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異世界物語は面白いけど、流石に一世代時が過ぎれば現地弟子が台頭する  作者: 米屋品楠
四章 セイテンノセントウ【西の都応答なし】
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4-07 鉄路で西へ

 鉄道

 二本の鉄のレールを敷き、その上に連結した車両を載せる。そうすると決められた場所を通り、大量に物資や人の輸送ができる。

 高度な魔法陣を使った転移魔法というものが存在しているホイシャルワールド。

 だが先の大戦からの復興に限られた者しか利用できないものは物流手段として失格だ。


 鉄道を通すことは一般市民や私用商用問わず安価に高速で移動させることができる。

 物量インフラの整備は国の発展を豊かにする礎。他大陸シャトラキ地方の発展した技術を取り入れた大陸横断鉄道は、線路を延ばして西の都である宗教都市パーチティまで繋がった。


 ミサス率いる()()マツカイサ帝国騎士団第二隊はパーチティを経由し、そこから海路でバイチークへ向かう。

 蒸気機関が建物中にこだまするバイチークでも珍しい建物の中、ミサスは貸切車両が到着するまでホームへ待機をしていた。


「ご機嫌いかがですか? ミサス隊長」


 聞きなれた声だが、振り返った先は見慣れた給仕服(メイド)で無く、ふちの大きな帽子を被り、ワンピースを着た女性に声をかけられた。


「これはこれは“世界の英雄の娘”マウ」


 ミサスは敬礼を返した。

「あれ世界の英雄の娘」「物凄く美人」「おっぱい」


 後ろでガヤガヤしていた新入団員へ対して、副隊長のイーサーは大きく咳払いを行い、遠ざけた。


「ボット様が集めた人も多く辞められたのですね。副隊長(イーサー)剣士(テプ)医官(ノサシ)以外」

「そもそも任期があったから。寂しいが新しい連中が来て、俺の仕事も終わりだ」

 ミサスは答えた。

「それに、その口調も久しぶりだな」

 マウはふふっと笑った。

「リハビリですよ。ゼロポイントへ上がって、洗礼を受けて、船が完成次第海に出ないといけない。姉妹達と同じように」

 マウは少し離れて回った。スカートはきれいに丸になって広がった。

 一回転を超えた所で小さな背中を見せた。

「ダメ男への自由な恋愛は終わり、世界から愛させる存在にならないといけない」

 ミサスは静かにそうかと答えた。


「でも、それで終わる訳ではない。だろ?」

「それね!」

 マウは笑った。

 本人も違和感のある振る舞いだった。

 アキサンへ行くならついでにお願いがあると便箋を取り出した。

 機密書類を運ばせるつもりか(本人いわくやってしまったか病)の封印をしている。

「ミサス。エケさんに会えたらこの手紙を渡して。郵便屋さんのような働きさせるけど」

「ああ。あいつの妹が入学している女学院も近いからか」

「気分は乗らないかもしれないけど」

「総督も気にしていた。話ができたらな」

 ミサスは懐にあるポケットへ入れた。

「じゃあね」


 マウは手を振って立ち去って行った。


      〇   〇   〇


「ミサス遅れてごめんなさい。とジョーおじさんから伝言」

 鞄をかかえながら、バイチーク帝国の師団指定であるマルーンの外套に身を包んだフームが立っていた。お供のムフー(メルロイドラゴン)は拘束魔法で小動物の愛くるしさがあった。

「大丈夫だ。列車の支度が遅くなっているとは聞いている。仕方がない」

「そう。ありがとう」

 フームは同行する新制帝国騎士団第二隊の顔を見比べた。

 世界会議開催期間を狙ったナメル・ナメ捕縛の功績からミサス含め世界中の新聞の表題を飾った。

 最近は任期終了の兼ね合いで残留はせず、多くの団員が本拠地や元の団体へ戻っていた。

「ホッチさんはミラレアルへ帰国。ケコーンさんは騎士団より異動して若手要職に就き、サンモさんは本業の執筆へ戻り、クレパちゃんは旅に出て、他には」

「騎士団に入らない割に人事には詳しいな」

「いや。お城で仕事していたらお話聞くし、挨拶あるし、大学で交流あった人も多いし」

 フームが慌てて弁明を立てている姿を見て、ミサスはため息をついた。

 列の後ろの方で、俺も俺もとテプが手を振っていたのは無視をした。

「でも、ここ1年ほどバイチークで学んだり、ハナさんの元で実践できた事は楽しかったよ。ミサス達と出会わなければ充実はしなかった」

「そうか。それは良かった」


 ミサスは返事をしたが、様子がおかしい。


「今さっき、すれ違ったマウさんから聞いたけど、、、」

 フームが悪戯をする顔をしていた。

「今回エケ・ウリモ様はミサスの初恋の人と聞いたけど本当なの?」


 ミサスは噴いた。

 いつの間にか集まっていた部下達をしっしと払いのける。


 それと呼応するように大きな汽笛が割って入った。


 目の前の線路へ、複数連なっている大きな動輪を動かし、客車が後ろ向きで入線してきた。

 奥の方に繋がっている機関車より、手を振ってミサスを呼んだ。


「ジョーおじさん!」


 フームが手を振り返した。


「ミサス! 望まない同乗者の相手をしてくれ!」


 ジョー師匠は浮いている客車へ指を指した。


        ○  ○  ○


 通された貴賓車両には、確かに()()()()()()()がいた。

 本来、定期便で無く救援車両には似つかない豪華な装飾を施してある。

 それぞれ、どのような拘りがあるかをミサスは大体把握している。


 目の前の男以外に対して。


 ジョー師匠曰く、貴族様(こいつ)を載せるための専用車両を増結させる手間がかかった。

 機関車の様子を見て来る()()で、この場から離れた。

 応対を弟子へ任せたのは、頭に血が上り過ぎていることを自覚していたのだろう。


「ミスターウリモ。ミサス隊長が参られました」

「そうか」

 側近の男から報告を聞いて振り向く。


 全身が金の刺繍の入った貴族服。一目で高潔な身分を見せつけたい思惑がわかりやすい。

 現ウリモ家当主 最近はミスターウリモと自称している男。

 経由地である宗教国家パーチティを統括しているルゥカフに束ねる聖人職も就いている。


 そして、マツイカイサ 帝国現皇帝プラム マツカイサの政敵




 初めて会う訳ではないが、ミサスはこの男を大変気に食わなかった。


「ミサス・シンギザ直接では久しぶりか?」

「はい。いつかの害獣討伐任務からは」

「そうか。手入れしてくれた皇帝陛下からの贈り物は気に入っているが」


 ずっと手に持っていた魔道具をミサスに見せた。

 ミサスの瞳孔は少し開いた。

 手に持っていたのは、見覚えのある人物の核となっていた――――


「恩恵”影王”」


 その言葉だけミサスは呟いた。


「師匠の遺品。いや機巧心臓と呼ぶほうが正しいのか? あれ? 興味ないのか?」


 男にとってモノをミサスへ差し出す。

 フームが見せた悪戯な顔ではない、無自覚の邪悪な顔をしていた。



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