第11話 襲撃モンスター
「誰か!助けてぇ!」
なんとかフレイヤの放つ死の抱擁から抜け出すと、耳をつんざくような叫び声が聞こえた。
まだまだ人通りの多い時間帯だ。人々は悲鳴の方角を振り向いて声をあげる。
「うそだろ!なんで街の中にモンスターが!」
「うわっ!こっち来るぞ!逃げろ」
モンスターという言葉が俺の耳にも入る。街中なのにおかしいぞ、あきらかに非常事態だ。
俺は野次馬根性を発揮して、騒ぎの方向に向かうことにした。
「フレイヤ、俺たちも行ってみようぜ!」
「心得たのだ!」
俺とフレイヤが到着するとびっくり仰天。
唸り声をあげる銀色の狼が現れているではないか。銀色の体毛を持つ狼、シルバーウルフだ。牛ぐらいの大きさで長い牙が特徴のモンスターでこいつは特に凶悪な面構えをしていた。
やつはどかっどかっとマーケットの露店を荒らしまわる。
あたりには破壊された商品が散乱し、人々が悲鳴をあげる。
「ぬぁあああ!わしの店のかたきだぁぁっ!」
ひげを生やしたおっさんが掃除用のモップをもって突っ込んでいく。だが、狼はひらりとかわし傷一つ与えられない。おっさんは地面に激突し、「腰がぁ」とうめき声をあげる。
「きゃあああ!助けてぇ!」
狼の背後からひときわ高い声が響いた。
みると狼の前に女の子が一人取り残されているではないか。
それはさっき俺たちが果物を買った女の子だった。
「ここから動けないの!助けて!」
女の子の足が倒壊した屋台の木材に挟まり、身動き取れない状態になっていた。
……まずい。このままじゃあの子は狼に食われてしまうぞ。
「おい、やばいぞ!」
「だけど、あのモンスターはCランクの化け物だぞ。腕が立たないと返り討ちにあうだけだ」
観客たちはがやがやと声を出すが、誰一人として救助に向かうものはいない。
ひるんでしまうのも当然の話で、一般市民じゃ奴のエサになるだけだ。
「くそっ!」
俺だってエサ予備軍なのは間違いない。
だけどこのまま彼女が食べられるのを見ていられるわけがない。
少しでも狼の注意を惹きつけて、女の子を助け出すしかない!
敵の攻撃を避け続ければ時間稼ぎにはなるだろうし、その間に衛兵がきてくれるはずだ。
「オオカミ野郎! こっちを見やがれ!」
俺は銀色の狼に大声で叫び、注意を引こうとする。しかし、狼は俺をちょっと見ただけで、再び少女のほうに向きなおり建物を壊し始める。俺に関心がないらしい。
「きゃあああ! 来ないで!」
少女の叫び声がより大きくなる。
その巨大な口は邪悪そのもの。女の子の胴体程度なら簡単に二等分できるだろう。
「間に合え!」
体全身の力を振り絞って、俺は一気に駆け出す。
あれ?
なんだ、この感覚!?
俺の視界に入ってきたのは、絶体絶命のピンチに悲鳴を上げる人々。
これから起こるであろう惨劇に顔を覆い隠す女性たち。
狼は俺が隣を走っているにもかかわらず気付くことさえない。
俺には今、すべてがゆっくりに見えているのだ。
「うぉおおお!」
とにもかくにも猛烈な勢いで女の子のところに走りこむ。
彼女の足をはさんでいた木材を蹴りあげ、体の自由を確保。
さらには彼女を抱え込んで、群衆のいる方に向かって地面を蹴る!
無我夢中で跳ぶと、街の片隅に高さ5メートルの放物線が描かれる。
「この子を頼んだぜ、おっさん!」
俺は腕の中に抱えた女の子をモップのおっさんに引き渡す。
わずか数秒の出来事だったけど、観衆たちは「うぉおお」と声をあげて沸き立つ。
……腕が復活してからというもの、すごくなってるぞ、この体。
自分が想像以上に動けることに俺はぞくぞくと快感を覚えるのだった。
自分が無力じゃないかもしれないって感じるのは、すごく、嬉しい。
お読みいただきありがとうございました!
今日はもう一話、更新します。
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