表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/85

1-7 スカウト失敗

※ブックマーク機能としおり機能の併用が、読むときに大変便利です。

○数日前

「ミサス。影王は、あの場所にいたんだな」

「はい。マイネン団長」

「頭痛いぞ。何も聞いていないのか? 弟子だろ?」

「いいえ。久しぶりの再会です。ニルキ・コロコロ氏は“恩恵”持ちなので、無関係とは言えませんが……」


 ミサスの目の前にいる人物は、上官に当たるマツカイサ帝国騎士団 団長のマイネンだ。

 先のホットスポット訓練の後に発生した緊急任務の報告を行っていた。

 一番の論点は“影王”の襲撃だ。


「あの人は何を考えているんだ」


 団長の言葉に、ミサスは何も言い返せなかった。





○現在

「たーーーーいちょう!」

「な、何だ。テプ」

「いえ。どこか上の空だったので」

「いや。さっき団長と話した内容に」


 ミサスは、適当に部下をあしらった。


「ミサス隊長! あの影王って人と再戦させてくださーい」

「駄目だ」


 ミサスとテプの二人は訓練上がりで、城の騎士団専用の更衣室にいた。

 男性用のシャワーを装備した最新設備を整え、設置前より汗臭さを気にする城内の女性からの要望が叶った形だ。

 二人は並んでシャワーを浴び、タオルで身体の水気をとる。


「隊長! 質問が二つあります」

「何だ」

「あのオッサンとお知りあいですか?」

「カズルか。一応幼馴染みだ。城の門番は出世コースの入り口らしいが、あいつは嫌いだ」

「確かにあのオッサンの態度は最悪ですね。

 それで二つ目、黒魔女黒魔女言っていましたが、あの女の子は本当に黒魔女ですか?」


「魔力の様子は独特だよな。確かに黒魔女と言われるものに質は似ている。だが、」


 ミサスは一息置いて、テプに諭すように言った。


「今の世界に黒魔女と呼ばれる存在はいるとしても、七十年近く人々の目の前に表れていない。

 どちらかと言うと、知らない人の方が多いだろ?

 ただの思い込み。偏見。そんな話は、ロクなものじゃない。普通の女の子みたいだしな」


 ミサスは急いで普段着へと着替える。

 その様子を見て、テプはニヤニヤしている。


「ところでミサス隊長。これからどこへ?」

「ああ。あのフームって子とデートだ」

「えっ。隊長ロリコンだったのですか!」

「違うわ! 師匠から生活拠点を探してほしいと頼まれているんだ。

 あの手紙の内容は訳が分からなかったけど!

