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異世界物語は面白いけど、流石に一世代時が過ぎれば現地弟子が台頭する  作者: 米屋品楠
四章 セイテンノセントウ【西の都応答なし】
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4-06 西の都応答なし

「ミサス。悪い知らせだ」


 場所は旧スワリン連合筆頭マツカイサ帝国。その首都バイチークにあるマツカイサ城にミサスは戻っていた。


 そこで自分ミサス・シンギザは上官である帝国騎士団団長マイネンと対面していた。


 団長が部屋に呼び出し、座ったまま最初にそう一言言った。

 混沌とした冷戦末期で騎士団を引っ張っていた経歴の持ち主であるが、そんな風格は感じられずにどこか謎めいていて心の底が見えないのでこの人は苦手だ。

「はい。内容は?」


 団長は無表情で淡々と答える。


「本来ならば、この後パーチティへ例のものへ輸送護衛の任務だ。がその後に緊急で任務が入った」


「騎士団に派遣要請。しかもA難度だ」

「多くの団員が入れ替わった後の()()()にしてはハードルが高いです」


 A難易度は即座に事態の鎮圧が必要になるレベルだ。

 四大陸の衝突が頻繁に起きていた時には、他軍侵攻という同等の任務が数多かったらしいが、近頃は治安を守るために暴動を鎮めるか害獣駆除ばかりで、高くてB難易度しかなかったので久々の大仕事だ。


「言うな。青年隊は任期が定められている。S級犯のナメルを討伐しえる力を持っていることはバレている。悪者がいるとはいえ、平和な世界には政治面からいくと毒になる」


「何が起こったのでしょうか」

「ザイダル海峡は知っているな」

「はい。イストール地方の西に位置し、ベシャリブ地方から我がイストール大陸への玄関口でベシャリブ地方に勢力を大きく持つダベラエ列強と過去三十一回大きな海戦を行った戦場でもある。現在は世界の西への重要な海路の一部です」

「ああ。その主な拠点となったアキサンの港町からの連絡がある日を境に突然滞っている」


 ミサスの眉毛がピクッと動いた。顔つきが変わる。

 アキサンは周りを山に囲まれた自然の要塞になっており、ザイダル海峡に面した三角州地域だ。

 イストール地方の旧スワリン連合各国の首都には及ばずとも、海を隔てて向かいにあるベシャリブ地方のダベラエ列強領の脅威に対抗するために十分な程の守護隊が配置されたり、ダベラエ侵攻の前線基地が置かれたりと軍にはかなり関係のある町だ。

 先の大戦後の協定による大幅な軍縮で兵数を減らし、かつていがみ合っていたダベラエとの貿易によって発展していると聞いていたが……。


「アキサンから一番近い守護隊の派遣は?」

「真っ先にされたようだが、この部隊も消息をたった。しかも、アキサンの連絡が止まってからダベラエやザイダル海峡を通る商船が一隻も来ていないらしい」


 ふむ。ミサスは黙考をする。

 町一つが音信不通になる理由。天候による孤立や疫病による全滅。もしくは害獣が町に降りてきてそこで危害があって全滅……。

 一つ目の選択肢は捨てる。あの地域は今の時期は安定しており、台風などの自然災害はまず起きる季節ではない。アキサンだけでなく広範囲に渡って被害が出るはずだ。

 二つ目は、守護隊がアキサン入りした際、全員が感染したとしても遠距離通信魔法で状況報告はするだろう。

 なら三つ目の害獣だ。アキサンの山の奥ではコルビタラという村食いの異名を持つ四足獣がこの時期丁度繁殖時期であり、母親は好戦的になる。総数が数百頭ぐらいはいたはずだ。これによりアキサンは山からの侵入を受け付けない自然の要塞をより強固にしているのだが、逆に味方も海から入るしかない。一本だけ陸路があるのだが、繁殖時期だけはどうしても通れない。

 例年、アキサンは陸の孤島状態にはなっている。

 そのコルビタラの多くの個体が何らかの理由で山を降り、町を襲ったとしたら……。余談だがコルビタラは三級(この世界でポピュラーな階級)の剣士・魔術師が十人単位で一頭を倒せるかぐらいである。それが百匹以上の大群になって襲ってきたら、数は他より多いが想定していない山からの大群による襲撃に守護隊及び民達は――。

