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第3話 錬金術師になりたい

 家に帰り早速セグメント・ワールドを起動する。

 確認したい事がたくさんあった。

 まずはゲーム内のキャラクター「ガク」のステータスを見てみる。

 ステータス欄に「リアルリンク」と表示されている他は特に変わって事は無かった。

 MPも減っていないし、ログに魔法の使用記録も無かった。

 現実とは違うものとして扱われているようだ。


 ゲームの中ではアイテムをいくつか所有していて、《魔法の袋》と言う最大20個迄のアイテムを入れられる魔道具に入れているのだが、実際の操作はステータス画面上に「アイテム」と言うタブが追加されてそこで出し入れをしている。


 この《魔法の袋》が有れば、ゲーム内のアイテムを現実でも取り出して使えるのではないか、と考えたが、《魔法の袋》が無いのでどうにもならない。


 スキルや魔法が現実と同期されているなら、他の要素も現実で使えないものだろうか。

 ゲーム内の他のセグメントには《ストレージ》というアイテムを収納できるスキルもあるようだが、理論が難しく今のガクの《魔法設計》のレベルではまだ作れそうに無かった。


(ポーションとか使ってみたいんだけどなぁ)


 特に必要性は感じておらず、ただ単に使ってみたいというだけであるが、現実世界でファンタジーの道具を使えるというのはとても魅力的であった。

 そこでゲームから持ち出せないので有れば、現実世界で作れるようになればいい、と考えた。

 以前、ゲーム内で別のセグメントに旅行に行った時に物を作り出すスキルのあるセグメントに行き当たった事があった。

 そこに行きゲーム内でそのスキルを会得出来れば現実でも物作りができるのでは無いかと予想する。


 セグメント・ワールドでは所属する場所は変えずに、別セグメントへと旅行に行く事が出来る。

 《ビジターカード》というアイテムを使うとランダムに他のセグメントへと飛び観光してくる事が出来る。

 この《ビジターカード》の行き先を決めるのは、基本的にはランダムだが一度訪れた事のあるセグメントへは選んで行く事が可能だ。

 その為、元のセグメントには飛び先が必ず表示されるので戻って来られるのであるが、それにはもう一枚ビジターカードが必要となる。

 移動時に一枚しか持たず、戻って来れなくなった場合は、ステータス画面のメニューから購入する事になるが、現実ではそのメニューは無くなっているので、現実世界で購入する事は出来なくなっている。


 ガクはゲーム内のステータスを開き、《ビジターカード》をクリックする。


(現実にもステータス画面があるからややこしいな)


 以前訪れた事のあるセグメントの中から《魔導錬金街》と言うセグメントを選ぶ。

 画面がグニャグニャと揺れ始め「シュッ」という音と共に暗転すると、次に表示されたのは移動先のセグメントの景色だ。


 前に来た時と変わらず、レンガ造りの家が建ち並ぶ如何にも職人の街と言った風景だ。

 画面上にはここの住人では無い事を示す赤いマーカーが頭上に灯るキャラクターと、マーカーが何も付いていない住人のキャラクターが歩いている。

 何故住人にはマーカーが付いていないのかと言うと、運営による公式見解は出ていないが、NPCノンプレーヤーキャラクターとの区別をわざと付けづらくして、旅行と称してスパイ活動にきた敵に情報を掴ませづらくしているのでは無いかと言われている。

 と言うのも、このセグメント・ワールドのNPCに話しかけると中に人がいるのでは無いかと思うほどの人間臭い返答を返してくれる。

 冗談を理解して笑うし、怒ったり、悲しんだりと謎技術だ!とネット上では言われている。

 普通に会話をしている分には、パッと見た感じでは有人のPCプレーヤーキャラクターなのかNPCなのか区別は付かない。

 その事からもマーカーを付けずに、誰がPCで誰がNPCなのか分かりづらくしているのだろうと皆予想している。

 中にはセグメントの住人が一人もいない場合もあり、訪れた人がその事に気付かずセグメントの中には旅行者だけだったと言う事もあった。


「こんにちは。ご旅行ですか?」


 急にマーカー無しのキャラクターに話しかけられる。

 この時点ではこのキャラクターがPCなのかNPCなのか全く区別が付かない。

 仕方無しに無難な返事をしておく。


「はい。前にも来た事が有るんですけど、楽しかったのでまた来ちゃいました」

「そうですか。この街は物作りが盛んですからね。きっとまた楽しい体験が出来ると思いますよ。楽しんで行って下さいね」

「どうも」


 やはり中の人がいるのかいないのか判別付かない。


 この《魔導錬金街》にはセグメント固有スキルの《魔導錬金術》スキルがある。

 これは様々な素材を元に普通では手に入れられないようなアイテムを作り出すスキルであるが、普通の《錬金術》とは違い、MPを消費する事で更に特殊な魔導具も作る事が出来る。

