第15話 宝石奪還大作戦 -侵入準備-
「いくら勇者だからって、こんなのありかよ!?」
まさに絶対絶命の大ピンチ。
大臣の屋敷の中で見境なしに大暴れするフレイヤ、縛り上げられるウララ。敵に囲まれるイル。俺はというと、滝のようなロープに追われている。
俺は見積もりが甘かったことを後悔するのだった。
◇◆◇
さかのぼること数時間前のこと。
準備を終えた俺たちは村からシルビアの街に向かうことにした。
ウララが計画の首謀者、俺が盗みの実行犯、イルが監視と時間管理、フレイヤが戦闘要員という役割分担だ。
それぞれが持っている能力からしても、これが最適な配置だと思われた。
「やっぱり私も行くわ。だいたい、エルがどうやって青い宝石を本物だって見抜けるのよ?」
ウララが頬を膨らませて抗議をする。
彼女はどうやら作戦に参加する気満々だったらしい。
だが、ありえないだろう。
俺のジョブは盗賊で俊敏性・隠密性にたけている。
イルは暗殺者のジョブであるが、父親から盗賊の手ほどきも受けているので隠密行動ができる。
フレイヤは持ち前の腕っぷしで、もしもの時に役立ってくれるだろう。
「ウララは何もできないじゃん?せいぜい狐のしっぽでモフモフさせてくれるぐらいでしょ?」
イルがにやけた顔でウララを完全に馬鹿にする。
も、もふもふ、いいなぁ。
あの尻尾に顔をうずめたら、いかなる敵も戦意消失するだろう。
「そ、そ、そんな破廉恥なことするわけないでしょ!尻尾は決めた人にだけ預けるものなの!」
ウララは尻尾のことに触れられたのでカチンと来たのか顔が真っ赤だ。
言葉の最後のほうでは俺のほうをチラチラとみてきて、ばれたのかと一瞬怖くなる。
「それに私だって自分で自分の身ぐらい守れるもの。私の武器はこれよ!」
ウララが差し出したのは小型の瓶だった。中には青い液体が入っていて揺れている。
「これが武器?」
「毒よ、麻痺毒。1滴もあれば1時間は動けなくなるわ。エルが買い出してくれたものから作ったの」
彼女はくすくす笑いながら瓶を揺らす。
笑いごとじゃない毒だと思うぞ、それ。
「へぇえ、ウララって薬師だったの?王族がジョブを持ってるって意外」
何かに合点がいったのか、イルがウララのジョブを当てにいく。
薬師か、たしか薬を作るジョブだよな。戦闘職でないとは思ってたけど。
「そうよ、私たちシルビアの王家は代々、薬師の教育を受けるの。これも銀狐様以来の100年の伝統なのよ。ほら、歌にもなってるでしょ?」
そういうとウララはすぅっと大きく息を吸い込む。
あ、やばい、歌うつもりらしい。
「くーすりぃーのちぃからぁーでどぉくぅもはいじょぉお」
ウララはこの王国に伝わる童謡第二弾を歌い出す。
それを顔を引きつらせて眺めるイルと、手拍子をして喜ぶフレイヤ。
うーむ、果たして同行を認めてもいいものだろうか。
ウララは依頼主であり、王女であり、捕まってしまったら元も子もない。
「あたしは賛成だぞ! 毒を使うやつなど見たことないし、どうやって戦うか面白そうなのだ。ワクワクが止まらないのだ」
フレイヤはウララがどんな戦いぶりを見せるのかに関心が移っているようだ。
「うーん、まぁ、エル兄なら一人ぐらい守れるっしょ?ふふふ」
イルはそういってニンマリする。
ふーむ、何かとウララと対立するイルにしては珍しいと思ったら、その指先には金のリングが光っている。
……こいつ、買収されやがったな!?
