第20話 宝石奪還大作戦 -失敗か成功か-
「ごめんなさい!私が足手まといになってしまって!」
シルビアの城壁を抜けて合流すると、ウララは自分の不甲斐なさに涙目になって謝る。
彼女は忍び込んだ当初こそ催眠ガスや麻痺毒で活躍したものの、後半は縛られてしまい身動きが取れなかったことを悔やんでいた。
「大丈夫なのだ、ウララはよくやったのだ!毒もかっこよかったのだ」
フレイヤはそう言ってウララの背中をポンポンと叩き、「おかげで気持ちよく暴れられたのだ!」と大笑いする。
彼女にとっては暴れられることだけが正しいことのようだ。
「でも今回の計画は失敗よ!?指輪は見つからなかったし、どうするのよぉ……」
ウララは泣きそうな顔をしてエルたちに抗議をする。
大臣の身柄を確保して盗み出すというのが当初の計画だったのだ。
しかし、実際には敵の主力とほぼ真正面からぶつかって、混戦に次ぐ混戦となってしまった。
捕縛の勇者や火炎剣のギルドマスターといった予想外の戦力に翻弄されてしまい、やるべきことができなかった。
「確かに、それを言われると弱いのだな。まぁ槍は戻ったのだし次も暴れればいいのだ……あれ?槍がないのだ!?屋敷に置いていてきてしまったのか!?」
フレイヤはウララを抱きかかえて逃走するときに槍を置いてきてしまったらしい。
「はわぁあ、あたしのバカバカ!」などと絶叫して地面に突っ伏す。続いて、「取りに帰るのだ!」と叫ぶので3人がかりでなんとか抑え込む。
「まぁ、今回は残念だったけど、次に頑張ろうでいいじゃん? エル兄、見てよ、この宝石、ドラゴンルビーだよ!」
そういってイルは目をキラキラとさせて今晩の戦利品を掲げる。
「イル、それは明らかにダメだろ!?」
「えー、最初のころ暇だったしさぁ、別にいいじゃん。大体、シルフォードって悪いやつなんでしょ。だったら経済的に追い詰めるのも必要なことじゃん?作戦のうちでしょ?」
悪びれる素振りもない妹にエルは大きなため息を吐くのだ。
やっぱり俺よりもこいつの方が盗賊に向いていると思う。
フレイヤとイルがいくら励ましてもウララの溜息は止まらない。
そんな中、エルはウララに小さくおいでおいでをする。
いつぞやの真似をしているようだ。
そして「左手の中指」とだけ呟いた。
「左手の中指?そんなところに何かあるわけ……、って、えぇええ!?」
ウララは思わず立ち止まり、大声を出す。
そこには青い宝石の指輪がはめられていたのだった。
指に吸い付くような感触から、ウララにはそれが本物であると直感する。
ケモ耳をぴぃんと立てて、ありえない、信じられないと繰り返すウララ。
「へへ、ウララのロープがほどけた時にこっそり返しといたんだ。その場で本物か聞こうと思ったけど。ウララが言ってた通り中指にぴったりだったんで、あぁ、これだろうって思ってさ」
それからエルはどうやって指輪を盗み出したかを説明する。
敵兵として偽装していたエルは逃走兵のふりをして大臣にぶつかり、指輪をすり替えていたのだ。
つまり、勝負は最初の時点で決まっていたのだった。
「エル!あなたって盗みの天才よ!すごい犯罪者だわ!」
「犯罪者って言われて褒められてもな。って、おい、ちょっと!!」
ウララは喜び余って俺に抱き着きついてくる。
あまりの勢いに地面に押し倒されるエルなのであった。
イルとフレイヤが引きはがすのに数分もかってしまうほどの喜びようだった。
◇◆◇
「くそっ、やられたっ!」
4人の賊が屋敷を出ていったのち、シルフォードは大声で叫ぶ。
肌身離さず身に着けていたはずの青い魔石の指輪がなくなり、代わりに安物の指輪がはまっていたのだ。
じっくりみれば一目瞭然なのだが、中庭にいた時には全く気が付かなった。
「そんなことは断じてあってはならんぞ!ウララめぇっ」
目を血走らせて机をどんっと拳で殴る。
このままでは明後日の儀式で自分の王位継承権が失われてしまう。
「あらあら、シルフォード様、おかわいそうに。対策を講じないといけませんねぇ……」
愛人であるテオドラはシルフォードの肌を優しくなでる。
そして、机の上の額縁を指さして笑うのだった。
「こうなったらウララ様の一番大事なものと引き換えにするのはどうでしょうか?」
テオドラの指し示す先には魔法絵画が飾られており、王族の十数人が笑顔で写っていた。
その中にはウララとその妹の姿も映し出されている。
「そうだ、これだ……!テオドラ、よくやったぞ」
起死回生の策を思い付いたシルフォードはぐふふふと腹黒い笑いを浮かべる。
権力にとりつかれた彼の瞳の中で、魔石灯の赤い炎がゆらりと揺れるのだった。
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