9/10
トナカイは転生者
ぱきぽき。
関節が鳴る。
トナカイは冬の歌を歌う。
関節を鳴らし、ひづめを鳴らす。
雌にもある角で春は土を掘る。
ぼくは彼らを急き立て、妹を想う。
妹よ。君は想い人とうまく行っているのかい。
この銀の剣はいらないのかい。
トナカイの娘に声をかける。
ああ、君よ。異界の歌を知るものよ。
歌っておくれ。
彼女に謡っておくれ。
彼女に祈ってくれ。
きっと帰らぬと誓った妹に。
トナカイの娘応えて曰く。
あの子は帰ってくるけどきっとまた去っていく。
だってこの生活をすることはできないだろうからと。
もし、そうなるならば私の首を刈ってほしい。
私の血と肉を、彼女の血肉に変えてほしい。
そうすればトナカイの肉を捨て昔のヒトに戻れるから。
ヒトになりたい彼女の為に祈れるから。
それはできない相談だトナカイの娘。
少年は冬空の下ハイクを謳う。
声なき唄を歌い、妹に届けと歌い続ける。