3-28 異世界同人誌即売会最終日 楽しい時は終わった
〇バイチーク会場 3日目
朝刊に掲載された昨夜のニュース。
世界的犯罪者ナメル・ナメの再捕縛。前世代から残る罪人が次世代の世界の英雄の娘4人の前に倒れた。“世界の英雄”が築き上げたこの平和な世界に必要のない争いを巻き続けるサイコパス。
最後は……
「ミサス・シンギザ率いる帝国騎士団第二隊がナメルを制圧。他同行していた守護隊ヒロ青年隊は1人の重症者を残し全員死亡。各大陸の御座船は修復のため湾内に投錨を続ける」
バケット同人誌即売会三日目。遠くに浮かんでいる残骸を見る野次馬が多いものの盛況だった。
コスプレイヤーの沢山いる中で、ボランティアスタッフが座り込んでいる人間に声をかけた。
「昨日の一番の功労者が、警備スタッフで参加しているとは思わない」
「世界の英雄の娘もだろ。一番楽しみにしていた同人作家でさえ新刊同人誌の販売も、売り子に全て任せると言っていた」
ミサスは傍らに置いていた新刊の裏表紙をマウに見せた。ふと横を見ると紙袋の中に束となった戦利品が顔を覗かせた。
全て良い子には見せられないものだ。
「ミサス。えっちいのは良いけど、過剰摂取過ぎ」
「ほとんど代理購入も休憩時間の内に回ると体力を消耗する」
マウはそっと置いた。
「もう覚悟は出来た?」
ミサスはマウに聞いた。
「うん。私はこれから正式に“世界の英雄”の娘として世間に認められ、ゼロポイントで儀式を行って、姉妹達と同様に御座船に幽閉されて……」
マウは色々出し切って、言葉をつまらせた。
「ただ父親が作ってくれたこの世界と、離れていても姉妹が助けてくれているからなるようになるさ」
マウは遠くで分身を作って参加者の誘導をしているクモン。
会場内部で似合わない似合わないと代理で魔法少女のコスプレの売り子をしているガイノ。
見えない触手で参加者の財布や金品を盗むスリを捕まえていくビオンテ。
「前から思っていたけど敵に回したくない。というか、何で前からいるの」
「皇帝から直々にお願いされた。バケットを中止させることは内政にも響くからでしょう。影王様の心臓を借金の担保にしていたぐらいだから」
ミサスは途中から話を聞いていなかった。
「それよりもミサス勝負時だね」
マウの背中を叩いた先はエケがいた。
いつもの男装でなく、黒髪のショートが特徴で黄色のワンピースを着ていた。
顔が怒っているのは分かっている。
「同世代の女の子が話しているだけでも妬けるのだから。しかも戦闘準備した上でね」
ドンとマウは送り出した。
「ミサスを送り出してよかったの? 私が付き合おうかしら」
「ハートをキャッチキャッ……いえ私の婚約者候補に入れる」
「一緒になっても、一番のキャラクターを愛してくれそうだし」
いつの間にか後ろにいた姉妹達に煽ってくる。
「私は大体どうしようもない男を好きになるの。ただ、ことごとく結婚相手に向いていない」
マウは空を見上げたままだった。
「逆ナンされていましたね。しかも強くて美しい世界の英雄の娘達に」
「まさか。そんなことはないよ」
「いいえ。されていました」
マウはご機嫌ななめなことは分かっている。
女心は分からない。
「それにしても良いのですか。ギャラリーが満足しないですよ」
ミサスは周りを見渡すと多くの人に囲まれていた。
カメラを構えられていて、自分に注目が集まっていた。液体を通して焦点距離を変える水レンズの長筒全てが向けられていた。
目線を戻すと、マウは笑顔だった。傍らには武器が沢山並べられていた。
「コイコイで暴れたキャプテンカルパッチョは有名です。コスプレしている本物には近寄ります十徳刀」
「覚えていろよ」
「最初は9番です」
手渡しで受け取ったマウから武器を投げ上げた。高く上がった刀を宙を舞った後、手に取り、そのまま地面に叩きつけた。
9番“日本刀”有名な近接格闘武器
そのまま置いて、大きな剣を振り上げた。
2番“大型剣”大きな獲物を文字通り両断する。
そして落ちて来た剣を掴み、地面へ叩きつける。そのまま地面に突き刺さったまま、その両方ですでに準備されていた双剣を両手で手に取った。
5番“大型ハサミ”途中のヒンジを取ると双剣モード。局所で硬い部位を解体する時に使う。
3番“大型ペンチ”こちらは機械や建造物を解体する時に使う。
6番“ヘラ”ミサスが得意とする炎系魔法で調理をする際に使用。
8番“弓矢”シジキ三姉妹とは違い、特殊な加工をした矢を使う。獲物用、工作用、対人用と多い。
4番“槍”素手厳禁の怪物を相手する時に使う。戦略生物兵器相手は主武装になる。
7番“大型網”大量の小型モンスターを大量捕獲ないし、肉を運搬する時や罠の作成に使う。
10番“釣竿”魚釣りへ行く。
「最後の1番は持ってきていないですが」
「いい加減にしてくれ。バケットのレギュレーション内で派手に演舞するのも大変なんだ」
ちゃっかりマイカメラを取り出して、ミサスの姿を撮影していた。
疲労がすごく汗だくになっていた。
撮影会はお開きになり、ミサスは離れたところへ移動した。
「…………」
「何か言いたいことがあるのか?」
「いいえ。別に。 鈍感だなと思って」
「あー。なら今、言いたいことがあるんだ。ホッチ。その、」
すぐにその言葉をホッチは背伸びして遮った。
「ミサスさん。私は国へ帰ります。今までありがとうございました」
「そしてさようなら」
今まで聞いたことの無い声でミサスはふられた。




