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3-21 皇帝誘拐

「おい。娘に何をしている」


 場にいた全員がヒロの英雄と英雄の娘に注目が集まっていた。

 その声を聴いているまでは。

 一瞬の隙に影王はナメルを取り押さえた。両手が後ろに回っており、足の自由を奪っていた。


「予定変更だ。ボットこの場でケリをつけるぞ」


 影王は手元にある“恩恵”に話かけた。


「待てサカタ氏。周りは民間人が多い」

「皇帝陛下。ヒロの出身者で固められている。あなたのツケを払う時だ」

「……敵には操られているものもいる」


 喋りながら仮面を取り外した。その下はボックリ殿下ではなく、


「世界の英雄!」

「魔力を使っていなくて目の前の戦闘力か」


 その数々の言葉に歯を嚙み締めた。


「その顔で驕るな! 偽物ぉぉぉ!」


 大きな口を開けた狂信者の顔を踏みつけて砂を食わせる。

 ジョーは指を鳴らして両腕を交差させた。


「ロード、ローディング、ローディスト!」


 腹部に装備しているベルト型の矯正魔力機器を作動させる。

 魔術を展開し、亜空間から武器を取り出した。


 手に持ったのは普通の木刀。木刀のはずだった。


「「「…………」」」


 周りにいたヒロの兵士は、迫力で動けないでいた。


「ほう。この中でヒロの英雄が動くか」


 振り降ろされた片手剣を受け止め、睨んでくる赤い目をジョーは見る。

 お互い攻撃を弾き返して次に移る。ジョーは腰に重撃はネードの左手にある盾に阻まれた。そして自由になった右の剣が襲ってくる。


「くっ。凍結魔法!」


 手から木刀を渡って魔力が伝わり、ネードが氷の塊になった。

 その隙にジョーは距離を取る。

 氷は即時にヒビが入り、ネードが中から出始めた。


「心奪われしヒロの英雄。目を覚ませ」


 ジョーは構え直した。



「魔力の乏しいミラレアルの兵士が使っていた三単唱と同じ。力ない者が道具で力を手に入れる。ミサスの師匠である訳か。兄上と同様に肉体を錬成させることができた理由か」


 皇帝の独り言は誰にも聞こえていない。

 横から近づいてくる存在から声をかけられた。


「皇帝陛下……お体は?」

「平気だ英雄の娘……いやマウ」


 マウは辺りを見渡した。

 未だに時間の止まっている空間に捕らわれた状態だ。

 このまま時間が経てば、()()()()()()()()ジョーが勝つ。


 だが、こちらから動かない人々に触られる。悪戯できる。殺せる。



「皇帝陛下。つくづく英雄は欲張りです。目の前では私を助けるために戦っている」

「……兄上は本当のことを教えてくれなかったが、あの人は世界の英雄か?」

「いいえ違います。ただ」


 マウは大きく立ち上がる。


世界の英雄の娘()も我がままです。皇帝お許しを」


 マウは大きな魔法を展開させた。








「マウさんはどこへ行った?」


 マウの大きな魔力を感じて急行したが、会場には見当たらなかった。

 同時に遠い空から大きな破壊音が轟いた。





〇バイチーク湾上 空中会議場


 国際会議が昨日まで行われていたところ。この空中の構造物は三つの構造に分かれている。

 下部には入口。航空艇を収容できるプラットフォームが準備されている。

 中部には会議室。一つの登壇場を中心に扇形に席が包むように席が配置されている。室外は一周回れるガラス張りの回廊が繋がっている。

 上部は会食会場となる展望室。外部にも出れるテラスがある。夜には星空とバイチークの街の明かりで幻想的な空間になったそうだ。

 イストール地方の顔マツカイサ帝国繁栄を一望できる。


 その落下を防ぐための窓ガラスが一斉に割れた。

 テロ対策に設置されていた警報装置が鳴り響く。


 マウはここへ敵ごと転移させた。

 そのショックで倒れたジョーを抱えて、身を隠した。

 顔色は悪く、マウは準備されていた飲料水を渡して飲ませるしかなかった。


「マウ。馬鹿なことしたな」

「はい。ただバケットを守ることが大事だと思った」

「そうか。ならいい」


 ジョーの力のあった手が床に落ちた。


「魔力中毒。確かに坂田氏は世界の英雄とは言い難いな」

「申し訳ございません。皇帝陛下転移に巻き込んでしまいました」

「いや朕がワザとついてきた」


 皇帝は近づいてジョーから首飾りを取った。


「ヒロの件は落とし前が必要だからだ」


 ジョーから“恩恵”を手に取った。


「影王。力を貸してくれますね」


 黒く光る魔道具を強く握った。



〇バイチーク港


「ここからだと各大陸の戦姫艦がよく見える。ノサシが好きそうだ」

「ミサス隊長」


 2人共騎士団の任務服となっていた。マルーン色を基調としたデザイン。魔力防護を強くしある程度の物理攻撃まで緩和する。


「最近調子がおかしいぞホッチ」

「ミサス隊長実は、、、」


 その言葉を遮るごとく、遠くで大きく爆発が起きた。







「「「マウが誘拐された!」」」


 世界の娘達の警護の引継ぎをしている最中で、各御座船へ向かう直前だった。

 イストール地方の皇帝が誘拐されたという各諜報機関からの連絡より、守護隊から血を分けた姉妹であるマウの安否を確認している。

 同席して警護している帝国騎士団は、思ったより人間だなと英雄の娘達に親近感を感じた。


「バケット会場で大きな魔力の渦が大きく発生しました。一般人に多数の魔力酔いが発生していて、混乱が発生しています」

「海上にある国際会議場はどうなった。それとマウ氏が誘拐された」


 イーサーは報告員を詰める


「「「マウ(家族)の魔力を間違えることはないわ!」です!」!」


 三姉妹の気迫にイーサーは後ずさりした。


「バケット会場からマウさんが失踪していることも連絡が来ました」


 報告員が追い打ちをかけたことを感じさせないほど、英雄の娘達のプレッシャーは凄かった。

 というより、魔力があふれ出して目の前にある戦略兵器程の魔力が漏れていた。


「通信魔法が来ました」


 緊急収集されたサンモが報告した。魔術道具に投影されたテロリストの映像を見る。


「私は世界の英雄の僕。ナメル・ナメだ。この度は国際会議で使われた広範囲の通信魔法陣を使って話しかけている」


「先の大戦で現れたイシャララ。世界が一つになって倒す外敵が現れなくなって十数年。世界は人類史上無いぐらい平和な時代が到来したとされている」


「この平和な世界のはずで人が死ぬのは許されぬこと。その復習者ヒロの英雄と共にマツカイサ帝国皇帝と他民間人を人質とした」


「もし助けに来るとしたら未来を委ねる若者が良い。ミサス・シンギザ隊長率いる帝国騎士団第二隊の諸君を指名する」



 ナメル・ナメは不気味な笑いを誘った。



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