1-8 バ、バイチークの街を散歩でも!
ミサスには、異世界出身師匠から直伝の秘策があった
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「これは美味しい」
フームはミサスから貰ったバイチークの地図を頼りに、お店で冷たくておいしいものを頼んだ。矛盾はしていない。美味しいものは正義だ。
それはシェークと呼ばれる、ケーキをさらさらなかき氷みたいにして飲んでいるみたいな味だった。氷は魔法で作れるけど、これは他大陸産の冷蔵庫が無いと作れないらしい。
これは、最初は世界の英雄が考案したものと聞く。
シェークだけではない。あそこにあるゴム付き車輪もそうだし、大陸間の連絡を可能にした通信魔法も。
ミサスが地図を書くのに必要な万年筆も、画期的な医療方法である小国を救ったり、斬新な発想で強力な武器を作る。
この世界を滅ぼす存在を仲間と共に倒し、この幸せな人類史上平和な世界を導いた等々、大小確証の無いものまで世界の英雄の功績をあげてはキリがない。
でも、私は世界の英雄の秘密を知っている。
なぜならば、おじさんが世界の英雄と同行していたことがあって、両親も少し顔は見たことがあるらしい。
綺麗好きで、奥さんも何人もいて、色々な国の上層部に顔も効く……。
功績の大きさを考えると、それは当たり前なのだろう。
真の秘密は他にある。
それは異世界から来た人物ということだ。
正確には異世界からの記憶をそのままに、この世界「ホイシャルワールド」で生まれ変わった転生者らしい。
生まれながらして、そんな設定とか物語どころか神話の勇者か? と疑いたくもなるが、どうやら本当だ。
異世界はこの世界よりも文明が発達しているらしい。おじさんも、体ごと移動してきたという違いはあるが、その場所の道具や食べ物は知っているらしい。
「世界の英雄のファンです?」
「…………」
「余談だけど、勇敢記には世界の英雄をモデルにしたとされる登場人物はいない。
別に現代で活躍した人をモデルにしない訳ではないから、とても不思議」
「何で、あのお子様の本をよまなければならないの? あといい加減にしろ! ミサス!」
フームはこのストーカーにキレた。
地味に服装とか変えて、雰囲気は変えている感じが満々なのが、とても気持ち悪い。
「何だと! 前皇帝が直々に執筆したマツカイサの宝だぞ! あまりの侮辱は許さん」
「はいはい騎士様の忠告は聞きます」
「後、気づいていないのか? フーム。狙われているぞ」
ミサスは顔を近づけて、フームを狙っている男二人へ注意を促した。
「……この場合、さすがプロって褒めた方が良い?」
「光栄です」
「同い年だからもっと気楽で大丈夫」
「当たり前だ。騎士を称えろ」
「キモイ」
この後、ミサスはフームにバイチークの街を一通り案内した。
特に市場や港は、以前バイチークに来た時よりも、大きくて、人も多くて、色んなモノがあって、欲しいもの沢山あって……。
ミサスの財布から、おじさんのツケで払ってもらった。
ここで、フームはミサスについて分かったことがある。
この騎士なかなかのオタクだ。
書店と武器屋にそれぞれ一時間は離れなかった。
特にマツカイサの先代皇帝が書いた『勇敢記』の話を振ると物凄く語る。
今は、見るからにとてもチープな手裏剣とかいう手のひらに載る武器に心奪われすぎていた。
「勇敢記以前に世界中で読まれていた本はテッラ教の聖書だ。
ただ勇敢記は娯楽な面を持ちつつ、学術的な効果があったと支持する学者が多い。
役立つ本として認知されているんだ。
その効果はこの大陸の識字率を驚異の九十パーセント越えに引き上げるまで」
「この手裏剣は某国の暗殺武器らしい。護身用に買う」「これも」「そいつもだ」
浪費癖にもフームは怒った。
背伸びをして、ミサスの耳を引っ張りつつ、店を出た。
夕方、一段落したどころで、おじさんがバイチークで拠点にしている住処に向かう事にした。
城から出て、人の多い大通りから少し裏通りに入る。
とても賑やかさから生活感溢れる空間へ変わった。
