第7話 協力者ファミリー
「話は聞かせてもらったわ! ……って、二人とも顔が赤くない!?」
ばんっと扉が開かれてイルが現れる。
明らかに何かを察した表情である。
うーむ、王女様に抱き着かれたとは口が裂けても言えない……。
「イル、この人、王女様! 頭が高いってば」
「いいじゃん、別に。依頼人と実行犯は対等なのがうちのスタイルでしょ」
たじろぐ俺などものともせずにイルはずんずん入ってくる。
本当にこいつは物怖じしない性格だよな。ちょっとうらやましいぐらいだ。
「私も参加する! 私だってジョブはアサシンだし、エル兄の足手まといにはならないから。それに王女様、エル兄を一本釣りしようだなんて甘いからね。言っとくけど、私とエル兄の血はつながってないんだから!」
予想通り、王女の前でもまくしたてる我が妹なのであった。
確かに俺とイルには血縁が一切ない。髪の色も顔立ちも全然違う。というか、俺たちは家族4人とも髪の色は違うんだけどな。
「ふふ、甘いわね、お嬢ちゃん。権力者には権力者なりの戦い方があるのよ?」
王女様はにやっとズルい顔になる。クールビューティな顔立ちなのですごくよく似合う。
それにしても、権力者なりの戦い方だと?
なんてブラックな言い回し。
権力をかさに着てどんな暴挙に出るというのだ!?
「これに勝てるかしら?」
テーブルに手をついて胸をぐいっと強調させる王女様。
ばいんと張り出したその膨らみに絶句する俺、そしてイル。
冷静に考えたら権力でもなんでもなく肉弾戦を挑んでいるのだが、イルには効果てきめんのようで「ぐぎぎ」とうめき声を漏らして表情を凍らせることに成功した。
「くっ、何さ、ちょっと大きいからって偉そうに! 私だって成長期だし、ここからママみたいにすごいことになるんだからね! もう、完全に零れ落ちそうになるからね!? こら、エル兄も顔を赤らめてんじゃないよ!」
方向違いの怒りによって、後頭部をばしっとはたかれる俺なのであった。
マナチャージの時はいい妹なんだが、それ以外はあたりが強い。
それにしても王女様のはきちんとしっかり大きいようだな、うん。
「がはは!わしも協力させてもらいますぞ! シルビアには太いパイプが欲しいですからな!」
さらには本日の盗み聞き第二号が現れる。
相変わらず声が大きく、自分の盗み聞きがバレたことさえ気にしていないらしい。
「親父まで混ざるの!? これは俺が受けた仕事なんだけど」
「王女様をかくまう場所や内偵も必要だろう? それに、お前がこの仕事を受けるってことは、村の命運をお前に託すってことでもある。ぬぉおお、血沸き肉躍るとはこのことだ!」
親父がいうことは至極もっともだった。
確かに王女様を連れまわして宝石を盗んだりなんかできないだろう。
「ふふ、役者は揃ったわね。じゃ、エル、改めてよろしく頼むわ。あと、これからはウララって呼び捨てでいいから。下手くそな敬語も丁寧語も不要よ、わかった?」
そう言って俺の額にデコピンを喰らわす王女様。
俺と話す時だけ目つきがちょっと意地悪になるのはなぜなのだろう。
「じゃ、ウララ、これからよろしくー。いっとくけど、エル兄に手を出したら、その首が地面に落ちるから」
「ふっ、依頼主の首を落としたら、依頼料が入らなくなるわよ?」
「あっ、それもそうか……! 依頼終わってからにしとく!」
たじろいでいる俺などお構いなしにイルは王女様との間合いを一気に縮める。
しかし、二人の会話がピリピリしてるのはどうしてなのか。仲良くしてほしいっす。
「エル、返事は?」
そして、王女様はにこっと笑って俺に聞くのだ。
その吹っ切れたような表情は胸のうちがすくような、すがすがしいものを感じさせた。
ええい、こうなったら仕方がない。俺も彼女のことを呼び捨てにすることに決めた。
「ウララ、きっちり仕事をさせてもまいやすよ」
「もまいやすよ?」
……くっ、噛んだ。
かっこつけて喋ったつもりなのに、モマって人を癒すみたいな言い回しになってしまった。
恥ずかしくて顔から火が出そう。
「あははは、噛んじゃってかわいい~。そう言うところがいいわよね」
「でしょでしょ! あんた、思ったより見る目があるじゃん!」
大笑いするウララ。そして、なぜかそれに思いっきり同調するイル。
とにもかくにも、美少女二人に笑われるのは非常にくすぐったいのであった。
◇◆◇ シルフォード大臣の私邸にて
「シルフォード大臣、王女が見つかりません!」
「ふん、王都の外に逃げられたか。まぁよい、あんな小娘など捨て置け!」
「了解いたしました。あと別件ですが、オズモ地区の立ち退きですがいかがいたしましょうか?」
「金に困った悪職でも使って貧乏人は退去させろ。あそこにはテオドラの屋敷を作るのだ」
「ははっ、仰せのままに!」
奴隷商人が去ると、シルフォードはゆったりとした椅子に腰かけ、青い宝石を見つめる。
これが手元にある以上、ウララが王位継承権を得ることはできない。
自分はただ5日後の王位継承の儀式に参加すればいいのだとほくそ笑むのだった。
「シルフォードさまぁ、シルビアの街がどんどん豊かになっていきますねぇ」
後ろからシルフォードの体に絡みつくのは、愛人のテオドラだ。彼女は今日も美しい肢体を惜しげもなくさらす服装をしている。
「もちろんだとも、テオドラよ。お前の言うとおり、ゾゾイの森を切り開くことでシルビアはもっともっと豊かな王国になるのだ」
シルフォードは野望を瞳に映して雄弁に語る。
シルフォードに膝枕をしたテオドラは子供を慈しむ母親のように微笑むのだった。
お読みいただきありがとうございました!
ブックマーク、評価を頂きました方、本当に光栄です。
「まぁまぁ面白かった!」
「続きが気になる!」
「作者、もっと頑張れ」
と思った方は、広告の下にある☆☆☆☆☆からの評価、ブックマークへの登録をお願いします!




