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第10話 買い出しフレイヤ

「にゃははー。そうか、あんたはお使いで街に来ていたのだな。この街の役人たちは大嫌いだが、今日はいいことがあったのだ」


 わけがわからん。


 いきなり殴りかかられ、目つきの悪いところがいいと言われ、いつの間にか腕を組まれて歩いているのだ。

 俺の腕には彼女の暴力的な胸の感触が伝わってくる。

 正直、まともに歩けない。


「……え、えーと役所で何かあったのか?」


「人探しのために役所に行ったのだが門前払いをされたのだ。あいつら、あたしみたいな悪職を人間扱いしないから大嫌いなのだ」


「確かに俺らみたいな悪職は大変だよな。俺も門番とか衛兵とか大嫌いだぜ、いばってるし」


「あたしたち狂戦士は悪職なだけじゃなくて半魔でもあるから無理からぬことだがな」


 フレイヤは寂しそうな瞳をして遠くを見つめる。

 俺たちみたいな盗賊や狂戦士なんかの職業は『悪職』と言われて差別されている。

 冒険者ギルドにも入れないため、いい仕事を見つけるのはけっこう難しい。

 中には生活するのが困難な人も多いらしい。


「でも、エル殿に女の子って言ってもらえただけで十分なのだ。社交辞令でも嬉しいぞっ!」


「ぐふひっ!?」


 フレイヤは俺の背中にばすんっと平手打ちを喰らわしてくる。

 のろけているつもりなのかもしれないが俺の肺から奇天烈な音が飛び出すのだった。


「そ、そうだ。俺は買い出しに来ていたんだった」


 今さらながらシルビアに来た理由を思い出す俺である。

 買い出しの依頼をまだ何一つ達成していないのだった。


「ふふふ、エル殿!あたしが荷物持ちをしてやるのだ。うまいトカゲ肉の恩義を返すのだ!」


 フレイヤは胸をずいっと自慢げに突き出し、胸を叩いてまかせなさいという。

 たぷんと揺れる二つの果実に目が釘付けになってしまう。

 それにしても荷物持ちか。レンガすら破壊する彼女だから力持ちなんだろう。手伝ってくれることは素直に嬉しいし、お願いしてみようかな。

 

「わかった。じゃあ、一緒に店を回ってくれよ」


「にゃははっ! りょーかいしたのだっ!」


 彼女は嬉しそうに笑って、ぴょんっとはねる。

 まさにこっちまで元気になる天真爛漫の笑顔だった。

 こうして俺とフレイヤはシルビアの街へと繰り出したのだった。


◇◆◇


「毎度ありー」


 フレイヤのおかげもあって買い出しは順調に進み、すべて完了してしまった。

 しかし、おかしいのだ。明らかにおかしいことが起きている。


「ふぅむ、恐れ入ったぞ。ものすごいアイテムボックスなのだな。どれぐらい入るのだ?」


 買いだしたものをその都度アイテムボックスにいれているのだが、いつまでたっても満杯にならないのだ。おかげで俺もフレイヤもいまだに手ぶらなのである。


「うぬぬ、これでは荷物持ちができないのだ!あたしもヴァルキリーの端くれ。きちんとお礼を返さなければならないのに。買い出しの途中にたくさん食べさせてもらったのだし!」


 そう、彼女は店に行く先々で露天に顔を突っ込み、犬みたいにはぁはぁいって欲しがるのだ。その顔はまさにお預けを食った状態であり、俺はついつい甘やかしてしまった。


 ……まぁ、でもかわいいから許す!無罪!


