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第14話ー2 エンカウンター狂戦士

「……なんであなたがいるのかしら?」


「にゃはは!あたしも手伝うのだ。エル殿には人生をかけて御恩を返すと約束してるのだ」


「……そんなこと言われても、はいそうですかというわけにはいかないわ。これは国家がらみの陰謀なのよ? 食うか食われるか、毒殺するか毒殺されるかなのよ? まぁ、私のエルは受け入れてるけど」


「毒殺は受け入れてないけどな?」


「……とにかく、それぐらいシビアなんだから!そもそも、この子、腕は立つの?」


 ウララのいぶかしげな視線がフレイヤに注がれる。

 彼女は夕食に出た肉の串焼きを手に持ってきている。『夜食』だそうだが緊張感がまるでない。


「フレイヤの腕は保証する。今日の昼間もでかい狼2頭を相手に追い返したし。さっきもイルとナイフで遊んだ」


 正確にはフレイヤが俺の部屋で一緒に寝るとか言い出したので、イルがナイフを振り回して暴れ、それをフレイヤが素手で止めるという流れだった。

 イルとフレイヤの二人には二度と遊んでほしくない。巻き込まれて死ぬかと思った。


「ふうん、あの子とやりあうなんて、さすがは狂戦士ね。まぁ、エルに腕っぷしの立つ人を探してって言ってたのもあるし、フレイヤ、あなたはボディガード役よ」


「ふむふむ、わかったのだ。一生懸命に勤め上げるのだ。それにエル殿のことは、あたしが一生面倒を見てあげるのだ」


「……そこまでは言ってないわ。あくまであと数日間だけよ。そもそもエルの面倒はシルビア王国が責任をもってやってあげるわ、それこそ一生


 どういうわけか俺の面倒を見るとか、見ないとかで盛り上がるウララとフレイヤ。

 さらにはイルが「ちょっとぉ、エル兄の面倒は私が見るんですけど!」などと参戦してくる。

まさに泥沼の戦い。


「……俺は自分で自分の面倒ぐらい見切れるけどな?」


「あれぇ~、私にマナチャージされないとゾンビ以下のくせに、エル兄ったら強がってさぁ」


 俺は反論するもイルに即座に切り捨てられる。

 うぅ、その通りです、ごめんなさい。


「……それじゃ、これを見てほしいの」


 ウララはふぅとため息を吐くとテーブルの上にぴらっと大判の紙を広げる。

 かなり精巧に書かれた図で俺たち全員の視線は釘付けになるのだった。


「すごいな。今日、作ったのか?」


 それはシルフォードの屋敷の見取り図だった。

 親父に頼んで情報屋さんから入手してもらったとのことだ。

 彼女が「備えあれば患いなし」って言っていたのはこれのことだったのか。


「そうよ、さすがはヘルムートの内偵ね。シルフォードはこの屋敷のどこかに宝石を隠している可能性が高いわ。エルはどこが怪しいと思う?」


 ウララに促されて見取り図をじっと眺めると不思議な感覚に襲われる。

 脳内に無数の侵入経路が現れて、最適な侵入パターンが割り出されていくのだ。

 昔から忍び込むための計画づくりは好きだったが、こんなことは初めてだ。


「……俺がシルフォードならここに隠すな」


 屋敷の中のある部屋を俺は指さす。

 もっとも安全で、もっとも盗み出しにくい場所はそう多くない。


「さすがはエル殿!よし、内臓抜きとかの殺人鬼が出てきたらあたしが護衛してあげるのだ」


 フレイヤは両手のこぶしをぐっと握って「やるぞ、やるのだぞ」と声をあげる。

 握りこぶしで張り切っている様子はかわいらしいが、彼女の力を知っている俺には「殺るぞ、殺るのだぞ」としか聞こえない。

 あと内臓抜きなんていう殺人鬼には絶対に会いたくない。


「大臣は私兵を抱え込んでるから、戦闘になるかもしれないわ。それでも大丈夫?」


 敵の本拠地にもぐりこんで、宝石を奪取しようというのだ。捕まればならず者として処刑される可能性は高いし、その場で切り捨てられることもありうる。ウララが不安そうな顔をするのも無理はなかった。


「大丈夫。こっちのルートはきっと手薄だろうし。できるだけ戦わないようにするから」


「えー、できるだけ戦わないなんてもったいないのだ。あ、素手は戦いに入らないとか?」


 戦闘を避けるという俺の作戦を聞くとフレイヤが渋い顔をする。


「入るに決まってるでしょ! 投げナイフとかシュリケンみたいな投げる武器は大丈夫だけど」


「なるほど!あたしも投げる武器を調達したいのだ!」


「どっちも入るからな!」


 素手だから暴れたことにならないなんてことはないし、投げナイフや手裏剣は立派な武器だ。イルもフレイヤも血の気が多いタイプなんだよな。

 今回みたいに隠密行動が必要な仕事の場合、暴れることは二の次なのだ。


「フレイヤ、これは暴れに行くんじゃないのよ? あくまでお宝を盗みに行くんだから」


「ぐむぅ……」


 ウララの注意に悔しそうな声を出すフレイヤなのであった。

 


 その後、夜遅くまで作戦会議は続き、最適なルートや不測の事態への対応など細部を詰めていく。敵の本拠地に乗り込むというのに緊張感はあるが悲壮感はない。

 部屋には笑い声と熱気がこもり、まるで遊びの計画のように大胆不敵な計画を立ていく。


「よし、ここであたしが正面突破なのだ。すかさず追っ手をやっつけるのだ」


「だから、戦う前提で作戦を立てるな!この暴れ女!」


「ウララ、イルがいじめるのだ。この子、小さい癖に未来の姉上に向かって生意気なのだよ」


「未来の姉上とか言うな!そもそも、私はあんたよりも背が高いでしょ!?」


「うむ、確かに身長は大きいのだな、身長は、な」


「……なによそれ、この露出狂女!」


 イルとフレイヤは特に気が合わないようで何度も追いかけっこをする。ウララは二人の様子をみて無邪気に大笑いして、お腹を押さえるのだった。

 俺はその時初めて、彼女も同世代の普通の女の子なんだと思うのだった。


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