「「「どうするの?」」」
三人の視線に気圧された俺は「……しょうがないか」と返事をするのだった。
確かに忍び込んで盗んで帰るだけならウララがいようと大丈夫かもしれない。
それに、間違った宝石を盗んだら後々の計画に大きく響く。
苦渋の決断ではあったけれど、俺は認めることにした。
「やった!」
ウララはぴょんと飛び跳ね、俺の腕に抱き着いてくる。
くふぅ、色々と柔らかいし、いい香りがする。
相変わらずスキンシップが大胆な王女様であり、相変わらず扱いに困る。
俺が焦っているに気づいたのか、「ちょっとあざといから!」とイルがウララを引きはがす。
さらには「戦いの前の抜け駆けは禁止なのだ!」とフレイヤも続く。
「くれぐれも勝手なことはしないでくれよ。基本的に戦闘はしない。宝石をとったらすぐに帰るからな!」
俺は三人に作戦のポリシーを伝えるが、お菓子を持っていくかについてきゃいきゃい言い合っていて話を聞いてる素振りもない。
今から嫌な予感がしまくる俺なのである。
「あ、エル兄、マナチャージしとかなきゃ! 昨日、魔獣使いと戦ってからっぽでしょ?」
いざ出発となった時にイルが大事なことを思い出す。
作戦では俺の「盗む」能力が前提になっている。
そのためにはマナをチャージしなきゃいけないのだった。
前回は刺激が多すぎて失神したから、今回はちょろっとだけでいいと伝える。
「ふふっ、私もやってあげるわ」
イルに続いて、ウララがにやにやしながら俺の手を取る。
イルが右手、ウララが左手、そして、きょとんとするフレイヤという構図だ。
「ふむ、二人して何をしてるのだ?」
「エル兄は私からマナをもらわないとスキルが発動できないの。ま、あんたはそこで指をくわえて待ってなさい。ウララも体力ないんだし、消耗するのはやめとけば?」
「あら、依頼主としてエルにマナを分け与えるのは当然の行為よ?年下娘は自重したら?」
その後、イルとウララの火花が再びバチバチと散り始める。
こいつらどうしていちいち対立するんだろうか。
「それじゃあ、エル兄、がつんと始めるからね」
「エル、ちゃんと私のマナを優先的に受け取るのよ?」
そして、二人は俺の手の平を胸の中央に置く。
両方の手のひらに柔らかな感覚、そこからじわじわと注入されるマナの流れ。
それに呼応するようにして光る俺の両腕。
今日のイルとウララは目をつぶっていて神々しい雰囲気だ。いつもは仲違いしがちだけど、二人の献身的な行動にただひたすら感謝する。
……もちろん、この非常にありがたい感触にも大感謝をささげたい。
「おぉっ、楽しそうなのだ!マナチャージなら母上様に習ったから、あたしも手伝ってあげるのだ!わがヴァルキリーは半魔の一族だし、マナが濃くて大変ねっていつも言われるのだ!」
そういうなり、フレイヤはがばっと俺の背中に抱きつく。
ぐぐにゅうっとものすごい何かが俺の背中へと突き刺さる。
それは柔らかさを伴った質量攻撃だった。
「ひょおうふぁあああ!?ふ」
当然、奇声をあげる俺である。
だって背中にはものすごく凶悪な圧がこれでもかと伝わってくるのだ。
イルとフレイヤのマナチャージに少しは慣れたと思っていたら俺が浅はかだった。
思わぬ伏兵、いや真打ち登場。
その圧力は筆舌しがたく、俺は思考力の95%を失う。
「ちょっとあんた、調整しないとダメだってば!調子に乗りすぎ、このうしちち女!」
「にしし、あたしのマナは有り余ってるし大丈夫なのだよ!全部、あげたっていいのだ」
「思わぬ強敵の出現だわ!?私も負けないんだから!」
数秒後、お約束のごとく、俺の視界はブラックアウト。
複数人でのマナチャージは非常に危険だと理解したのだった。
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