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3-26 恩恵”影王”VS第二世代たち

「日和見主義があ。他人任せの人間がダメにする!」


 ナメルは本体を現した。先ほどの天空会議場で対峙した姿とは違う。

 瘦せ、骨が浮き出ていた。背中は折れ曲がり、目の奥は真っ暗になって確認はできない。


 見た目は醜悪な小鬼が正しい。

 胸の恩恵“影王”からは、煙が上っていることが確認できる。


 今までまともなダメージが見れた。


「師匠。真の姿だと思いませんが、覚悟を」


 ネードは構えて足に力を入れた瞬間、膝から崩れ落ちた。


「おいおいくそ雑魚ナメクジじゃないか。啖呵を切ったのに」


 国を滅ぼせる戦略級の魔力をくらい、少ない手数で国内の魔術師を沈黙させるほどの肉体。

 すでに限界だった。

 手足が動かない。


 カツ、カツンと怒りに満ちた足跡が近づいてくる。

 たどたどしい世界中の敵を止める者がいない。

 音が止まった時、ネードは見上げると目が合った。


 殺される。凶器となった右手が今まさに振り下ろされようとしていた。



 その手を掴んで止めた。



「ネード。みんなを虐め続けたからね」


 ドンと大きな風が吹いた。


 2人の間にはマウが降り立っていた。

 身体の曲線が露わになっている戦闘服。

 先ほどの傷や疲労は無く、かつての演習時のようにその場を注目を集めた。


「ほう。確かにあの方に血を引き継いでいる。素晴らしい回復力だ」


 ネードは若い実力者の目を覗き込んだ。

 利き腕であるはずの手が動かない。

 目の前の小娘が練度の高い肉体強化魔法を付与していたことに気づいた。


「いいえ。近くに上質な魔力石があったから楽」


 背中には空中で浮かんでいた会議室が落ちて来た。

 姉妹達は大胆さに感嘆し、労力や資金をどれだけつぎ込んだか知っている松国(プラム)陛下は引きつった顔をした。


 そのまま間髪入れず容赦なくマウはネードを殴り飛ばした。

 そのまま肉体は回転しながら、落ちて来た瓦礫の山へ飛沫を立てて止まった。




「豪快だ。国家予算ポーションは悪くない」

「ミ、ミサス大丈夫なの?」


 隣で立ってきた顔はかなりズタボロで、腕や関節にも炎症が発生していた。

 周りは姉妹達が倒れていて、裂傷になっているところをカリがスライムになって傷口を塞いでいた。


「マウ。モウ師匠から預かって来たものだ」


 応急治療魔法をかけられながら、ミサスは彼女の母から渡された秘密兵器を渡した。

 中を見ると神の札が束になって入っている。

 その中に一枚メモ書きが入っていた。


 先日の強力な魔力が空回りし、確実に相手にダメージを与えられる札を組み合わせた攻撃がよい。

 追記 あなたの判断は支持します


 マウは小さく折りたたみ、元のところに戻した。

 紙の束をシャッフルしていく。


「今満足に動けるのはミサスしかいない。目の前にいる犯罪者を、カズルのようにまた殺す?」


 落ちて来た瓦礫の上ではナメルが直立で立っていた。

 見た目とは違い、魔力が衰えてはおらず、先ほど殴られたダメージを感じさせていない。

 星の光が恩恵から出ている黒い煙を照らしていた。 


「いや。生け捕りだ。ナメル(やつ)は公共の前で裁かれないといけない。英雄と盲信者だと訳が違う」

「…………そう」

 

