第8話 アイテムボックス買い出し
「今日の仕事なんだけど、買い出しに行ってくれる?」
次の日、俺は王女様、もといウララから買い出しの依頼を受ける。
目的地は王都シルビア。
俺らのいるピッタ村からは林道を歩いて2時間程度の距離にある大きめの都市だ。
それにしても数日しか猶予がないっていうのに買い出しとは悠長だな。
「のんびりしてて大丈夫なのか?」と聞くと「何事も準備が肝心なのよ」とウララは返す。
備えあれば患いなし、らしい。なるほど、そんなものだろうか。
身支度を終えた俺はウララに出発の挨拶をする。
「エル、……あなたに銀狐様の加護がありますように」
彼女の部屋を出る間際、ウララは俺の手の甲に軽く口づけをしてくれる。
手の甲に感じる柔らかな感触!ふわっと花のような香りがした。
幸運を祈る挨拶だってわかっているけどノックアウト寸前になる。
うっひぃ、顔から火が出そうだ。
どたんっ!
「エル兄、パパが呼んでるんだけど!って、あんたら何やってんのよ!」
そして、絶好のタイミングにこそ入ってくるのが、わが妹だ。
俺とウララのロマンチックな場面をいとも簡単に引き裂き、ぎゃーぎゃーわめく。
「ふふっ、焦っちゃってかわいらしいわね。これだからお子様は困っちゃうわ」
ウララはクールな雰囲気があるから意地悪な顔がよく似合う。
とはいえ、イルを無用に挑発するなっての!
「この女狐!そっちがその気なら、こっちも徹底的にやってやるし。エル兄、出発前にマナチャージするよ!」
何かが彼女の心に火をつけたのだろう。
イルは俺の手をがばっと掴み上げ、彼女の胸の中央に置く。
ふにっと尊い感触が俺の手に広がる。
……あのぉ、勢いが良すぎるんですけど!?
「な、何よそれ!? あなたたち仮にも兄妹なのに、破廉恥すぎるわよ!?」
「ふん、エル兄はね、こうやってマナをチャージしないとだめなの。依頼主だから、エル兄の秘密を教えておいてあげようかな。実は……」
イルはウララに耳打ちをして、何かをごにょごにょ言っている。
おそらくは俺の右腕について話しているのだろう。
「じゃあ、エルの右腕はほとんど魔道具だっていうの? 普通に動いてるのに?」
「そうよ。魔女が作った特製の義手なんだからね」
「そ、それにしても、私の知ってるマナチャージとはやり方が違うんだけど。普通は手をつないだりしてマナを渡すものじゃないの?」
イルはウララから激しいツッコミを喰らう。
「これが、魔女直伝のやり方なの! まぁ、私とエル兄は切っても切れない絆があるから、一番効率がいい方法をやってるだけなんですけど? 尻尾娘は黙ってみてれば?」
「尻尾娘ですって!? ぐぬぬ……小娘が……言わせておけば……」
悪役のように勝ち誇るイル、同じく悪役っぽいことを言うウララ。
まさに女の戦いが勃発しやがっている。
……どっちも悪役だけど。
「何よ、それぐらい!私だってできるわ!は、恥ずかしくなんかないんだからっ!」
「ひぃいい!?」
ウララは俺の左手をぐいと掴み、彼女の胸の中央に勢いよく押し当てる。
やはり当て方が乱暴で尊い場所にも手が当たり、柔らかさと弾力の競演が始まる。
……やばいぞ、これは本当にやばい。
さらにはマナが急激に流れてくるせいか、頭がくらくらとしてきた。
「ふふふっ、大きさは私の方が上よ!この勝負、絶対に勝ったわ!」
「甘いし!長年の経験っていうのがあるんだから!あ、相性が大事なんだっていうし……」
二人は俺の両手を押し当てたまま離さない。
俺の頭はがんがんと痛み出し、しまいには目の前の景色がぼやけていく……。
そして、限界を迎えた俺の視界は一気に暗くなり、俺は膝から崩れ落ちるのだった。
「って、エル!?」
「エル兄!?」
気づいた時には二人が驚いて覗き込んでいた。
気絶していたらしいがマナを入れすぎるのも考えものだな、こりゃ。
◇◆◇
「シルビアの街に行くのなら、うちの買い出しの仕事もやってみるか?」
「あぁ、リハビリがてら今日は一人でやってみる」
家を出ていくタイミングで、親父から家の仕事の依頼を受ける。勘を取り戻す意味でも、俺は一人で仕事をこなすことにした。
「買い出しのリストはこれだ。この革袋にはウララ様の分の金も入っているぞ。弁当も持っていくがいい」
親父から受け取った革袋はずっしりと重く、かなりの金額が入っているのがわかる。
弁当箱には親父お手製のサンドイッチが入っているとのこと、美味しそうだ。
「金はしっかりとアイテムボックスにいれておけよ。盗賊が盗まれたら話にならんぞ!」
「あいよ、わかってるってば」
俺は笑いながら受け取ったものをアイテムボックスに入れる。
アイテムボックスとは手に入れたものを収納する能力の一つだ。
なかなか珍しいスキルで行商人や冒険者になるなら重宝されるらしい。
俺だって昔は使えなかったのだが右腕の義手を移植されることで開花した。ひょっとしたら、この右腕特有の能力なのかもしれない。
使い方はすごく簡単で、アイテムボックスに入れたいものを手にもって念じるだけ。
例えば「金貨、入れ」と念じると、手の上の金貨が一瞬にして消えて格納される。
ワイン一樽ぐらいの量を入れられたはずだ。
「さぁ、行った、行った!遅くなる前に帰って来いよ!」
親父は景気づけのつもりなのか、俺の背中をばしんと叩く。
その衝撃に相変わらず呼吸が止まる俺なのであった。
お読みいただきありがとうございました!
本日はあともう一話更新します。
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