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願い三部作  作者: 紗倉そら
1/3

日記

三部作の1作目です。ネタバレ防止のため、タグは少なめになっています。このサイトの形式になれていないので、不備があれば教えてください。

最後まで読んでいただけると嬉しいです。

【一日目】

 最近、とても不思議な夢を見る。

 わたしが住んでる世界とはまるで別物で、見たことのないような建物がいっぱい並んでて、見た事の無い服を着ている。現実に存在する人は誰も出てこなくて、知らない不思議な昼の街でただ一人でさまようだけ。それも、何日も続けて同じ夢。けど、すごく心が安らぐの。

 十五年生きてきてこんなことは初めてだから凄く新鮮で、この夢のことをもっと知りたいって思った。そのためには記録することから始めようと思って、この日記を書くことにした。朝起きてすぐに書いてるから、少し辛いけど。

 でも、ぼんやりとした風景しか覚えてないからあんまり書けることが無いや。何をしたのかもあやふやで、さっき「ただ一人でさまよう」って書いたけど、ほんとはもっと何かをしていたのかも。ぜんぜん思い出せないけど。

 あの安心感はなんなんだろう。あの夢の世界で暮らしたいな、なんて思っちゃったりもする。変だよね、ぼんやりした風景しか覚えてないし、ただフラフラさまよってただけだったのに。

 あの夢にはなにか運命みたいなものを感じる、なんてらしくないことを書いて今日は締めます。



【五日目】

 ここ数日ずっと夢に変化がなかったけど、今日ようやく変化が出てきた。

 夢の中をはっきりを思い出せるようになった。自由に動くことはできないし、やっぱり街の中をフラフラするだけなんだけど。でもこれは大きな変化だと思う。

 とりあえず、夢に出てきた街の様子を細かく書いていく。

 前も書いたけど私の住む街とはぜんぜん違ってて、物語に出てくるような場所なの。異世界っていうのかな? 大きくて変な形の建物がいっぱい並んでて、道も変な色の石……なのかな? そんな感じのもので覆われてた。その石の道にはよく分からない模様がたくさん入ってた。その道の上を、身体が勝手に進んで行くの。道の両側には木も生えてるんだけど、ぽつんぽつんとしか無かったな。

 歩いていると、当たり前だけど風景が変わった。急に大きな建物が無くなって、小さな二階建ての建物が出てきたの。形は現実世界の家とそっくりだから、あれは多分あの世界の家なんだと思う。そっくりなんだけどどこか変な感じがして、なんだろうなーって考えて気がついたの。色合いが全然違うんだ。なんだかよく分からないんだけど、家に使うような材質じゃなかった。これは他の建物にも言えるけど。でも、語彙力も表現力もまるで無いから上手く表せない。もどかしい……!

 でも、こんなにリアルな夢なのに人とは話さなかった。道を歩いている人はいるんだけど、なぜか話そうって気にならないし、自分で行きたいところにも行けないし……。

 けど、そんな自由がない状況なのにぜんぜん怖くないの。あの夢の世界でわたしは独りぼっちのはずなのに、まるでさみしくない。私を取り巻くのは安心感と充足感だけ。どうしてだかわからないけど、悪夢を見るよりずっといいな。

 この夢を見て目が覚めると、心が凄く安定しているのを感じる。一日を安らかに、幸せに過ごせるの。

 二週間くらい前にこの夢を見るようになる前は、朝起きるのが本当に嫌で、一日が始まるのが本当に辛かった。大変なことから逃げちゃダメだって昔から教わってきたけど、それも限界になっていたんだと思う。

 だからきっと、この夢は神様が用意してくれたわたしの心の支えなんだ。親友の存在でさえ癒しきれなくなっていたわたしの心を救ってくれる、たったひとつの場所なんだ。なんて、こんなこと考えてるのがバレたらレナに怒られちゃうかな? ひょっとしたら泣かせちゃうかもしれない。

 レナ。一番の親友で幼馴染。心の支え。わたしを一番理解してくれている人。それは間違いないんだけど、いつの間にか、レナの存在だけじゃわたしは大丈夫じゃなくなっちゃったんだ。わたしが悪い。レナは何も悪くない。

 でも、もしわたしの思っていることが知られちゃったら、彼女を傷つけてしまう。レナは何も悪くないのに。それはすごく申し訳ないから、この日記ごと隠し通さなきゃ。



【十五日目】

 最近、本当に夢がリアルになってきた。元々リアルだったんだけど、目が覚めてから一瞬状況が理解できない、なんてことが多くなってきた。

 今も少し混乱しながらこれを書いている。もしかしたらこっちが夢で、本当のわたしは、さっきまでいたあの不思議な世界の住人なんじゃないかって気がする。そんなわけないのにね。

 今日は、夢の中で女の子と話した。いつの間にか自由に動けるようになっていて、今まで行ったことのない場所に行ってみようと思っていつもと反対方向に歩いていたら、急に名前を呼ばれたの。でも、今思えばわたしの名前じゃなかった。全然知らない名前だったんだけど、わたしが呼ばれたってことはなぜかわかって、振り返った。そしたら知らない女の子が私を見て微笑んでいた。「やっと見つけた!」って嬉しそうにわたしの手を引いて、少し歩いた場所にある建物に入った。よくわからないまま座っていたら女の子に何を注文するか尋ねられた。そこで初めて、ここが食事をする場所だと分かった。これは今思ったことだけど、現実世界の酒場みたい。

