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第19話 宝石奪還大作戦 -四人の変態-


「勇者よ、鼠どもを捕まえよ!」


「シルフォード様ぁ、素敵ですぅ!」


 見まわすと、シルフォードは2階から顔を出し、文字通り高みの見物を決め込んでいた。その隣には褐色の肌をした金髪の美人がいて、奴の首に抱き着いている。


 くそっ、あの野郎、うらやまけしからん奴だ。


 ん……、あの人、こっちを見てる?

 一瞬だけであるが、褐色美人と目が合った気がする。いや、そんなわけないか。


「この縄、魔法武器なのか硬すぎる! こんなことなら生きてるナイフ持ってくればよかった!」


 ウララのロープは切れる見込みがないようだ。

 俺の体力じゃウララを担いで場外まで逃げるなんて真似はできそうにない。


「……あと、どうしてあたりが火の海になってるの?」


 気づいて見れば俺たちの周りが完全なる火の海になっていた。

 フレイヤが槍をぶん回して中庭の木々を伐採し、火炎剣のおっさんが炎を飛ばして引火させたせいだろう。


 ……なんちゅう邪悪なコンビネーションを見せてくれるんだ、お前たちは。


 炎の勢いは止まらない様子で、このままでは行動範囲が狭まるし、離脱するのも大変そうだ。

 こんなことなら鎮火のために水をアイテムボックスに入れておけばよかった。


「ガタカ、余計なことをするな!」


「見ろよ、ハイジ!今宵の火炎剣はひと味違うぞ!」


「そういう問題じゃないだろ!いったん、落ち着け!」


 勇者のお姉さんが火炎剣のおっさんに烈火のごとく怒って羽交い締めにしている。

 勇者VSギルドマスターの構図で仲間割れか何かなのだろうか。

 しかし、俺からすればボーナスタイム。

今のうちにウララのロープをほどいてしまおう。


『極意6:盗賊たるもの装備はいらぬ。身の回りの全てを利用せよ!』


 頭の中にいつぞやのじいさんの声が響き渡る。

しかも、極意その6。

 うーん、身の回りのものって言われても、もはや炎ぐらいしかないんだが。

 

……ん、待てよ!ロープに火を近づけたらどうだろうか?


 刃物にはめっぽう強くても、ひょっとしたら焼き切ることができるかもしれない。


「ウララ、じっとしててくれ」


 俺は火のついた木材の端切れを持ち、ウララのロープに近づけてみる。

 するとびっくり、ロープは簡単に焼き切れてしまうではないか!

