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#7 / 婚約もまだ決まらない


その後、部屋の中まで送り届けて貰った。

闇の獣に関しては後で教えてもらうことにするとして、私はすぐに寝ることにした。

その次の日、学校に通った時のことだ。

「セシリア、昨日の夜は何もなかった?」

「夜、ないけれど。どうしたの?」

「いや。なんとなく聞いてみただけなんだけど。」

「何処か心配なのかしら。ロナは、婚約のことはどうするつもりなの?」

「え?」

「いつまでも保留するわけにはいかないじゃない?お互いの意見が成立すれば、貴方はある程度安泰だろうし。」

「いやいや、まだ早すぎるから。私にはまだそういうのは。」

「そう?」

「私はまだ他にやるべきことがあって、とにかく婚約がどうとかで考える余裕はないもの。」

「そう。」

「セシリアだって、貴方にはそういう婚約の話とかはないの?」

「分からないわね。というより、基本的にトワイライト家は募集すれば色々な家系からの婚約志望の人は出てくるから。」

「そ、それは凄いことだけど・・。」

「私みたいに軍人家系の血が強いと、むしろ怖がられてしまうんだけどね。もう少しいい人はいないかしら。」

「セシリアはどんな人が好みなの?」

「んー。私より背が高くて、強い人・・?」

それは一騎当千というか、ある一種の無双できる人みたいなタイプなんじゃないか。

そんな人がいればいいけれど。



街の中、アランは路地裏を移動してある場所に辿り着く。

そこにある小さな喫茶店に入り、ある客席のところに座った。

「時間通りだな。最近は仕事で寝不足になっているとは思っていたが。」

隣にいる背の高いデニスという名前の男性は、アランに対して封筒を渡した。

「お前に言われた通り、フアナ嬢の情報を整理しておいた。ただ、基本的にはもうすでにアランが知っていることばかりだとは思うが。」

「彼女とは昨日も会った。」

「そうか。でも話し合えなかっただろう?」

「そうだな。闇の獣を追うばかりで、俺のことは無視している。あそこまで眼中にないとなると、どう接していいかはわからない。」

「もう老人なのだから、隠居してくれてもいいとは思うだけどな。彼女によって闇の獣が早期に仕留められるのはありがたいが。」

「フアナは昔からああいった獣を仕留める仕事をしていたが。あれはベルエスカ家の血筋の本来の仕事なんだろうか。」

数百年前には、街の大部分で人間が獣に変化するという陰惨な事件があった。その事件で獣狩りのリーダーを務めていたのが、ベルエスカの当主だったらしい。

その血筋を持つフアナは今でも獣に関連する存在を狩るのは別に間違ったことではないが、問題はロナの方だった。

「フアナの孫であるロナは、別に彼女ほどの力を持っているわけでもない。フアナ自身も、彼女を戦わせる気もないだろう。」

「そのロナという子の婚約者にはならないのか?」

「それはまだ分からない。偶然彼女の父親から婚約の話を持ちかけられて、そしてロナに会ってみたのだが。彼女は獣狩りができるような少女には見えなかった。それは両親も同じで、フアナのような力の遺伝がない可能性はある。」

「つまり、魔力遺伝は行っていなかったのか。フアナは、自分の代でベルエスカを普遍的な魔術師の家系にしたいのか?」

「彼女の家の中に忍び込んで得た情報だが。彼女は別に力を断絶させたいわけでもないようだ。フアナが昔住んでいた部屋の中から、非常に奇妙なものを見つけたからな。全て外国の文字で書かれていたから、両親やロナは読めなかったのだろうけど。」

「どんな本なんだ?恥ずかしい本とかか?」

「そんな平和的なものではないな。というより、ロナ本人をフアナが疑っているようなものだったが。」

「疑ってるって。彼女は一応ベルエスカの長女だろう?」

「あの書類の内容から察するに、フアナはロナを何処か別の存在だと思い込んでいるようだが。その理由はわからない。ロナに聞いてもわからないと言われたが、この件に関しては後回しにしておいたほうがいいな。」

「色々と面倒な事件が続くな。闇の獣だけでも十分厄介だというのに。」

「もう一度フアナにあって、今度こそ完全に協力関係になれればいいが。」

「確か彼女は昔、狂王女とかいう仇名が付けられていた程度には乱暴だったんだろう?」

「彼女が活躍していた現場にも、彼女以上に厄介な人物は居たからね。フアナは半ばやり返しただけで、彼女が特別乱暴だったわけじゃない。まぁ、グルーウッドの件についてはやりすぎだとは思うけれど。あれも昔の話だ。」

