4-02 下駄の少年
「行ってきます」
ガララと戸を横に開けて麦わら帽子と下駄・釣り竿を持った重装備の少年は海中生物の捕獲へ向かう。こんな風に思うと“王冠”にいる騎士の気分になるから不思議だ。
「気をつけて行ってらっしゃい。舟で沖に出すぎないように。“隣大陸”の鬼に連れて行かれるからね。」
「もう海の向こう側の国と仲良くできる時代だ! って先生は言っていたけど」
「勉強していてよろしい。魚釣ってこないと夕飯は抜きだからな。分かっているな?」
「はいはい」
言い出しと終わりの繋ぎが乱暴な母さんの言葉を流しつつ、乱暴に引き戸を閉める。
少年は自分の家の前にある路地を進撃(徒歩)する。道なりに木造の家が建ち並んだ光景が目的の港まで続いている。夏休みのため少年より幾つか違う歳の子供の声が良く聞こえる。自分より小さい子どもがお母さんに連れられて外国物の三輪車で必死に併走してたりする。
少年は進む。
担いでいる釣り竿があちらこちらの障害物に当たらないように慎重に、慎重に……。神経をよく使った。気づくと汗で手が温かくなるほど握りしめている。少し手を緩めると手のひらが涼しく感じた。
ふと空を見上げるとても青い空で絶好の釣り日和である。晴れ男がいるのであろう。
一応、少年は自分の特別な日はいつも晴れているんだぜ! へーんと遠回しにアピール。
そんな愉快な感じで曲がり角に刺さったとき、事件は起きる。
どしん
ぶつかった衝撃で少年は後ろに尻餅をついた。ぶつかった先は布の下にぶにっと柔らかく温かいものだった。この感覚は人にぶつかったものだ。
慌てて目線をぶつかった先に向ける。体は大人より小さい……子どもでワンピースを着た女の子だ! これは大変! すぐあやまる!
「ご」
「バカ! ちょっと! なにぶつかっている……。お弁当!」
開口一番にバカって言われた。この声は間違いない。すぐ反撃だ!
「ツババァのせいだ。ばーか。あーほ」
ばばあ呼ばわりされた少女はむっとする。
「私の名前はツバル・セン!! バカバカ」
ばかにはバカと返す。
幼稚な言葉にすぐ腹をたてるツバルの姿が面白い。粗末な言葉で満足している少年もいたが。“少年”だしね。勘弁してくれ。
「父さん好き好きばーかあーほ」
「いや。それ程でも~♪」
こちらはほめ言葉になっております。いつもの子どもによるお決まりのパターン。
「ふー。バカバカのせいでひやっとしたけど。お弁当は大丈夫。しかも丈夫な金属製だから~♪」
弁当箱は魔法で浮かせて地面に激突を防いでいた。そしてツバルは少年がまだそんな器用なことが出来ないことをいいことに、くるりと一回転したり見せびらかしてくる。
そして手元まで持ってきて、握りこぶしでこんこんと軽く叩いてみせる。
「バカバカじゃない。ツババァ。金属は熱を通しやすいと先生が言ってた。手に持つと熱いよ」
「ふ、ふーん。お父さんはね、強いから少し熱くても平気なんだもん!」
後。ツババァじゃないと付け足した。
二人は川を渡る大きな橋を渡る。川は橋上の二人をアキサンの風景と一緒に映していた。
「さかな!」「さかな!」と二人は言った。覗いてみるととてもきれいな川で底に泳いでいる魚やカニが見える。二人ともとても暑い季節には「「こいつ」」と友達と一緒に裸足になってジャブジャブ中に入って捕まえたりする遊びをする。中々楽しい。河原の脇には置きっぱなしにしている魚を入れておくための、金属製の小さな器が水を張っているのも見えた。
渡りきると街を上下に突っ切る一番大きな道に入る。ここで分かれ道だ。
「お前の父さん。兵隊さんがいるあの“王冠”で働いているのだろ?」
「のー。あのせんとーのかんむり被った建物を大人はアキサン総督府と言います! 未来のアキサン守備隊長であるおとーさんが言っていたから間違いない」
「じゃ!」「じゃ!」
少年は大きな道を港の方向へ歩いて行った。ツバルは反対側の父さんの勤め先の方向へ。あのアキサンの中央にある“王冠”と呼ばれた大きな尖塔屋根の建物へと向かった。