「荷物持ちがダメならナイフを片手に暴れる殺人鬼からエル殿を守ってあげたいのだな」


 口に手を当てて何やら考えていたと思えばそんなことを言うフレイヤ。

 物騒すぎるシチュエーション。できれば一生、そんな目にあいたくない。


「暴れる殺人鬼は出てこない方がいいな、うん……」


「だったら、激怒して口から炎を吐く巨人族でもいいのだ」


「それ……もっとひどくなってるだろ。わざわざ戦わなくていいぞ?」


「えー、戦闘なしで助けるなんてつまんないのだ」


 フレイヤは口をとがらせる。

 そのしぐさや表情はかわいらしいが、提案してくることは非常に物騒だ。


「……あの、お兄さん、くだもの、買いませんか?」


 振り返ると、7歳ぐらいの女の子が立っている。物売りをしているようだが、あんまり裕福には見えない。彼女は手に果物かごをもって、その中身を差し出してきた。


「くだもの、ね……。じゃ、2つもらうよ、これを」


「ありがとうございます!5ギリカです!」

 銅貨と引き換えにリンゴが二つ残される。

 女の子はお礼を言うと裏路地のほうに走って行った。


「フレイヤ、これでも食べようぜ」


「おぉ、りんごなのだな。わが一族のトカゲ神のフトアゴ様はりんごが大好物なのだぞ。年に一度の例祭の時にはりんごを薄くスライスしたものをパイにして食べるのだ」


 フレイヤは俺には使いようのない知識を話しながら、むしゃりむしゃりと食べ始める。皮などものともせず美味しそうに食べる姿は無邪気そのもので、頭をなでてあげたくなる。


 そういえば、俺はフレイヤについてあまり知らない。

 どういう経緯でシルビアに来ているのだろうか。


「そういえば、フレイヤはこの街に何しに来たんだ?」


「……エル殿だから言うが、わが一族の宝が盗まれたので探しているのだ」


「宝物?盗まれた?」


 あれ、どこかで聞いた話だぞ。

 青い宝石じゃないことを祈ろう。


「うむ、わが一族の秘剣なのだ。それは大地を割り、氷河を砕く武器なのだ」


「なんかすげぇな……。それを探して一人旅をしてるのか?」


「うむ。路銀がつきて賊でも襲おうかなと思ったときにエル殿が現れたのだ!まさに命の恩人なのだよ!」


 フレイヤはそういと俺の腕に嬉しそうにしがみついてくる。

 なるほど行き倒れそうになっていたところを俺が助けた状況だったのか。

 しかし、あの時、走り出さなかったら、あの痴漢どもは八つ裂きにされていただろうな。


「にゃはは、一族の宝を見つけ終わったら、あたしの一生をかけてご恩を返すのだ」


 サンドイッチ程度に重すぎることをいいながら、フレイヤはスキップして楽しそうに歩く。しかし、数歩だけ進むと立ち止まって「あれ?」とつぶやいた。


「……エル殿、あたしの、や、や、槍を見なかったか?命より大事な先祖伝来の槍なのだ。あたしの背丈と同じぐらい大きいものだぞ」


「槍は見てないなぁ。っていうか、最初から持ってたっけ?それが一族の宝なのか?」


 フレイヤは「違うのだ。あくまで私の武器なのだ」という。彼女の顔は真っ青で時間が止まったように宙を眺めている。相当大事なものらしい。


「ああああああ!やってしまったのだ!これで1週間ぶり通算35回目の紛失事件の発生なのだ!命より大事な槍なのに、どうしていっつもどこかに行ってしまうのだぁ!?」


 悲鳴を上げながら頭を抱えてしゃがみ込むフレイヤ。

命より大事な槍をなくすのが得意らしい……。


「うぐ、えぐ、おぐ、おかげでまた素手で悪党をしばかなきゃいけないのだ。素手じゃ手加減できないから、最悪殺してお尋ね者になるかもしれないのだ」


 フレイヤはそのままえぐえぐと物騒な嗚咽を漏らし始めるので、見かねた俺は彼女の背中をさする。「見つけるの手伝うから泣くなってば」と励ますことにする。


「エル殿、恩に着るのだ!ますます大恩人なのだ!」


 大喜びしたフレイヤは俺にがばっと抱き着いてくる。


「うぐひぃっ!?大恩人にはこんなことしない!?」


 彼女の怪力と凶悪な胸の突起物によるサバ折りで俺は天国と地獄を往復する。

 結果、当然のごとく、意識は遠いかなたへと飛んでしまうのであった。


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