「獣になりそうになった人間を、変身する前に皆殺しにした事件があったからそう呼ばれたんじゃなかったっけ?」

「獣化する病の毒素を持つ薬品を、井戸水に入れられていたから仕方がないな。フアナは当時から既に全身を毒素から守る服装を身につけていて、最初から殺す準備をしていた。彼女にとっては、狂っているのは敵の方なのだから。」

「ん、そうだっけ・・?」

デニスはそう物覚えが悪い方ではなかったが、その毒素を井戸水に入れられたのはフアナに対する復讐だと記憶している。

彼女が行った異端者の処刑は残酷であったために、彼女を復讐しようと決意した人間が居て・・。その人間もまたフアナによって殺戮されたはずだ。

彼女自身があまりにも強すぎるせいで、彼女を復讐できる人間が居ないというのは滑稽な話だが・・。

「その狂王女フアナは、自分の役目をただ果たしているだけだからな。彼女にとって獣狩りは使命であり、彼女の血統は多くの優秀な狩人の血が流れている。だから本来であれはロナにも彼女に近い力は感じられるはずなんだが。」

「そのロナという、フアナ様の孫には何も感じなかったのか。」

「人格的には普通の女の子という感じだ。フアナのように、噂に聞くような交戦的な態度は見られなかった。彼女の良心の方・・というより、フアナの娘であるレジーナからも何も感じなかったが。彼女の場合、魔力遺伝に失敗して肉体的には弱っている状態らしい。」

魔法の力の遺伝に関しては、親から子に自動的に流れるわけではない。同じような力は継承されるが、スキルや特殊な魔法の力は魔力遺伝と呼ばれる人工的な移植行為で継承されることになる。

レジーナの場合、その魔力遺伝に失敗したことにより肉体的なダメージを受けていた。

それほど、彼女の血統で生まれた特殊なスキルの継承は難しかったらしい。フアナは娘への継承を諦め、その力を孫へ託すことを選んだ。

というより、フアナは母になった後もまた現役であり続けていたようだ。

「問題は、なんでそのフアナ様が生きていることかなんだよな・・。」

「余程、闇の獣のことが好きだったのでは?」

「血生臭いなぁ。というか、そんな女性と結婚して子供を産む奴もいるんだな。」

「彼女は恋愛結婚だけどね。」

「・・・なんというか、現実って理不尽だよな。」

「フアナの若い頃の姿は、ロナと同じ程度に綺麗な見た目だよ。壁に飾られていた油絵に、その若い頃のフアナの絵があったのを見たから。」

「ふむ。で、どんな感じなんだ?見た目の態度としては。」

「ロナに比べると、あまり愛想がよくない顔でしたね。見た目はそっくりなんですが。」

「余程写実的に描いてあったんだろうな・・。何億ぐらいで売れるんだろう。」

「あれは写本だから、値段は分からないってロナは言っていたけど。」

「なんで?家族の油絵の写本が描かれるんだ?」

「さぁ。」

「全く。どういう家系なんだ・・。というより、獣狩りに関連する家系全体があり得ないんだよな。」

「トワイライト家のように、伝統的な騎士道を家訓にするような人たちの方が少なくなっているよ。銃器も、最新のものではプレートメイルを貫通できるようになっているからね。相手が魔法使いでもない限り、騎士の特攻を止められるぐらいにはできるよ。」

「それは凄いが。問題はそのトワイライト家も銃士隊とかいう兵隊を錬成しているんだろ?」

「今ではまだ実験段階だけれど。昔みたいに重装甲の鎧を着て沼にハマるような失態はしたくないみたいだから。近代兵器に予算をつぎ込んでいるみたいだ。最終的には、僕のような人間が出ていかなくても。闇の獣を打ち倒せるようにはなるんじゃないかな。」

「普通の平民でも、魔物を打ち倒す力は手に入る時代になったってことか?」

「平民とは言っても、計算能力や事務処理では別に問題ないからね。貴族は大義名分では上位の地位を保っているけれど。魔法の力だけでは誤魔化し切れない部分は出てきている。まぁ、今更そんな話をしていても仕方がないのだけれどね。」

現時点では、闇の獣に関する事件の捜索は序盤というところになっている。

過去に活躍していた狂王女フアナの謎の復活も合わせて、月食の下で行われる獣狩りがどういうものかはすぐに調べなければならない。

ロナとの婚約の件に関しては、そのあたりが終わってからでも別に問題はないだろう。

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