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#4 / 試合


放課後、私たちはセシリアが馬上槍試合を行うため観戦することにした。

彼女が試合を行う理由は、セシリアのライバルを自称するミレイユ・デュークが彼女に対し決闘を申し込んだ。

ミレイユがこれまでに彼女に対し決闘を行うのは初めてではない。

まず、ミレイユにはアルバートという幼なじみがいて彼女はアルバートに恋心を抱いていた。

しかし、アルバートは貴族でありながらもセシリアに対し愛の告白を行ったという。

セシリアはその告白を断ったので、無論彼女はアルバートとは結ばれなかった。

問題はその後だ。アルバートはセシリアに対し、パーティに誘おうとしたのだった。

何のパーティかは分からなかったが、そのパーティ招待状の手紙をアルバートから直接受け取ったという。

貴族であれは、人前で人の行為を断ることは難しいと考えたのだろう。

しかし、彼は甘かった。セシリアに存在する非情さは、私ですら凍えさせるほどの冷徹さを持っていた。

セシリアは、彼の目の前でその招待状を破いて地面に捨てる。そして、次にこう言ったのだった。

「次はもう少しマシな招待状をよこしてきなさい。誕生日のお祝いくらいには付き合ってあげるから。」

どうしてセシリアがこんなことを言ったのかは知らないが、その発言に怒りを感じたミレイユはセシリアに対し決闘を申し込んだ。

明らかにセシリアによるオーバーキルが悪いのだけれど、ミレイユとの決闘に圧勝してしまったセシリアは更に怒りを買うことになる。


決闘会場はとても広く、ジョストに適した間隔が取られている。

横に長いそのステージは、馬に乗った騎士同士がランスで衝突しあうのにはちょうどいい場所だった。

「ミレイユさんって、そんなにハルバートさんが好きだったのかな。」

「今はもう、恋心なんて関係ないと思う。」

私は恋心が原因かと思っていたが、チェルシーは違うと言っていた。

「何で?」

「だって。もはや試合に勝つことに固執してるじゃん?ミレイユ、ジョストの名手だったから。自分は絶対に勝てるって思っていたみたい。ハルバートがフラれたことよりも、自分が負けたことにショックだったとか。」

「なら、なんで何度も決闘を申し込むの?」

「うーん。騎士道精神?」

「えぇと。よく分からないんだけど。」

「私も。実はものすごく仲良いんじゃない?」

えぇと。チェルシーの言うことが当たっていたとして、このジョストに何か意味はあるんだろうか。


馬にまたがり、補助をしてくれる女子生徒からランスを受け取った。セシリアは今日も馬の調子がいいことを確認している。

「セシリア様、今日も頑張ってください。」

「少しはミレイユの心配ぐらいしてあげたら?」

「わ、私は。セシリア様が負ける姿を見たくないんです。」

「ファンになってくれるのは嬉しいけど。別に私は大会とかに出たりしないから。そんなに張り切らなくてもいいのだけれど。」

「大会に、出ない・・?」

「えぇ。私は私の道があるから。ミレイユと付き合っているのは、彼女の心を折らせたくないから。」

「ミレイユも確かに強いですが・・。」

「彼女は確かに強いけれど、試合向き出会って実践向きじゃないものね。」

本気でやったら、私は彼女を殺してしまう。

そう言い出したかったが、言わないでおいた。


試合が始まる。この試合は10点勝負になっており、ランスが鎧に直撃することで1点の点数が追加される。馬から落馬すれば3点、先に10点とった方が勝利するようになっている。

生身の人間が鎧を着ているとはいえ、走り出した馬は速い。

更に重いランスを相手に対し突き出すことになるため、直撃した時の衝撃は非常に重いものになるはずだ。

事故を起こせば、下手をすると相手が死んでしまう可能性は十分にある。

その可能性を消すことができるほど、プラーナや魔法の力が優れているのだろう。

私がその試合を見ている時は、正直どっちを応援したらいいのか分からなかった。

セシリアも親友だが、ミレイユからも以前親切にしてもらったことはある。

お互いに走り出した馬の速度は緩まない。明らかに手加減をしていないように見える。

衝突音が鳴った。セシリアのランスが勢いよくミレイユの鎧に直撃しているのははっきり見えている。

またもう一度、距離を取って走り出す。

ミレイユにとってこの戦いに執着するのは何なのだろうか。

アルバートに対する恋でなければ、だとするとセシリアに対して特別な感情を抱いている?

だとしても、こんなことをしなくてももっと別のもので勝負をすればいいのだが。

「っ・・!?」

外した。次の衝突の瞬間、二人の攻撃はお互いの鎧をかすったのだった。

「ミレイユのやつ、馬上でランスの攻撃避けたのか・・!?」

「なんて動体視力だ・・。」

男子生徒による言動から察するに、ミレイユはすれ違う時に回避行動を取ったのだろうか。

だとすると、ミレイユ側の攻撃が外れたのは、セシリアの攻撃を回避するためにバランスが崩れた・・?

「セシリア、どうしてあんなにジョストが上手いの?」

「ん。そうだね。父親の親戚にジョストを教えてもらっただけ。」

「だけって。でも・・。」

「公平な言い方をすると、ミレイユの方が体格が小さいから。どうしてもセシリアの方が有利になりやすいんじゃない?」

「セシリアも身長は167くらいだけど。」

ミレイユはおそらく162くらい、だろうか。セシリアが身長が高いだけで、そこまで差がつくわけでもない。

むしろ、彼女の攻撃を無理に回避できる方が凄い、のだろうか?

「セシリアって、やたら美意識高いから。コスチュームもかなり気合入ってるし。あの派手な甲冑も、見ようによってはミレイユの方が当てやすいんだけどね。」

「どう言うこと?」

「さぁ。」

さぁ、って。チェルシーがわからないことが私にわかるわけないじゃない。

そんな会話をしているうちに、ミレイユは一度セシリアに対し一点を取った。

「お、取れた。やるじゃんミレイユ。」

「セシリアの味方じゃなかったの?」

「以前彼女が完勝した時はさすがにミレイユが可愛そうだったから。」

そんなことを言っていいのだろうか。

私は頭の中でもやもやとした感情を持っていたが、ミレイユはセシリアにランスを当てられたのは一回のみだった。

最終的にミレイユは、落馬させられることで7点から10点へ加点させられる。

落馬した時の衝撃は明らかに強いはずだが、プラーナによる肉体強化もあるのか骨折どころか怪我もしていないようだ。


実際のところ、ミレイユもよく分かっていなかった。

最後、彼女はすれ違い様にミレイユを突き落とすつもりで突撃を試みた。

彼女の攻撃タイミングは熟知しているはずだ。プラーナを総動員すれば、馬の上から落とすぐらいのことはできる。

そう、思っていたのだが。その考えはどうも間違っていたようだ。

「また、勝てなかった・・・。」

「大丈夫?」

「セシリア・・。」

「えっと。これで私の勝ちね。」

「どうして貴方は、そんなに強いの?」

「私は目標があるから。私は弱くはなれない。」

「弱くなることを、許されてないの?」

「そんな感じかしらね。」

「・・・貴方の攻撃を避けられなかった。」

「そういうこともあるんじゃない?」

セシリアによる圧倒的な勝利により、そのジョストの試合は終わることになった。


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