 前に友人の娘が来るから、それとなく配慮してほしいと直接頼まれていたからな。

 それに歳は同じと聞いてる」

「合法じゃないですか! やった! 負けませんよ。俺、あの子タイプです」

「勝手にしろよ」


 一番の新入りを適当にミサスは対応する。


「そういえば、お前は副隊長のイーサーが推薦してきた人材だが、その割には俺とつるむ時間の方が多いな」

「イーサーさんは苦手なんですよ。だけど、こういった力のある騎士団へ入るには近道だっただけのことで」

「それ、イーサーが聞いたら物凄く怒るぞ」

「な、内緒にしてください」


 笑いながら、着替え終わったミサスは部屋から出る。


「ミサス隊長。その割には顔がにやけてますよ」

「当たり前だ。ジョー師匠の推薦だ。人の見る目だけは信頼できる。うまく隊へ引き込みたいからな」






○マツカイサ城応接間

 ミサス・シンギザ。

 バイチークで、同い年であるその騎士に最初に会うことが、家族と交わした約束の一つだ。

 その人は、マツカイサ帝国騎士団の隊長らしい。


 へー。何で家はずっとノシン村で農家を続けていたのに、何でそんなエリートさんと知り合いなの?  と聞いたら、どうやらジョーおじさんのお弟子さんらしい。


 ジョーおじさんは、とても胡散臭くて、少し挙動不審な怪しい大人だ。

 おじさんは偶に家に寄ってきたら、怪しいものと一緒にくれる。良い人ではある。

 「おじさんは異世界からやってきたんだよ」とか、冗談つくところは嫌い。

 そもそもおじさんといい、両親といい、正直何者か分からなくなる時は多い。

 それらを入れている魔法道具と同じやつが、今さっきミサスと言っていた騎士が身に付けていた。

 間違いない。彼なのだろう。


「お待たせしました」


 城の応接間で待っていたフームの元に、着替えたミサスが現れた。


「ようこそ。バイチークへ。話は聞いているとは思うけど、師匠の推薦でマツカイサ騎士団に」

「え。何も聞いてませんけど」


 フームは素直に答える。


「へ?」


 ミサスは間抜けな顔をする。


「いや。ただ直接会って、話を聴けって手紙がきた。

 その手に持っている手紙を見せたら、話は通じるとも書いていた」

「あー。これは自分も何が書いているのか分からない。なんか自伝か、私小説みたいな」

「そうだよ。こういうことになるのだったら中身をしっかり確認しておけば良かったなと。

 でも、何か引けなくなったし、とにかくあまり知らない土地で一人はかなり危ないから食い下がった」


 話は終わり。と、フームは満足げに答える。


「人材は自分で見つけろってことか」


 ミサスが呟いたことはフームにはよく聞こえなかった。


「フームさん。マツカイサ帝国騎士団で働くことに興味ありませんか?」

「えっ。あのマツカイサ帝国騎士団に私も働けるのですか!」

「そう! 『来たれ若人達! 大陸を代表する騎士団で力を示してみよ!』という物騒な煽り文句は気にしないでください」

「でも、世界的に平和な流れだから、軍縮とかやっていると聞いたよ? 騎士団も」

「おっ。よくご存じで。世界の英雄の功績によって、これまでになく多大陸勢力同士の関係が安定しているのは間違っていません。

 ただ今、歴史あるマツカイサ騎士団で未来を統べる期待の若者達を集めた青年隊が結成しており、幅広い分野で若くして活躍の場があります」


 どうでしょ。とニコニコと営業スマイル


「それはとても良い話ですね」

「ではここにサインを」

「お断りします」






「あの。おじさんから頼まれて色々とお世話してくれるのは良いけど、もうくどいよ」


 ひたすら食い下がってくるミサスに、フームは呆れ顔である。


「ミサスでいい。ふっふっ。本当にこれは凄いぞ。」


 手のひらサイズの板を出してきた。横にある突起をミサスが押した。

 すると、板に光の表示が現れ、触ると画面が動く。


「スマホだぁ! こいつは凄いぞ。こんなに小さいのに、」

「知ってる。写真とかメモや本が見れるのでしょ」


 フームは見せつけてくるミサスからスマホを奪い、丁度良い高さにあるミサスの溝内をボカスカ殴り、座らせて(ミサスがうずくまって)、腕を伸ばして自撮した。


「異世界の道具を見せたら女の子がキャーキャー寄ってくるのは嘘だな」

「別に、私はミサス出した道具すべて知っているからね」


 ミサスのアピールにフームはドライな態度だ。

 異世界出身の師匠達から聞いた「これだけやっておけば人はチョロイ」シリーズ全て駄目だ。

 ミサスが全ての行動を後悔することに遅くはなかった。


「これも、全部ジョー・サカタってやつのせいだ」

「ミサス。一応ジョーおじさんは師匠なんだよね」

「ああ」

「おじさん。物凄く胡散臭いけど」

「うん。ものすごく胡散臭い」

「何でそういう人が師匠なの?」

「人の容姿や能力の評価にはある意味嘘をつかない人だから。人を見る目()ある人」

「何か、私の新生活にとても不安になってきた」

「因みに騎士団に入って頂けると、城内に無料で一人部屋を借りることができます。その他福利厚生も充実しています」

「もういい」

 

 押し売りセールスは聞き飽きた。

 フームは、ミサスに背を向けて去っていった。








「ミサス隊長。上手くいってなさそうだな」

「あのフームってお方に対して、ミサス様はとても悪手ばかりです」


 建物の陰で二人の帝国騎士団員が、上司であるミサスの後をつけていた。

 一人はテプ(別に面白そうだったからではない)で、新たに加わった可愛い女の子はホッチ(ストーカーではない)である。

 ホッチの声質は、男性そのものだが生まれつきのものらしい。


「ホッチ。珍しく隊長のこと辛辣だな。後、その男そのものの野太い声で、そのセリフはいつも心臓が悪い」

「ふふふ。あの方があんな笑顔をなさるのは、何かに秀た優秀な人間には頻繁にやります。それに対して決して妬みなどありませんし、あれがあったからこそ私はここにいる」

「ふーん。妬いているのか」

「そんな。ミサス様があんなに笑顔なのは、素晴らしい能力を持った相手には惜しみません。このホッチは、愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛しているミサス様のおかげでここにいます」

「怖い!」


 ホッチさんは、ここら辺はポンコツだ! とテプは嘆く。


最新話下方に設置しているポイント高評価登録をぜひお願いします。

この作品をお気に召しましたら、ブックマーク機能をオススメします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング←クリック応援お願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