10/10
トナカイの彼女は夜謳う
彼女は帰ってきた。
私は歌う。
彼女の嘆きを。
彼女のヒトになれない悲しみを。
彼女は生まれながら人に劣るという。
ならば人に劣ると決める人は何が勝っているのか。それは彼女に劣るということ。
矛盾をついて歌いたくも、わが声既に人の声ならざり。
私は歌う。オーロラの彼方へ。
去って行った彼女の為に。
銀の剣を金に換え、少年の妻になるべく旅立った彼女の為に。
ここは辺境、トナカイと住む民の国。
町は辺境とは違うらしい。私にはどこが違うのかわかりはしない。
私もかつては人だった。
だから人が、よけいわからない。