3-27 一世代経てば現地弟子が台頭する
「勇ましい号令だけで倒せないわ!」
ナメルは魔力を練り、何枚もの盾魔法を生成させた。
初撃での三方向からの矢をボトボトと落としていく。
「固い。身体が穴あくほどの矢なのに」と次女のチク
「うーん。チク姉何枚かは盾魔法は破壊できてそうよ」と三女ウメ
「持久戦だ。前衛が楽に戦えるように根性で」矢を放ち続けろ!」と長女マバ
シジキ三姉妹は耳の通信魔法器具を使い、一番遠いところから援護をしていく。
「遠くからの射撃ご苦労様!」
一瞬の間合いを狭めて、ナメルの腹部へ重い一撃を放つ。
コンスの鉄拳が決まり、敵はうずくまった。
「札か。何とも時代遅れな古典技術を使う」
背中の札を確認し、ナメルは腹に食い込んでいる腕をつかみ、後ろへコンスの身体を投げつけた。
後ろに待機していたゲンノが片手で海へ落ちる前に捕まえた。
追撃してきた攻撃を、イーサーが瓦礫を魔力で浮かし盾としていく。
地脈から魔力を供給し放つ。ただ海上では血脈からの魔力供給が著しく減る。
それを補うためと携帯できる魔法器具である刻印札が開発された。
今では娯楽へその技術が応用されている。
コイコイで行われているカードゲーム。
詠唱省略を目的とした三単唱。
「ほう概念魔法の外し方は最低限知っているようだな」
「ええ。家族から徹底的に英才教育と、ここにいる人たちは理不尽な力に対抗する力を身に付けている」
マウの掛け声と同時に転移の札を起動させた。
「ほう。3人か」
ナメルの前には、ミサス・ケコーン・クレパが現れた。
三人の片手には得意とする得物を握りしめ、魔力の障壁を削っていく。
途中からミサスに渡り、的確に削いでいく。
概念魔法は人間の他の発明と結びついたもの。ルールメイキング。ゴールポスト。
発動条件があるものの、決まれば固く返せない。
力技で変えるためでも姉妹達がこれで、構成条件をずらして対抗した。
「世界の英雄はあらゆる常識を過去のものとしていった。私の“武器無効”といい、概念魔法は人間社会が生み出した最強で最悪の力。世界が四つに分かれていた大きな原因の一つだ! あの方こそこの時代を築いた!」
ナメルはクレパに一撃を後ろに受け流し、ミサスの一太刀を受け止め、ケコーンの斧を魔力で吹き飛ばした。
「あんな偽物顔があの方を利用しているのが気に食わないが、弟子も弟子だな」
「侮辱している割に後ろで伸びている“ヒロの英雄”という誰もが知るイーゼの称号を利用しているじゃないか」
ミサスは武器を引いて二太刀目を浴びせる。ただ途中でナメルのスキルに寄って理不尽に破壊される。
バラバラと足元に砕けた金属片が落ちて来る。
「馬鹿め! スキルを知らないのか」
「知っているよ。ただスキルより技能が得意で十徳刀と言われてる!」
首を狙ってきていたナメルの手刀に、ミサスはクナイで刺した。
どこからその武器が来たのか。振り返ると後ろへ叩きつけたはずのクレパが手持ちの武器を投げ渡していた。
その一瞬の隙に後ろから手渡しされた斧を振り上げていた。
後ろへ下がったが、全てかわし切れず一撃を食らわした。
体に真っすぐな線ができ、鮮血のシャワーがミサスに降りかかる。
「くっ」
ナメルは横へ逃走していくが、ミサスは弓、矢、ハンマー、そして銃。
攻撃の手が終わらない。確実に抑え込まれている。
肉や腱を封じられ、潰され、切断され、無残に動きを止められていく。
この世界で魔力は外見の次に人間の評価を決めていく。
目の前にいたのは魔力に捉われず、効果的な戦略がくる異様な人物。
常識を壊されていくこの感覚。
“世界の英雄”という前例があったのに、ナメルの前にいる人間を止められなかった。
「ああ世界の英雄〇〇〇〇〇〇〇様を!! この名前を轟かせることができない侮辱に!」
