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花鬼~あざみの記憶~  作者: 光沢武
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五十七話・三つの方法

泥濘を踏みしめる様に歩く四鬼の姿に、鬼一は眉間に皺を寄せる。

劣勢のこの状況だ。その中で、満身創痍の四鬼が果たして、どれ程の戦力になると言うのか…


「鬼一、余計な事を考えるな。僕ならやれる。…但し、おまえがヘマをしなければの話だけどね。」


ボロボロの身で悪態を吐く四鬼の姿に、鬼一は考えるのを止めた。

どちらにせよ、劣勢なのは変わらない。

それならば、法月の事をよく知る四鬼の指示に従うのが上策だろう。


『そんな姿で旦那様と闘おうと言うのですか?無謀ですよ、四鬼様。ああ、そんな惨めな姿になってまで!可哀そうに!だから、もっと、もっと、惨めで滑稽な姿を私に見せて下さいな!』


「はつの言う通りだよ、四鬼。おまえの刀は砕かれた。刀の無いおまえでは私の相手は務まらない。三鬼の妖術にしろ、手の内が分かっている限り私には効かないよ。まして、頼みの鬼一の腕だって…ねえ?」


チラリと鬼一を一瞥した法月に、鬼一は「まあ、ごもっともな意見だな。」と肩を竦めた。

如何なる状況下でも相手と自分の力量を冷静に、正確に判断する事が出来るのは、鬼一が剣術家でもあり、兵法家でもある事の証だ。

だが…


「だからって、逃げ出したりしないから、安心してあんたは前に進みな!」


そう言って、鬼一が襲って来る傀儡を斬り捨てた

それを合図に四鬼が土を蹴り、法月に向かって一直線に駆けだした。

全ての傀儡を鬼一に任せ、疾風となった四鬼の体が一気に法月の懐に入り込む。


「…そんな体でよく動けるな。だが、素手のおまえに何が出来る?それとも、ここで三鬼と変わるか?」


「僕に何が出来るか、今、おまえに見せてやるよ!」


そう叫び、銀の瞳を細めた四鬼が右手を振るった。

指先から突如として現れた氷の矢が、はつである左腕に突き刺さる。

氷の矢が刺さったはつの腕が、指先から肘を通り肩まで凍ると、パリンと高い音を上げて粉々に砕けて散った。


「なっ!?」


『あああああああああああああっ!!私の、私の腕がっ!!』


「ああ、はつ!はつ!大丈夫だ。大丈夫だから、泣かないで。直ぐに元に戻してあげるよ。」


泣き叫ぶはつを慰める法月に、四鬼は「無駄だよ」と、その言葉を否定する。


「その氷は、おまえの血肉と骨の随所を凍らせた。異常な回復力を見せるおまえでも、最早、修復は不可能さ。」


右手だけでは無い、今や全身に冷気を纏わせた四鬼が、法月の黄金色を捉えた。

その姿に、法月は驚愕する。


「四鬼…、おまえ、妖術が…」


「ああ、使えるよ。」


「何故…」


「おまえが、昔、言ったんじゃないか。」


「何…?」


「僕の妖力を取り戻す方法さ。」


あの幼き日…三鬼と四鬼、法月で試行錯誤した日々で、法月の言った言葉。

法月はそれを思い出し「まさか…」と目を瞠った。





「四鬼の妖力を四鬼の魂に戻す方法だけど、考えられる方法は三つかな?」


「三つ?」


「そう、一つ目は三鬼が死ぬ事、二つ目は三鬼の魂がその存在が認識出来ない程に瀕死の状態になる事、」


『おいおいおいっ!!』


「三つ目は、四鬼の魂を深層の世に送って、三鬼の魂に宿る四鬼の妖力に、四鬼自身が触れる事かな。」


「僕自身が触れる?」


「ああ、僕と三鬼が四鬼を深層の世に送ってあげるから、四鬼はそこで自分の妖力を探すんだ。深層の世では僕達は、君を助けてあげられない。…それでも、やってみるかい?」


「うん!お願い、法月!」


『…俺にも、お願いしろよな。』





法月が思い出した事を確信した四鬼は、己の懐を開いて見せた。

そこにあるのは、一本の鍼。

但し、その鍼は四鬼の心の臓に深々と突き刺さっていた。


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