 ミサスは答えつつ、傍らに転がっていた剣を取る。

 マウは、それ以上聞くことは無かった。


「さて、世界の英雄の娘(マウの姉妹)や、同格である恩恵“狩猟王”(カリ・コロコロ)の力技でこれか。これから何をすればあいつを倒せるのか」

「ミサス。新聞で読んだけど、守護隊の活躍でナメル・ナメは最近生け捕りになっている」

「今から守護隊の名の知らない有力者を呼ぶか?」


 マウの突然の言葉に合わせる。

 ジョー師匠の知人である守護隊のベテランが殉職する程の相手だ。客観的に見て対抗できる人間が限られる。その中で最善であるはずの世界の英雄の娘達もノックアウトされた。


「いえ。ナメルを相手できる人は限られていている。可能性があるのは影王様」

「影王。でもボット師匠は……」


 ちらりと目の前のネードを見た。胸には核である恩恵“影王”が鈍く光っている。


「私は恩恵の仕組みをよくわからないけど、ナメルはあそこに閉じ込められているともいえる。生け捕りした後の演習で見た影王様は間違いなく本物だった」

「……確かにボット師匠は、ナメルを戦闘不能にはしている」

「うん。今やり方は分からないけど勝てる勝算はある。概念魔法は理不尽な強さがあるけど、それを都合の良い方へ書き換えていけばいい。得意なことをするだけ」


 確かにな。とミサスは頷いた。


「影王は見た目の派手な技を使う割に魔力が少ない。属性変化(スタイル)を多用するのもそう。魔力の絶対数の少ない達人を呼ぶか、消耗しきっている身体を酷使すれば武器無効の定義をずらせるかも」

「そうそう。勝つためには頭を使わないと。それに」


「実際、影王様よりミサス、ミサス達は強いでしょ」


 真顔で言われて、振り向いた。照れくさくて真上を見上げる。


 すでにマウは準備をしている。


「ミサス。あなたの仲間達は武器無効という不正(チート)じみたスキルを相手にして戦えるの?」

「無論大丈夫」


 ミサスは即答した。

 マウに背中をバンっと叩かれつつ、そして大きく手を上げて合図をした。


 



〇会議場 残骸


 天空に浮いていた会議場は、緊急事態でも海上で浮くように設計されていた。

 ミサスは凍結魔法で海面の熱を奪い、氷を生成して足場を作った。

 一本道ができ、その後をすぐに走っていった。


 その先に目当ての人物がいた。

 後ろには大きなくぼみが出来ており、その前に胡坐をかいていた。


「世界の英雄の血でもなく、例の男から聞いたSキラーでもなく、、貴様が立ちはだかったか」


 ナメルは目の前立つミサスに話しかけた。


「これが望んだことか? ナメル」


 ミサスの問いにナメルは片頬を歪ませた。


「世界の権力者ども聞いているな」


 突然大きな声を出した。


「お前らは隠しているが世界の英雄は消えた! それで世界が不安定になるのを恐れるのは分かった。だがあれから何年経った! 途中で保険として育てていた臆病者さえ担ぎ上げる始末! 次世代を担う娘達は遊び呆けて、息子は毛嫌いしていた貴族や既得権益に群がる豚に祭り上げられた!」


 ナメルは立ち上がるが横からの殺気に反応し、後ろへのけ反った。

 かわし切れず、ナメルは切り付けられた。胸からは赤い噴水が湧き出る。

 

「最初に一太刀を行ったのは、テプだとな!」


 大きな一撃。剣士テプがナメルに高らかに宣言した。横目にナメルは睨め付けた。

 意識が横に逸れた瞬間、反対側から大きく炎の渦が顔を襲う。手で払うがなかなか鎮火しない。


「隊長待ちくたびれましたよ! 珍しく予定通り脱稿できたと思ったら、正真正銘バケット最終日の前に完徹コース! しかもS級犯罪者の確保! ツッコミは終わりません!」


 全てネタにして新刊にしましたけどね! と魔術師サンモが大きな火球で攻撃を行う。

 すぐに魔法の対抗を行い、火は消したが、“恩恵”の肉体回復は大きな火傷を瞬時には回復できていない。顔の一部分が大きく表皮の下の部分を露出し、痛々しい。


 ナメルは周りを見渡す。青年隊の者どもが武器を持って包囲していた。


「ナメル。一つ勘違いをしている」


 ミサスは一歩前に出た。


「バイチークの人間は紙に好きなこと、くだらないこと、卑猥なもの、面白い者を記して、同じことを思う同志を作ることを好む。その内容が自分の思想とは違っても、伝えること自体は否定しない。だが」


「本を焼いたそうだな。お前は人へ話を届ける手段を自ら放棄していた。そんな奴の話は聞けない」


 ミサスの号令を放った。


「帝国騎士団青年隊! 討伐対象は目前ナメル・ナメ第一等級犯罪者。武装は恩恵“影王”とスキルは武器無効。即刻身柄を拘束せよ」


「「「了解!」」」

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