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3-23 英雄像

〇海上国際会議場


 ミサスが一人向かっているところ。

 占拠されている会議場の中、鈍い音が響いた。

 

「なんてことをした」

「そんなに怒ることですか? 十徳刀(ミサス)を相手にするのは我々ヒロの戦士であって、残る皇帝への復讐である。あなたとは対等だ」


 名もない反乱兵士は、口に鉄の味が痛く歯で味わっている。


「死人に口なし。世界の英雄も名前を失っているだろ。俺と何が違う」

「濁流とともに名前を無くした小童が。これだから若い者は……!」


 泡を吹いて倒れている者の前に、右の拳をハンカチで拭く。


「まあいい。サクサクラの秘術によって青年兵達を掌握できている」


 ナメルの目の前には赤い目を光らせた兵隊達が並んでいた。


       〇   〇   〇


「フラッグ戦準優勝の統制取れた青年隊が敵になっている」


 拡聴魔法で辺りの声を拾っていたマウ。

 目の前にいる皇帝陛下の青ざめようを見て聞かなければなかったと思う。


「北方守護隊青年隊第二チーム。次世代青年隊計画の雛形である帝国騎士団第二隊。その指導データを守護隊各部に反映。その一番の成功として例の一つだ」

「…………」

「別に人体実験をしている訳ではないマウ。次世代へ力を継承させるため。この平和な世界で戦う武器を作るために」

「そのために英雄の娘(私たち)を下の三隻に縛り付けている訳ですね。()()はそれに逆らって世界に殺された」



「……お願いしている立場ですが、大いなる力は大いなる責任を負う。有名な物語からの引用ですが、力持つものなら目を背けてはいけません」


 大国の主であるプラムからの言葉にマウは返事をしない。



「………………」

「!」


 無言の圧力を感じた。

 マウは陛下を抱き着いたまま横へ飛ぶ。

 ついさっきまで隠れていた壁は斬撃によって粉々になっていた。

 振り返ると赤い目をしたヒロの英雄と目が合った。


「ネード。なぜこんなことをするの!」

「…………」


 右手に剣を持ち、左手には肘が隠れる大きさの盾を持っている。

 剣先は改めてマウと松国皇帝に向けられた。


「マウ。目が赤くなるのは暗殺者一族(サクサクラ)に伝わる洗脳魔法だが、体がもたない」

「時間があって、一人ならな」


 足音が複数聞こえたと思ったら、周りは赤い目をした兵達に囲まれていた。

 マウは大きく氷の攻撃魔法を展開する。動きを止めて離脱を試みたが、ネードが盾で後ろの味方を防ぎ、剣で前にいる味方の攻撃を切り裂いた。

 魔力で押し切れず、目の前のネードが本気であることを思い知らされる。


「あそこまでわがままだ」

「国を壊せるほどの魔力。恐ろしい」

「貴様がイーゼ隊長と婚約しておけば、ゆくゆくはヒロの再建に一役たてたのに!」


 マウへ罵声を浴びせる。

 魔力の大きさはここにいる全員をせん滅できる。


「ヒロの英雄(イーゼ)。ここにいるのは平凡な女の子だ。隊長であるあんたが手綱を握っていないのは責任者として半人前だな」

「…………」

「朕の言えることではないが、女の口説くのは立場では難しい」


 マウの前に立ちはだかるように皇帝は立つ。


「松国の皇帝」

「われらの故郷の仇」


 周りの怒りを差し向けられる。

 マウは、この人間がふてぶてしい顔をしているのが分からない。


 皇帝は手を上げた。



 2人は拘束され、親玉のいる展望室につれられた。

 中央にいたそいつは顔をみて笑った。


「マウ姫。やっと会えましたね」

「…………」


 マウは黙ったまま目を逸らした。



         〇   〇   〇



〇国際会議場 下部


「着いた」


 ミサスは真上にある会議場を見上げた。大きい魔法陣によって空中に固定されているのが分かる。

 そして近くの続く爆音に視線を戻す。

 他大陸の船。バイチーク湾にいる三隻から爆音や、硝煙の臭い、そこに交じる悲鳴が風に乗ってくる。


 ミサスの目的は、頭上にあるこの混乱の元から人質を解放することだ。


「ミサス隊長。本当に一人で行かれるのですか?」

「モウ師匠から秘密兵器を2つも預かっている。これ以上は相手を刺激する」


 舟に同乗していたのはノサシ。青年隊の中で運転経験が彼だけだった。


「ノサシ。こういう魔力の少ないところは大丈夫だな」

「人の縁はどこで繋がるかわかりません。貧弱な僕の適正を見抜いたのがボックリ閣下でした」

「今思うと、ボット師匠はこの地脈から魔力供給しずらいところで回復役(ヒーラー)が務まる人間が見つけてきた。戦争では相手にいかに有利な盤面を作るによる」

「これが有利な盤面なのか? という疑問はあります」


 2人は笑った。


「僕は先のホットスポット襲撃は隊長不良でいなかったですが、ボックリ閣下に絞られたようですね」

「痛いこというなよ。好戦派が屈辱を感じているからさ」

「皇帝陛下と僕らのバイチーク最強(マウ)によろしくお願いします」

「わかった」


 ミサスは改めて見上げる。上から昇降用の動く床が下りて来た。あれに乗り、丸腰で世界的なテロリストと対峙する。


「ノサシ。もし帰れなかったら遺書があるからよろしく」

「僕はしません。隊長自身が行ってください」


 ノサシがバッサリ言う。こいつ体調が良くなったら調子に乗るタイプだったか。


「そもそも青年隊がここまで戦局を左右する場にはいません。それに青年隊の任期はもうすぐです。ホッチさんとの将来を考えているのでしょう。本当は彼女に送ってもらいたかったでしょう」


 ミサスは顔を隠したまま、デコピンをノサシに食らわせた。



 その後すぐに会議場から昇降機が下りてきてミサスは立つ。

 すぐさま上昇していき到着した。入口には演習で二人の見覚えのある兵士が迎えに来た。

 2人に前後を挟まれて行動する。


 会議場は大きく損傷している。

 道中では回廊を突き抜けて会議場に大きな横穴が出来ていた。粉塵が舞い、肌をピリピリ刺激するような魔力の残滓。


 終点である展望室でも、数日前に豪華なパーティーを催されていたとは思えない。ヒビやガラスの破片が飛び散っている。

 分からないのは、元の先ほど挑発をしてきた男が横になって伸びている。

 名前は思い出せない。

 

 そして部屋の中央には、この騒ぎの動乱の黒幕が座っていた。。


「初めまして。ナメル・ナメ」

「そうでもない。ミサス・シンギザ」






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