 そのあとどんなやり取りをしたのかは忘れたけど、気がついたらわたしは透明なグラスに入った薄い茶色の液体を飲んでいた。筒みたいなものが刺さっていて、底には黒い球がいくつも沈んでいた。甘くておいしかった。

 今日見た夢はここで終わり。目が覚めた今だと「あの飲み物をレナにも飲ませてあげたいな」なんて思ったりするんだけど、夢の中ではレナのことを全く思い出せないの。それどころか、女の子と会った時からあそこが夢だって忘れちゃってた気がする。

 夢と現実がごっちゃになりそうで少し怖いな。でも、現実よりも夢の方が楽しいし悪くないかも。レナがいないのはさみしいけど……。

 そういえば、最近すいみん時間がかなり増えた気がする。



【三十日目】

 いつもは起きた直後に書いてるけど、今日は起きてから一時間くらいたっている。

 レナとけんかした。

 十五年も一緒にいるし、レナってずぼらだから過去にもけんかは何度もあったけど、ここまでひどいのは初めて。

 けんかの原因は完全にわたし。今日はレナが起こしてくれたんだけど、しばらく彼女が誰なのかわからなかった。それで怒られちゃった。わたしが完全に悪い。

 でも、レナもレナだよ。なにも宿屋中に聞こえるような声で怒鳴らなくたっていいじゃん……。怒るというかパニックになってたような感じがしたけど、それはこっちの方だよ。いきなりわたしの事を知らない名前で呼ぶんだもん。

 誰よ、「サーシャ」って。わたしは「かなえ」なのに。

 仲なおりしようにもレナはどこかに行っちゃったし、今日は予定もまもの討伐の依頼もないから、もうひと眠りしようかな。夢でまたあの女の子……「のぞみ」だっけ? 会えるといいな。今度はどこで何をするのかな?



 【四十日目】

 変な事が起きた。目が覚めたら知らない場所にいる。何が起こったのかわからないけど、わたしと同じ筆跡で記されている本を見つけたから整理するために書きこんでる。

 一体ここはどこなの? どこかの家の部屋みたいだけど、全く身に覚えがない。床も壁も机も椅子も全部木でできていて、しかもコーティングもされてない。それに、この本にはわたしと同じ筆跡で書かれた日記が。読んでみたけど内容も知らないことばっかり。わたしの名前が「かなえ」であることしか心当たりがない。「レナ」って誰? 私の親友は「のぞみ」だよ? あと、表紙の名前欄みたいなところに書いてある「Sasha」ってなに? サーシャ、って読むのかな? え、誰これ?

 あ、わかった。これはきっと夢だ。こんなにリアルな夢は初めてだけど、案外悪くないなぁ。

 目が覚めたら、のぞみにチャットで教えてあげよっと!

 なんだか眠くなってきた……。



【四十一日目】

 今すごく変な気分。まさか、夢の中で日記を書くなんて。こんなにリアルな夢を見るのは、十五年生きてきて初めて。これが現実じゃないなんて信じられないよ!

 自分の思った通りに動き回れて、視界もはっきりしてる。こんなことってあるんだね。早くのぞみに教えてあげなきゃ!







 日記はここで終わっていた。四十一日にもわたって休まず日記を付けられることは尊敬に値する。ずぼらな私には絶対に成し遂げられない。

 あの子は今、どこで何をしているのだろうか。いや、この言い方は適切ではないのかもしれない。なぜなら、彼女は今も私の目の前で眠り続けているのだから。

 けれど意識はここにない。再び戻ってくることは、ない。

 勝手に見るのは申し訳ないと思いつつも、結局見てしまった彼女の日記。不思議な夢を記録したものらしいそれには、私が初めて知る事実が詰め込まれていた。

 夢のことを話してくれればよかったのに。そうすれば、すぐに異変に気がつけたかもしれなかったのに。


――違う。


 気がつけなかったのは私のせいだ。もっとよく見てあげていれば、こんなことには……。



 私の幼馴染にして一番の親友のサーシャは、魔物にかけられた呪いによって夢と現実の区別がつかなくなり、徐々に睡眠時間が増え、最終的に昏睡状態に陥った。私も彼女も、呪いをかけられていたことにさえ気が付けなかった。凄腕の医師や呪いの解除にたけた神父もってしても、彼女の呪いを解くことも治療も不可能らしい。

 私とサーシャは、各地を回って魔物討伐等の依頼をこなし、人助けをする活動をしていた。サーシャが剣で豪快に攻撃を仕掛け、魔法を得意とする私が回復と後方支援。同様の活動を生業とするものの中では幼い方で、それなりに成果もあげていたため、私たちは「天才」と称された。

 その肩書によるプレッシャーがサーシャの精神を蝕み、不安定な精神状態が先述の呪いを増幅させる結果となったらしい。本来なら、多少の身体衰弱は伴うものの、奇妙な夢を見せられながら数日間寝込んで終わりだとか。


 増幅された為に呪いが解除不能となり、かつ昏睡状態のため食事を取らせることもできない。ほとんど奇病のようになったそれは、当然衰弱の効果も増幅されている。


 つまり、彼女の衰弱死を待つ以外にできることはない。



 サーシャが見ている夢が楽しいものであるらしいことが不幸中の幸いだ。きっと、魔物討伐もプレッシャーも何もない世界で、普通に過ごしたいという「望み」を「叶え」ているのだろう。

 愛する彼女の幸せは、絶望に飲み込まれたこの状況下での、唯一の救いだ。



END

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