あちこちから、子どもや人の声が聞こえる。
「迷いそうなところに住んでいるのだね。今さっき行った市場とは大違い」
「バイチークは元々城塞都市だから、街の作りから敵が外から攻めにくい形になっている。
ここは昔からの名残があるところ。
今さっきの市場や港とかは、ここ十年前から開発されて最近一段落したところ。
丁度、フームが以前来たよりも遥かに大きくなっているのも当然だ」
食料品が入った袋を両手に抱えたミサスの言葉に、フームは返事する。
「私が住んでいたノシン村の家とは、かなり窮屈そうなところに住んでいるんだね」
「実家は農業だったな。結構動物を飼育していたのか? 家畜とか、隣にいるペットとか?」
「やっぱり騎士さんには、ばれるよね」
フームは手を横にかざす。大きな魔力が働いているのを感じた。
手のひらの先に、両手で抱えられる程の大きさな、四足で歩く生物が現れた。
全身が赤く、尻尾や長く、歯は乳歯みたいに丸い。
「嘘だろ。メリロイドラゴンかよ」
「そこまで、すぐにばれちゃうの?」
「メリロイドラゴンはこの大陸の象徴になるほど、強く、気高い存在だ。
幼竜時でも気性が悪くて、人間に懐くことはまずない」
「詳しいんだね」
「一応専攻してる。
前に金持ちが魔術師を雇って、野生のメリロイを手懐けようとした際、大暴れして金持ち一向もろとも全滅した事件があった。
その時の後始末を仕事で行ったことがある」
「…………」
「それより遥かに仲良しなのは分かる。それに拘束魔法も、メリロイにストレスがかなりかかっていないことが分かる」
「ムフーっていうんだ。小さい時から友達なんだ」
フームはバイチークに来て、初めて笑った。
「ミサス。その女の子は何?」
ジョーおじさんのアパートについた時、ミサスに声をかけられた。
年齢は同じくらいで、私が羨むような大きな胸がよく分かる勝ち気な性格のようだった。
「おっ。マウ丁度良かった。こちらは師匠の知り合いのお子さん。
歳は変わらない。バイチークで住むことに慣れてないから気をかけてやってくれ」
「えっ。そ、そうなの。よろしく私はマウ。バイチークの城で給仕、メイドやってます」
「フームです。ノシン村から大学へ学びにやってきました」
「ふーん。独特な魔力と珍しいドラゴン持っているね」
ドキッとした。
そう言えば、この人魔力の量が私より大きい。
険しい顔をしたことに気づいて、誤解しないでね。
私が、勉強していないだけだからとフォローをしてくれた。
「そうだマウ。これからフームの歓迎会をする。良かったら一緒にどうだ?」
「あーこれから夜勤。残念だけど、またいつかね」
マウさんは手を振りながら、走っていった。
「あいつは俺ら同世代の中で一番バイチークの街で顔が利く人物だ。
ここに住んでいて、良い奴だから、困ったことがあれば相談するのも手だ」
もちろん悪人とか治安や犯罪関係は、守護隊か、俺へ相談しろよと補足も忘れなかった。
おじさん、師匠、ジョー・サカタの部屋はとても広い。まるまる一世帯住むには丁度良い物件だった。
そして玄関入って、すぐモノが散らかっていた。
いや荒らされていた。
服や棚が荒らされて、モノが散乱している。家主の留守中に物盗りの仕業のようだ。
「俺も当分は師匠の姿を見ていない」
「いやこれは最初からじゃないの?」
「師匠は、床に物を散らかしていても、タンスや扉はキチンと閉めている」
ミサスは一人で部屋の周りを一通り確認した。
「……ひとまず飯にするか」
「えっ。バイチークの守護隊に連絡しないでいいの?」
「荒らされたのはここの部屋だけのようだ。こっちの台所の部屋は何も荒らされてないから、食事の準備もしよう。刺身で食えるよう新鮮な魚も買っているんだ」
「えっ。あの」
「そうそう。気付いた? 扉の外の二人は知り合いだ」
扉を開けて入ってきたのは、昼間にミサスの隣にいた人と、とても美人でスタイルの良い人だった。
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