 魔導具というのは、このセグメントに来た時に使用した《ビジターカード》もそうであるし、《魔法の袋》もそうだ。

 MPを消費せずに作れる道具としては、ポーションや毒消し薬などになる。


 そのセグメントに移住さえすれば無条件で得られるこの固有スキルだが、旅行者が会得するには条件がある。

 一つはそのセグメントの住人と仲良くなり信頼を得る事でその人から《秘伝の種》と言うアイテムをもらい会得する事ができる。

 別のセグメントの人とはいつ敵同士になるかわからない為、簡単にはスキルを渡すわけにはいかない。

 強力なスキルの場合、スパイが取り入ってスキルを奪い、世界戦争を有利に進めようとする事もある。

 その為《秘伝の種》をくれる人は中々いない。


 もう一つはそのセグメントのNPCが出す依頼を達成するとその報酬として《秘伝の種》をもらえる場合がある。

 その依頼が出る確率は低いのと、有人のPCがNPCの振りをして依頼を出しながら、報酬は他の物を渡すと言う事もするので、この方法でスキルを会得するのは容易では無い。


 ガクは前者の住人と仲良くなる方法にした。

 以前会ったことのあるここの住人の「メレンゲ」という人(キャラクターは人族では無くドワーフ族である)にもう一度会い《秘伝の種》を貰おうと画策していた。


(確かこの通りを右に入ったお店だった筈)


 キャラクターの「ガク」を動かし街の中を歩いていると、画面に警告が表示される。


『警告。要注意に指定されている人物が接近中です』


 これは黒姫に付けたのと同じ《マーキング》の警告である。

 この家に黒姫が来たのか?と一瞬よぎるが、よく考えて見ると警告はゲーム内に出ている。

 現実世界で出ているのなら理解出来るが、現実で付けた《マーキング》がゲーム内で出ているのがよく分からない。

 ゲーム内を見ていると赤いマーカーとは別にもう一つ《マーキング》を表す緑のマーカーが光っているキャラクターが画面の端から現れた。

 相手はガクには気づいていないようだ。

 そのまま通り過ぎてしまう。

 慌ててガクはキャラクターを動かし、この《マーキング》が付いた相手を追いかける。

 このキャラクターにカーソルを合わせると名前が表示される。


『ノワール レベル57 ビジター 要注意』


 レベルは違うが名前が怪しい。

 ノワールはフランス語で「黒」だ。

 黒姫の名前から取っている可能性が高い。

 《マーキング》はこのゲーム内では何人かに付けたことはあるが、現実世界では黒姫だけにしか付けていない。

 ゲーム内ではたくさん《マーキング》をしていたので「ノワール」なるキャラクターに《マーキング》を付けたことがあるか記憶が定かでは無い。

 もし仮にこの「ノワール」があの黒姫なのだとしたら、現実で付けた《マーキング》がゲーム内でも有効になっているという事になる。


(同期している部分としていない部分の違いがよく分からないな。とにかくこの「ノワール」が何者なのか少し付けてみるか)


「ノワール」は迷う事なくどんどんと街の奥に入っていく。

 気付かれないように慎重に尾行して行くが、路地を曲がった所で急に人通りが無くなってしまった。

 これでは流石に跡をつけているのがバレてしまう。

 そう思った時、「ノワール」がいきなり反転してこちらに戻って来た。


(まずい!尾行がばれた!?)


「あの」

「はい」

「何か用ですか?」

「いえ、この街は初めてなので誰かに付いて行けば何か面白い事が起きないかなと思って」

「そうですか」

「はい」

「人を付けるのはマナー違反だと思いますよ」

「すみません」

「もうやめてくださいね」

「はい」


「ノワール」は再び奥の方へと進んでいく。

 良かった、出来るだけ身バレしないように答えたが、何とか誤魔化せた、とホッとしたが。


「ところであなたも私と同じなんですね」


(え?)


 そう言って「ノワール」は画面の外に出て行ってしまった。


(どういう意味だ?今の会話で何か分かったのか。それとも何か調べられていたのか)


 《鑑定》くらいはしておくべきだったと、今になって後悔する。

 相手もそれくらいはしていたのだろう。

 それで何か分かったのかもしれない。

 気になるが流石にまた跡を付ける訳には行かない。

 もし中身が黒姫だった時にはあまり関わりたく無い。

 ガクは「ノワール」に付いても全力で避ける事を決意する。


 その後「メレンゲ」に再会し、《秘伝の種》をもらう事が出来た。

 ガクの所属するセグメントが世界レベル1である為、別セグメントへと侵攻できない事や以前会った時に「メレンゲ」の営む魔導具屋の商品を大量に買い付けていて印象が良かった事、などから拍子抜けするほど楽にもらえた。


(ゲームの中だけど相手は現実にいる人なんだよな。でも、「メレンゲ」さんは実はNPCでその依頼を知らず知らずにこなしていたから苦労なくもらえたと言う事も考えられるよな。どこまでが現実なのか分からなくなってくるよ)


