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3-24 自己中心

 いくらか時間がかかった気がする。

 廃墟となっている展望室でミサスは目の前にいるナメルに導かれるまま座っていた。

 日はすでに沈み、夜空には星が輝いている。そこへ向かう火柱が大きく三つ昇っている。


 改めて目の前の男を見る。


 魔力のプレッシャーが大きいことは当然だ。

 しかし、世界の英雄の娘達といった天井の見えない強さとは違い、神経を直接刺激される危険を感じる。特A級の魔物を対峙する時や本気をだした師匠達とは違う。


「ミサス。殺意が駄々洩れだ。思考が子供のように分かる」

「……テロリストに指導されるとは思いませんでした」

「そうかテロリストか。反逆者か」


 噛み締めるようにナメルは口を含んだ。世界中から言われているはずで、この程度でメンタルは潰れないはずだ。

 どこからか出してきたティーカップに紅茶を飲んでいる。


 交渉に切り出す。

 ミサスは覚悟を決めた。この場でマツカイサ帝国元首の行方とマウ。

 そしてジョーとボット師匠の身柄の確認が必要だ。


「ナメル・ナメ。私は貴殿の要求通りマツカイサ帝国の代表として来た。我が国の国家元首ならびに民間人の引き渡しを求む。要求はなんだ」

「要求か」


 ナメルは傍らにカップを置いてミサスに向き直した。


「既に目的は達成した。私が求めることは無い」


 今日の夕飯何が良い? という問いに何でも良いという責任の無い言葉。

 ミサスはこみあげて来るものがあったが堪える。

 こういう舌戦は有能な部下(ホッチ)へ全て投げ出したくなる。


「目的は達成した。なら解放してもいい筈だ」

「ふっ。決定権はこちらにある。なぜわざわざ乗らないといけない」


 こいつ殴ってやりたいと思った。モウ師匠

 ミサスは懐から食べ物をとりだした。どこからか出てくるとは思ったが、どこからも出てこなかった。


 落ち着いた。その頭でこちらからの札を切ってくる。


「一つ聞きたい。なぜ私を指名した」

「それは警戒する()()の弟子。十徳刀(ミサス)。第二世代を代表する人材だからだ。丸腰で単身で来た度胸も評価が高い」


 ナメルは懐から魔法器具を取り出した。目の前に床の素材を隆起させて机を生成させた。

 ナメルの手に持たれているモノを見て、驚く。


「“恩恵”影王」

「そうだ。過去マツカイサ帝国皇帝が臣下に贈った現役化石魔法器具。その中でも近年新造された影王。肉体を失った魔導人形となったボックリ・マツカイサの心臓……」

「なぜそれを使っている!!」


 ミサスは吠える。

 目の前にはボックリ・マツカイサが死んだことを意味している。

 そのまま魔力を込めて起動する。

 ざざざとこの部屋に見覚えのある守護青年隊員が囲んだ。


「分身を映し出していたのか。ヒロの青年隊は娘達の御座船へ破壊工作へ行っているのか」


 未だに鳴りやまない遠くからの爆音に意識を向ける。

 炎と武器の擦る金属音。

 世界の英雄の娘いえど生け捕りと戦闘不能にしていて時間がかかっているみたいだ。


「ミサス。貴殿の能力を高く買っている。コロコロ家の令嬢を魔導人形として復活させた。前提として“恩恵”の情報はバイチークの城兵(カズル)を使った。一族を皆殺しにし、奪取するとは思わなかった。最期は肉団子になって首をとったのだろう」

「……カズルがヒロに遠征後から変わったと聞いたことがある。そこで影響があったのか」


 ナメルは口元を緩ませた。


「そして“恩恵”を動かすには一人の魂が必要になる」


 そして恩恵を解いた。ナメルの姿はみるみる変わっていく。

 同世代で英雄(イーゼ)と呼ばれる男。


「ネード。お前その目は」

「ミサス・シンギザプレゼントだ」


 どこからかやって来た身体を投げつけられた。

 顔を確認した。


「マウ……!」


 その身体は酷く冷たい。大変衰弱しているのが


 そのまま片手の突きがマウの身体を貫通してくる。



 大きく衝撃波を加えられ、ミサスは後ろへ吹っ飛んだ。


「貧弱でないだろう。ミサス・シンギザ!! 下衆共と同じ暴力交渉ならばわかりやすいだろう」


 ネードの顔をしたナメルが言う。

 体は動かない。だが胸から大きく魔力で包まれていく。

 生臭い鉄の臭いが鼻につく。


 持たされていた秘密兵器が動く。

 その魔力の正体にナメルは気づいた。



「ほう。恩恵には恩恵。“狩猟王”か」


「助かった。カリ」

「お易い御用ですが、油断大敵ですよ」


 ミサスは大きなスライムの身体で衝撃を緩和していた。

 スライムの身体からカリ・コロコロの声が聞こえる。


「ほう。コロコロの箱入り娘がこの場所にいるか」


 カリは目の前の一族の仇を睨め付けた。


        〇  〇  〇


 カリ・コロコロは他大陸へ留学を予定していた。

 もちろん目標であるギルドマスターとなるため。

 イストール地方には無いギルド制度を視察するためだった。


 そもそも準備はしている。ギルド運営に必要な受付嬢が持つスキル鑑定能力。


 世界中のギルド支部を繋ぐ情報ネットワークが無かった時代。その絶対値を正確に読み取る鑑定能力は貴重とされていた。

 魔力器具を現代でも対人戦の情報収集として利用される。


「スキル判明“勇者”いや仮面がつけられている“偽勇者”」

「なるほど。人形なだけに都合に良い良い目をしている」

「それはどうも。仇から褒められても嬉しくはありませんが」


 カリは顔と上半身の一部を実体化させた。

 コロコロ一族の虐殺の実行犯カズル。その裏で暗躍していた黒幕。


 先の大戦。世界の英雄陣営の名声の礎を築いた詐欺師(正直者)


「カリ。鑑定能力で見すぎるな。陸地から離れて地脈からの影響は受けづらいとはいえ、目が焼けてしまう」


 ミサスはカリのまぶたを遮る。

 そのままカリはスライムの身体を分離させ、動かないマウの身体を包む。魔力のスープで満たされている。このまま保存は効く。


「ミサス。このままだったらマウ様は確実に死にます」

「分かっている」


 ミサスは、胸に付けた“恩恵”狩猟王の出力を上げる。

 

「十徳刀は多くの武器を使って魔物を狩ってきたと聞く」


 ナメルは同じように胸に“恩恵”影王を起動させた。

 どこからか持ってきた剣と盾を持ち、魔力を込める。


「弟子は良い。一人ではできない都合の良い分身へ押し付けられる」


 無詠唱のまま突撃を行った。剣先がそのまま二人の急所へ向かった。

 数秒もない。

 そして攻撃を一段階終えた。


「狩ってきた男が魔物となるかミサス」


 背中から出た触手の先に大きな甲羅が何枚も貫通し、恩恵の寸分近いところで止まっていた。

 剣を抜かせず、そのままナメルの身体を横へ叩きつけた。


「一つ言っておく」


 ミサスは言った。


「師匠達は優れた人格者ばかりではないが、お前の弟子になった人間達が思ったほど不憫でない」


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