 炎が弱点だったために、火炎剣のおっさんを毛嫌いしていたわけだ。


「エル兄、ほどけたよ!」


 一か所がほどけてしまえば後は簡単。

 イルは手先の器用さをいかしてウララの縄を速攻で解除する。

 縄はなにかと便利なものなので、俺はとりあえずアイテムボックスに入れておく。


「にゃはは!みんな温かそうなところにいるのだな!」


 そして、抜群にいいタイミングでフレイヤが俺たちのところに飛び込んでくる。

 例の魔獣の骨でできたヘルメットを着用しているため一瞬、化け物かと肝を冷やしたけれど。


「ふ、フレイヤ!?なんであんたそんなのかぶってるのよ!?」


「これをかぶると炎なんかへっちゃらなのだよ!すごい兜なのだ!この兜は我らが一族の神獣、ビビリキリ・ビリゾウム様の特殊な……」


 こんな時でも兜の説明を始めようとするフレイヤ。

 よっぽどご自慢の防具なのだろうが、その話は後だ。


「ウララも回収したし、フレイヤ、引くぞ!イルも退却だ!」


「えええぇ、今からあたしの大技で屋敷を破壊するところだったのにぃ。ドラゴアサルトっていうかっこいい技なのだぞ? せめて柱だけでも破壊させて欲しいのだ」


 残念な声をあげるフレイヤだが、俺たちは暴れるために来たわけじゃない。


「フレイヤ、ウララを抱っこしてイルと追いかけっこしてくれ!イルはフレイヤに負けるなよ!本気で逃げろ!」


 俺の腕力は弱い。

子供はともかく、大人のウララを抱きかかえたまま飛んだり跳ねたりはできないだろう。

そこでフレイヤにウララの運搬を頼むことにしたのだった。


「わかったけど、エル兄のマナ、切れかけてるじゃん。いったん入れとくからね?」


 見ると、確かに腕が赤い光で点滅している。

マナ切れが近いサインだったよな、これ。


「あたしも手伝うのだ!」


「私だって、縛られてばかりじゃいられないわ!」


 逃げろと言ってるのにこいつらは3人がかりで俺に抱き着いてくる。


「うぉっ、何も今じゃなくてもいいんだけどっ!?」


 無様に押し倒され、ほぼ強制的にマナを注入される俺なのであった。

 あのぉ、みなさん、胸を押し付けるスタイルは止めてもらえないかな。

嬉しいんだけど、戦闘中にこんな姿を見られたら変態確定だろ。


「……お前ら、戦いの最中に何をしている!?まさか全員そろって変態なのか?」


 炎の向こう側で勇者のお姉さんがいぶかしげな声をあげる。

 そりゃそうだろう、いきなり3人が俺に抱き着いて押し倒してるんだから。


「ばーか!マナをチャージしてるんだよ、年増の痛いピンク髪!」


お行儀悪くあっかんべーをするイル。うむ、大変、素直でよろしくない。


「なななな!?年増だと!?私はこう見えてもまだ23だ!」


 勇者のお姉さんは目を見張って怒りくるっている。

 だが、炎の壁が邪魔をしてロープを投げられないようだ。


「それじゃ、先に逃げるね!フレイヤ、追いかけっこだよ!」


「イルになんて負けないのだ!ウララ、あたしに捕まっておくのだ!」


「ちょ、ちょっと待ちなさい!あわわっ」


 イルとフレイヤは高い跳躍で炎の壁を突破。

その後は競い合うようにして中庭から抜け出していく。

ウララの悲鳴には同情するが何とかなると信じたい。

 よっし、あとは俺が離脱するだけだ。


「ウララ……だと!?おい、ヘルムート、今、運ばれていったのはウララ王女殿下なのか?」


 捕縛の勇者のお姉さんが俺の退路を断った状態で仁王立ちする。

 しかも、一番聞かれたくないことを俺に尋ねてくる。

 顔半分は布で隠していたのでバレるはずはないのだけど……。


「答えろ!」


 彼女の瞳からは強い意志を感じる。

勇者というぐらいだから正義の味方なのだろうか。

 いっそのこと本当のことを話すのはどうだろうか?

 シルフォードの野望について話したら協力者になってくれるだろうか?


「ゼニガタもガタカも、なにをやっとるんだ!盗賊なぞ殺してしまえ!凶悪犯だぞ!」


 しかし、俺の目論見は早くも崩れ去る。

 シルフォードが勇者のお姉さんにはっぱをかけるのだ。


「ちっ、話は留置場で聞かせてもらうぜ!喰らえ、大蛇縄(サーペントロープ)!」


 勇者のお姉さんが叫ぶと無数のロープが合わさり、巨大な蛇が生まれる。

 ご丁寧に叫び声まであげて、目の前に屹立するロープの大蛇。

細部までしっかり作り込まれていて、口をあけると不吉な舌がちろちろと踊る。

 

……なんて技を隠し持ってんだ、この姉ちゃんは!


「行けっ!死なない程度に縛り上げろ!」


 大蛇は俺に向かって大口を開ける。

 出口は完全にふさがれてるわけで、こいつをどうにかしないと作戦失敗となってしまう。

 相手は死なない程度なんていうが、こりゃ死ぬぞ、死ぬ、死んでしまう!


『極意7:盗んだものは親でも使え!』


 あの熱血じいさんの声が響く。

 いくら極意とはいえ、親なんか盗まないだろとツッコミたい気分だが、この声の伝えたいことはそういうことじゃない。

走りながら1秒ほど考えると、俺の中にあるアイデアが浮かぶ。


「お前も縄でも喰らってろ!」


 俺はアイテムボックスから先ほど回収した縄を取り出すと、大蛇をぐるぐる巻きしていく。

ぎっちぎちに縛り上げていと大蛇は声をあげて地面に突っ伏した。


「なっ!?なにをした!どうしてお前が私の縄を使える!?お前、その腕はまさか……?」


 捕縛の勇者のお姉さんは驚いて目を真ん丸にしている。

 だが、縄でぐるぐる巻きにするならだれでもできる。

別に難しいことでもないだろう。


「悪いけど、俺はもう行くぜ!」


 勇者の脇をすり抜けて出口へと向かってジャンプする。

 あとは死ぬ気で逃げるだけだ。


「何をしておる!早く殺せぇ!バカ者どものがぁああああ!」


 後方ではシルフォードの叫び声。

口汚く罵られるけど、今となっては小気味いい。

走って飛んで、また走る!

 俺は一気に建物から抜け出すのだった。


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