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  作者: くまくま
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緑山異聞

先ほどからぐちぐちと多恵の愚痴を聞いている。


こちらに来るのだったらまず私にいうべきだあろうとかお前さまが泊まる

宿は私が用意する準備はできておったのにとかそれに履物だってそうですよ、

私がお前さまに合うものを誂えて何ですか!こんな下品な浴衣など纏ってまぁ

ここは旅荘ですからね仕方ありませぬが、もう何をもたもたしておるんか、

ウチの旦那さまの着るものがないではないかい!

更藤に言って催促せねば! 小十や! 小十はおるかえ!


おれは苦笑しつつ

「多恵さん、そんなに興奮しなさんなよ」

ーなにを呑気たらしいことをお言いです! わっちはお前さまに心地よく過ごして

頂きたく思い、でもけしてお前さまへの不平では…

「そんな大汗かいてか? …まぁ湯でも使おうや」

ーそうですか、じゃ湯女の手配を

「なに言ってんだい多恵さん。おまいがおれの湯女だろ。一緒に浸かろう」

ーえ…えぇ…

と言うと真っ赤に顔色を染め俯いた。


湯とだけ書かれた矢印を辿っていくと暖かい香りが満ちてきやがて脱衣所に出た。

大きな籠が積み重ねてあり、ここに着ているものを脱ぐようだ。

ちょろちょろと水の音がする。窓の外から竹筒が差し込んであり、ブリキの水槽に

落ちている。覗くとラムネの瓶が沈んでいた。


掛け湯をし巨大な檜風呂を浸かる。もうもうと立つ湯気の向こうに山麓が見える。

気持ちがいい。湯は柔らかくとろりとしている。思わず顔を洗うとしっとりするのが分かる。


からからと浴室の引き戸が開き静かに閉まった。


俺からは遠い端でしょぼしょぼと掛け湯をする音がする。

とぷん、と湯に入る音がする、と、湯がさざなみとても小さな声で多恵は

ーご一緒します

と言い、俺の顔の汗を手拭った。


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