 実際にこの後、現実世界にこの時のやり取りの結果を持ち出そうとしている。

 更に現実と仮想との境目が曖昧になって来てしまう。


 自分のセグメント《樅の木》に戻ってきて、早速《秘伝の種》を使ってみることにする。


(ゲームの中だけだとしても、このスキルが使えるようになるのは凄い事だよな。魔法も作れて魔導具も作れるなんて何でもし放題じゃ無いか)


 実際にはレベルや素材の関係で何でも作れるという訳では無い。

 ガクはそれも承知の上だが、嬉しさの余りにハイになっているだけだった。


(うはー!何作ろう!いや待てまずは現実で作れるようになるか試さないとな)


 まだ《秘伝の種》すら使っていない状態である。

 元々工作や実験が好きなガクにこんな楽しいオモチャが目の前にあるのだ。

 浮かれるのも仕方ない。


 ふうっ、と深呼吸をして気分を落ち着かせ、改めて《秘伝の種》をアイテム欄から選ぼうとする。


『ピンポーン』


 誰かが来た。

 今日は家には誰もいない。

 居留守を使ってやり過ごすか。今のガクは新しいオモチャをお預け状態にされている。


『ピンポーン、ピンポーン』


(くうっ、仕方ないか。どうせ配達とかだろう。早く済ませてすぐに戻ってこよう)


 大急ぎて階段を降り、何も考えず玄関を開けてしまった。

 せめてドアスコープから誰なのか位は見るべきだった。

 いやそれ以前に玄関の向こうに光っている緑色のマーカーを確認すべきだった。

 そうは言ってもドタドタと階段を降りて来ている時点で居留守は不可能であったのだが。


「あ、こんにちは…。急にごめんね。あの、ちょっとお話がしたくって…。今いいかな?」


 蓮華がそこにいた。

 彼女と関わると面倒になりそうだったので事前に察知する為に《マーキング》を付けたはずだった。

 それが自宅にいるということや、早く《秘伝の種》を試したいという事から思考力が低下していた。


「あ、あぁ、はい…。あ、上がる?」


(何で家に招いてるんだよ僕は!いや焦るな!さっさと話を聞いてさっさと帰ってもらおう)


 自分の部屋に入れる気はしない為、リビングに蓮華を通す。


「麦茶でいい?」

「あ、ごめん。ありがと」


 お互いソファに対面して座る。

 蓮華はまだ制服のまま、鞄も持っていた。


「生徒会?」

「うん。舞穂ちゃんに手伝ってって言われちゃって、ね」


 蓮華は生徒会では無いが、蓮華の従姉妹の舞穂が生徒会長をしていて、よく蓮華に生徒会の手伝いをさせるのだ。


「…」

「…」


 蓮華は指をモジモジとさせて中々切り出さない。


「何か用だったんじゃ無いの?」


 仕方無しにガクは助け舟を出す。


「うん。あのね。今日、ガクくんなんだか変だったから。足、引っ掛けられてたし。変態なのはいつもの事だけど、でも少しぼうっとしていたみたいだし」

「僕は変態じゃない!別に鷲羽さんが気にする事じゃないよ」

「むー。前みたいにレンゲちゃんって言ってくれないの?」

「な、何をいきなり。話が逸れてるよ」

「レンゲって言って!」

「うぐっ。レ、レンゲちゃん…」

「むふぅ、よろしいー。でね、あの、その…」

「いじめられてはいないよ。レ、レンゲちゃんの思っているような事にはなっていないから大丈夫」

「ホント?」

「僕がレンゲちゃんに嘘を言うとでも?」

「いっぱい言ってるじゃない」


 蓮華はガクとは幼稚園からの付き合いだった。

 いわゆる幼馴染と言えるのだが、そう言うと蓮華は何故か怒り出す。

 それもあってガクは学校では名字で呼ぶようにしている。


(二人きりだと名前で呼ばせるんだよな。よくわからん)


「もういいかい?レンゲちゃんが心配するような事にはなっていないし、学校もちょっと楽しくなって来ているし、大丈夫だよ」

「う、うん。それならいいんだけど」

「ああ!レンゲちゃんだー!久しぶりー!もーもっとうちに来てくれていいのにー」


 妹のウサギが帰って来ていた。

 一つ下の中学三年生だ。ガクとは最近あまり話をしてくれず、ガクは落ち込んでいる。


「あれ?もしかしてとうとうお兄ちゃんと!そうなの?早まらないで!こんなのに捕まったらダメだよ!」

「ウサちゃん?ななな何言ってるのかな?私はガクくんと学校の話をしに来ただけだから!変な事にはなってないからね!」

「あ、そなの?良かったー。レンゲちゃんは私のお姉ちゃんだけど、お兄ちゃんとは関わらないでいいからね!」

「もうそんな事言わないの。ウサちゃんだってお兄ちゃんの事、大好きなん「ふああっ何おかしな事言うのレンゲちゃん!ちょっと私の部屋に行こ!」


 ウサギは蓮華を連れて自部屋に行ってしまった。

 一人取り残されたガクは疲れ切ってしまった。


(早くさっきの続きをしたいんだけどな)


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