第6話 王女様の依頼-2
「だから、あなたに青い宝石を盗み出してほしいってわけ! あなたならできるわ、たぶん……」
俺の手を取って妙な懇願をしてくる王女様。
信じられないぐらいに整った顔立ちで、このままじゃ普通に押し切られそうだ。
鵜呑みにする前に彼女の言っていることをまとめてみよう。
彼女の盗まれた宝石には危険なモンスターが封印されている。
だから盗賊である俺に取り返してほしい。
……ふむ、単純に聞こえる話だけど腑に落ちないことがある。
「そういうのって王族直属の騎士とか衛兵が担当するんじゃないんですか? 普通に犯罪者を捕まえればいいんだし。俺みたいな半端物のやつには荷が重いと思うんですが……」
「ちっ……思ったより勘が鋭いわね。」
「ちって、あんた……」
「私が捕まったのはただの誘拐事件じゃないの。あのシルフォードが裏で糸を引いているの」
「シルフォード?なんかこういい感じの名前ですね、正義の味方みたいな」
「あんた、シルフォードも知らないの!?」
「知らないっすね……」
「あっきれた!シルフォードはこの国の大臣じゃない! 泣く子も黙る腐ったハゲデブ親父でしょ」
「知らないっすね。ほら、うちの村はほとんど独立しているので……」
残念ながら、俺はシルビアの国の政治に詳しくはない。俺の住んでいるピッタ村はシルビアにとっては治外法権みたいな地域だからだ。
俺の反応を見た王女様は「そっか、ヘルムートだもんね」などと相槌を打つ。
「とにかく、あの男はシルビアで奴隷の密貿易を行っている黒幕なのよ!密貿易で得たお金で騎士団から法廷まで買収して、シルビアを腐敗させてる元凶なの!」
王女様はシルフォードという男に相当強い敵意があるらしい、
ものすごい剣幕で説明してくれて、こっちまで何だか怒られている気分だ。
「早い話、シルフォードって人は根っからの悪人てやつなんですね」
「……実をいうとね、昔はそうでもなかったの。親族でもあるし、家族での交流もあったし。私のお母さまがなくなってお父様がご病気になったころからひどくなったのよ」
そういうと王女様は少し寂しそうな目をした。
きけば現在の国王である彼女の父親は病に倒れて立ち上がることもできないとのこと。その隙に私腹を肥やすなんて、シルフォードってやつは相当のワルだな。
「ま、今じゃ悪人だから手加減しなくていいわ。奴隷売買の目録を盗みに入った私を縛り上げるなんて、絶対に許さないんだから、あの男!」
悲しそうな瞳が一気に切り替わり、ぎりぎりと歯噛みをする王女様である。
いや、さすがに盗みに入ったやつを縛り上げるのは当然だと思うけどな?
しかし、それを言ったらうるさそうなので、ここはいったん、我慢しておく。
「しかし、どうしてその偉い人が裏で糸を引いてるんすか?」
「私が王位継承の第一候補だから……かな。先月の16歳の誕生日にご神託があったんだけど、そこで順位が入れ替わったの。早い話、私を消そうとしたのかしらね」
なるほど、シルフォードという人物は王女様に王位継承権を奪われたので恨んでいるのか。王女様を消そうとするなんて危なすぎる奴だ。
「シルビアって国はポーション作りしかできないけどいい国なの。でも、あんな奴が王様になっちゃったら絶対におかしくなっちゃう。お願い、私に協力して! あなたにしか頼めないの!」
王女様は目を潤ませて俺に懇願する。
自分の王国を守りたいって言う一心で俺みたいな治外法権の盗賊に声をかけたわけか。
「しかし、どうして俺なんですか? 俺は盗むことしかできないし、盗賊稼業しているのは他にもいるとは思いますけど。うちの親父とかどうですか?あぁ見えて、三ツ星盗賊なんですけど」
そうなのだ、別に俺に依頼を出すまでもない。
腕利きの盗賊がいいのなら親父や俺の親族、あるいは村の若い衆で十分だろう。
俺のおじさんもおばさんも腕は世界にとどろくほどすごいのだ。あんまり村にいないけど。
「それは……」
そこまでいうと王女様は俺をじっと見つめる。
それから「王女としての、いや、女としての勘かな……?」と曖昧な返事をした。
「勘……って、あんた……」
明らかに怪しいぞ。裏に何か隠している気がする。
「銀狐一族に伝わる天性の勘ってやつよ。お願いだから、5日間だけちょうだい!5日後の王位継承の儀式までに宝石を取り戻してほしいの!もちろん、報酬もはずむわ!」
王女様は俺の手をもって懇願してくる。彼女の手は小さくて細い。
機械仕掛けの俺の手とは大違いだった。
それでもありったけの熱が込められていて、本気であることは間違いない。
「ちょっと考えさせてください……」
俺は腕組みをして考える。
彼女の依頼は危ない仕事であることは間違いない。
悪い大臣から盗むことに抵抗はないが、捕まったら命の保証はないだろう。
『極意8:迷ったときにはいばらの道を選ぶのが盗賊の生き方だ!』
自問自答のさなか、いつぞやのじいさんの声が頭の中にひびく。
8番目の極意だかなんだかわからんが、その声を聞くと不思議なことに俺の血は煮えたぎってくる。
確かに困った人を助けるのが義賊ってものだ。
盗賊職だからって悪人なわけじゃないし、俺は正しいことのために自分の能力を使いたいと思っていたのだ。
吹っ切れた俺は大きく息を吐く。
「……わかったよ、受けます。できるだけのことをしますよ」
「ありがとう!私のために死んでくれるなんて!」
「うぉっ!?し、死ぬとまでは言ってない……」
返事をすると王女様は勢い余って俺に抱き着いてくる。
胸元の柔らかな感触、花のような香り、華奢な体つきに言葉が出ない。
「あ、ご、ごめんなさい……」
「い、いえ……」
王女様は2秒ほど抱き着いていたが、我に返ったのか、ばばっと離れる。
部屋がもわっと温かくなり、妙な雰囲気になってしまった。
「実はもう一つお願いがあるの。腕の立つ人を集めて。……エルだけだと心もとないから」
「心もとなくて悪かったっすね。うーん、腕の立つ人って言われてもなぁ……」
「知り合いのうち一人ぐらいは物好きな人がいるかもしれないわよ?」
「自分で依頼を出しといて、物好きな人って自分で言わないでくださいよ。それじゃ俺が物好きな人みたいじゃないですか!」
「違うの? ……じゃ、命知らずならいいわね!?」
「もっとダメです!」
強そうな人と聞いた俺の脳裏には親父や妹の顔が浮かぶ。
だが、こんな国家がらみの陰謀に家族全体を巻き込むこともできない。
明らかに命のやり取りになるだろうし、身のふりを間違えれば村ごと消えるだろう。
自分が依頼を受けるのはいいとして、そうそう命知らずな協力者が現れるだろうか。
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