「今回、獣の狩り祭りのようですね」

「バカか? いくら世界統一のホイシャル連盟が発足したとはいえ、世界は簡単に変わらない。また協定を破って攻めてきた野蛮な “隣大陸”の奴らかもしれん。油断をするな。七千年続いてきた緊張は消えていない。因みに言っておくが、アキサン方面からは大地を揺らす大きな音の後に燃える巨大な雲ができたらしい。頭に入れておけ」

「分かりました」

 まだ世界は一つになっていないという訳か。

「明日早朝より、帝国騎士団第二隊は海路にてザイダル海峡に侵入。アキサンの報告・奪還・救援に尽力せよ。これは皇帝閣下も気になさっている件だ」

「了解です」

「後、最後に一つ」


 部屋から出るミサスを引き留めた。


「ミサス。アキサン総督(前任者)がどうなっているにしろ、冷静にいろ。今力の知られている貴様が地方の境で暴れると、戦争が起きてもおかしくない」



          〇  〇  〇


「ミサス! アキサンと連絡が取れないのは本当」

 慌てて師匠の口を塞いだ。この人といるとたまにこういう焦る時が多い。前は街の真ん中で本人は秘密にはしているらしい自慢の魔法道具である携帯大収納に、隠し持っていた獣が飛び出して大惨事になる寸前だった。

 城の通路で師匠はごく普通にいているが、旧連合上層部にもマツカイサ帝国の役職でも経験もないただの民間人だが、先代皇帝に何か恩を売ったようなので簡単に入城が出来るようになっている。と自慢していた。これは本当らしい。

「三角州に位置して発展しているアキサンとかの街は、生まれ育った所から一番近い都市に雰囲気が似ているからな。少し親しみがあるし。それにミサスの初恋の相手……」

「あーーーー降参します!」


 ミサスは白旗を上げた。


「内密にしてほしいのですが、先日から最西端のアキサンから連絡が途絶えています。今の時期は害獣のコルビタラの繁殖時期と重なっていますし、アキサン方面から爆音と共に大きな雲が上がったらしいです」

「何? 雲?」

「ええ。そうですよ」

 師匠の雰囲気のテンポが変わり、動きを止め固まる。実際どうかと言うとかなり黒に近い。

「師匠?」

「ああ……あっフーム。」

 固まった後に師匠がそうつぶやいた。

 見ると、フードを深く被った背の小さい給仕係。

 バケツとデッキブラシを持ったフームの姿があった。何てことはない。顔は見えないがいつもと同じでただ仕事をしている。

 数カ月前、バイチークに来た。

 ファーストコンタクトは最悪で、後にホッチとテプに怒られた。

 師匠の友の娘さんということで自分が城の雑務で空きが出来ていたところを自分が紹介した。


 そういえばその頃からだろうか? 師匠もここバイチークに定住するようになったのは。そうでなくとしても昔とは比べものにならないくらいかなり顔を見かける。

 実はここだけの話で噂とか鈍感というのは自覚しているが、フームは黒魔法使いと呼ばれる存在ではないか? と言われている。

とても強大な力を持つとされている黒魔法。その使い手が対立した結果、七千年前に世界統一国家をついこないだまで四分割にするに至ったと伝わっている。

人々はその力に恐れ黒魔法使いを消し去り世から追放することに成功するも、時すでに元のような一つに戻れる筈なく対立がずるずる今まで続いたらしい。

 今の黒魔法使いはその淘汰された者の末裔という意味である。騎士団に入って分かったことだが、黒魔法と呼ばれるのが実態は分からないが、“存在”はしていたものらしいのである。


 ただそこまで酷くはない? という意見も少しは聞いた。


 空想話であるがそれらを継承し、世にもとても恐ろしい黒魔法が使えるのでないか? が普通の世間での認識だ。

 親が子供に黒魔法使いをだしに「いけない子は黒魔法使いが来るぞ!」としつけるあれだ。

 師匠にフームについて聞いたことがあったが、誤魔化されて答えてはくれなかった。


「俺もアキサンへ騎士団と同行して良いか? フームもできたら連れて行く」


 師匠はいつもと少し違うことをするな。

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