「これで終わりだ」
「! いつの間に!」
ミサスは一歩踏み込んで、ナメルにあった恩恵を引きちぎった。
黒い煙は未だに手の中で出続けていた。
そのままナメルは後ろへ倒れこんでいった。
「はは。世界へ喧嘩を再び売ろうとした結果がこのざまだ」
見下げているミサスに向かって言った。
「そもそも本を燃やす人間に、誰もへ何も伝えられない。その時点で計画は破綻している」
ははっははとナメルは大きな声で笑った。
「この世界にはイシャララはもういない。戦後第二世代の健闘を祈るぞ!」
いやらしい笑顔のまま、ナメルの意識が無くなっていった。
〇 〇 〇
「ねえ。ミサス。なぜマウはバイチーク最強と言われているの?」
水平線の先に太陽が見えて来たころ。駆けつけて来た医療班と共にいたフームはミサスに聞いた。
ミサスは背中に手を回し、張り付いていた札を見せた。
「これはカードゲーム?」
「ノーマルカードで同世代のデッキに圧勝し続けた。魔力は関係ないからバイチーク最強」
「え。それだけ?」
「それだけでないけどね」
遠くで姉妹の介抱をしているマウの姿を見た。
誰にも好かれる人柄。カリスマ。
例え本人が望んでいなくても。
「あきらめがつかなかったのだ。世間でいう学力や魔力という訳でなく、身近で好きなところで圧倒された。しかも嫌味なく爽快に。名前を失わず名声が必要だ」
この場にふさわしくない声が聞こえた。
「ミサーース・シンギザ!! 久しぶりだ」
憔悴しきっている隊員達や医療スタッフに目をかけず、ミサスの前に立った。
「ミスターウリモ。お久しぶりです」
パーチティを拠点とする貴族。ウリモ家の家長。
現マツカイサ帝国皇帝プラム・マツカイサの政敵。
ウリモ
「ははは覚えてくれてうれしいよ。十徳刀ミサス。私の親衛隊コレクションに入らないか?」
「お断りします。前にも申し上げました」
ミサスの珍しい事務的な返答にフームは引いていた。
その反応を分かりきっているようで、遠くにひと際集まりのあるところへ目をやった。
中央には大きな氷塊が鎮座されていて、移動させるために声が聞こえる。
「ナメルは凍結処理をされて“ゼロ”ポイントへ移送か。やはりあいつらは蓋をしたいのか」
「分かりません。国際手配されているテロリストはどのように裁かれるのかわかりません」
「ほう。ならこれからか」
ウリモは目を光らせた。
魔力を使っていることが分かったが、何を見られたのか分からない。
「ジョー・サカタの推薦した人材が黒魔法使いか。ボットが噛んでいるらしいと思ったがいつものことか」
ポロリと口にした言葉にフームが反応した。
「なぜ知っているのです?」
「ははは。貴族は情報戦だ。この世界の英雄が築いた平和すぎる世界では、新たな既存特益に乗るのが利口だ」
「! だったら」
「おっとそれ以上いけない」
フームの言葉を制止させた。
「ただで聞くのはいけない。対価をもってくるか、投資の対象として自分を売り込むかだ私の興味は骨董品な黒魔法に無い」
ミサスのポケットに手をつっこんだ。
「恩恵“影王”はもらっていく。皇帝との約束だからな」
「な! 待て!」
体を動かそうと思ったが、動けなかった。ミサスの肉体の酷使が限界を突破し、ウリモが最後の何かの一撃を加えて金縛りにあった。
そのまま立ち去ろうと思ったが、ウリモは足を止めた。
目の前の世界一有名な顔に似ている人間に言った。
ウリモはわくわくした顔で話しかけた。
「消耗しきった人間から奪い取るのは卑怯じゃないか?」
「後から攻められないように手は回している。情報や交渉を使うのは血が流れない戦争で、世界の英雄が良く使った手で無いですか」
「ああ。そこに氷漬けされているナメルが一番得意としたプロパカンダだ」
本気を出しているジョー・サカタは戦いを始めた。




