4-05 閃光
「あれは何だ?」
少年が何かに気づく。小舟に乗った麦わら帽子の少年は空高く見上げる。いつも遊んでいるファザコンツバルと分かれた後、知り合いの漁師のおっさんの舟を借りて釣り竿一本を片手に海に出ていた。
ここの海は、目をかなりこらせば水平線の彼方に見える程の幅の広い海峡だった。しかも大陸と大陸を結ぶ重要な海路であり、それ故に昔から大陸規模の大きな海戦が行われてきたらしい。
そんな戦争が起きる、世界が大陸ごとに四つの勢力に分かれていた時代は五年前の世界的な大発見によって終わりになり、冷戦中でも大陸間の貿易の拠点になっている自分の住む港町はこれからさらに発展していく、と興奮しながら商家育ちの先生は言っていたが、そんな歴史授業は遠い出稼ぎの鉱山工の息子である少年には関係ない。
いつもの慣れた手つきで、いつものように今日の食料を釣っていたところだった。
最初に気がついたのは当たりが全然なく暇をもてあまして寝転がった時の事だった。
快晴の青空に雲の尾を引きながら銀色のトンボの様な物体が高速で横切ったのである。
あんなに空を高く飛ぶのはドラゴン(常識)。自分達の住むイストール大陸では紅い皮膚を持つメリロイが有名だが、この周辺では生息地からかなり離れている。そもそもあれの色は銀であるし。
そんな空を飛ぶモノが少年の住む町の方向へ飛んでいくのをぼぉーと見ていた。そして竿がぴくぴくと動いていたので慌てて柄を握る。
その時の少年は住む町からピカーッと最初の光が放たれたことを気づかなかった。
さぁ大物だ。早く釣り上げないと遅くなるし、ここら辺の夜行海獣に襲われるぞとかを考えていた。そこから突然世界が真っ白になった。飲み込まれた時には何かが分からない。
体を殴られたような轟音が全身を襲う。押し潰されそうな力が少年を襲う。一瞬の事で音が聞こえず、意識がどんどん遠のいて待ってくれなかった。何とかして、何とかしようとして舟の縁に手を伸ばしてしがみつくようにした。
意識が遠のいていく中、遠くに何か巨大な煙が見えた気がした。
それはどんどん空へと上っていく。
てっぺんが丸く盛り上がり、
とても――――
未来のアキサン守護隊長と称されるアキサン一番の剣士サーダイ・センは娘と離れた後、港にも一直線の仕事場へと続く道を歩いていたときのことだった。
包みを解き、蓋を掴むと銀色の弁当箱が娘の体温で生暖かくなっているが確認できた。大事に肌身離さず持ってきてくれた。開けると……美味しそうなおかずが沢山詰め込まれている。流石だ。自分の好みをしっかりおさえている。しかも栄養もツバルなりに考えている。ほらほらこの野菜とか! つまみ食い。と、とても長いな。
長い野菜炒めをくちゃくちゃ噛み、いつ飲み込むか孤軍奮闘していた。
周りの様子がおかしいことに気づいたのはその時だった。
口の中がもたついているのをゴクッと飲み込んだ。
周りを見渡したが特に何も見当たらなかった。
周りの人々の注目は全て上へ向いていた。
サーダイはすぐ上へ視線を向ける。
アキサンの遙か上空にトンボ
晴天のこの日には目立つ
そしてトンボから
ギラッと光る
一つの粒
落ち
た
その時はだんだん時間が遅くなったような気がする。
アキサンの街は光に包まれる。
目の前にはいきなりバケツをひっくり返したように世界が消える。
そして街は――――




