のせいで全部、めちゃくちゃになってしまうんだから。どうしろっていうのよっ!」


 ウララはウララで瞳から涙を流して俺に抗議する。

 俺は彼女の優しさも、責任感もわかっているつもりだ。

 自己犠牲の美談というのも嫌いじゃない。

 自分の身をささげて誰かを助けるっていうのは美しいとは思う。でも、それは他に選択肢がないからこそ美談になるわけで。


「まだ何の計画も話し合ってさえいないじゃないか!俺たちは盗賊英雄の仲間なんだろ?」


「エル……」


 ウララは俺の目をまっすぐに見つめる。

 その中には不安に押しつぶされそうだけど、まだ希望を捨てきれない強い意志を感じる。


「そうなのだ!諦めたら、そこで殺し合い終了なのだ!」


「フレイヤのくせにいいこと言うじゃん!」


「ふへへ、照れるのだ……。実は恩師の言葉なのだ」


 俺とウララの熱いドラマの裏で変に盛り上がる不謹慎二人組。

 フレイヤの恩師の言葉はやばすぎる。

 教師なら殺し合わない方がいいと教えるべきだろ。


「ありがとう、みんな、私のために死んでくれるっていうのね?」


「もちろんです、我らが王女様!」


 ウララは見当違いの方向に感激し、セキレイさんはそれを加速させる相槌を打つ。


「いや、別に死ぬ前提で作戦考えるわけじゃないからね?」


「大丈夫よ、死ぬのは一人だけで十分だわ」


「ちょっと待った、俺がその一人にカウントされてないか!?」


「大丈夫、あなたは殺しても死ななそうだもの」


 くすっと笑うウララ。

 持ち直したのはいいがブラックすぎるだろ、まったく。

 かくして俺たちは盗賊英雄の作戦会議第2回目を発足させるのだった。


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