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3-20 普通になりたかった

〇バケット第二日目


 バケットの二日目は大まかに風習や古代魔術。地方の食事……民間研究をまとめた同人誌が頒布されていく。

 ただ昨日と違うのはキャラの濃いボランティア員がおらず、例年通りの行列ができていたことだ。誰もが身分性別問わずこの同人誌即売会の参加者だし、お客様はいないという。


 この国の権力者も同様だった。皇帝はこの二日目だけ公務を全て休み、有休を使って参加をする。

 現皇帝陛下が即位時から続けていることだった。民衆の知識を知ることができる良い機会である。一般認識とのズレをなくす。

 皇帝陛下が参加している噂は誰もが聞くが、隣に並んでいる者の正体を知っている人はいない。

 それ以上に人々の注目は戦利品を獲得することに向けられていた。


「いつも以上に手薄で宜しいのでしょうか」

 隣に帝国騎士団団長のマイネンがいた。世界会議中から若い君主の護衛に振り回されていた。

「マイネンも娘のためにお使いに出ているだろ」

 若い君主は日焼け対策のために帽子を深くかぶっていた。

 ふと横を見てバイチーク湾内上空に浮かぶ浮島を見ていた。あの中でここ数年の世界を決める会議があった。その中で議長国として責務を全うしていた。

 その下には“英雄の娘”達の御座船。その巨大な船体へ横づけして航海のための物資を多く積み込まれていた。

 元々このバケットが開催しているこの埋め立て地も、あの三隻を陸地に接岸させるために地盤改良や海底を浚渫(しゅんせつ)工事を行って超大型船舶に対応した。


「あの船は他大陸の顔であるし、街一つ軽く消せる兵器でもある。ここに接岸させることは怖すぎてできないだろう」

 若い君主の横に黒い衣装をまとった男が影から現れた。仮面を被っていて正体は分からない。

 マイネンが警戒して隠している剣に手を伸ばすが、皇帝が抑えた。


「大丈夫兄上だ。身体のことは知っているだろう。魔力を感じないのは当たり前だ」


 数歩離れたところで、二人は話し始めた。


「兄上。先代皇帝の黒歴史を見に纏ってダサいですよ」

「そうか? この影王は気に入っているが」

「世界の英雄の元パーティであるボックリ・マツカイサの復活で、反対勢力が不仲説を流布して兄上を担ぎあげますよ。そしたら私はすぐ死にます」

「朕朕と言っているやつは死なないだろ。むしろ後継者を残していかない。俺はもう人形だからな」


 影王は義手の手を握る。


「あなたの弟子は青年隊長ミサスだけだと思いましたが、昨日ドワードという青年に会いました」

「そうか。ミサスは雑食だからな。あいつの一番の師匠はジョー・サカタに間違いがない」

「あの影武者の話を聞いているのではなく、兄上の話を聞いています」


 プラムは立ち止まって影王に聞いた。


「他にも悪い噂を聞きます。兄上はこの平和な世界で何をしようとしているのですか?」

「…………知らない」


 



〇バケット医務室


「よし脱水症状は改善したから歩いて帰れるね」

「そんな! ハナ先生まだ戦利品がウガウガウガウガ」


 そんな病人の口にポーションをボトルごとフームは突っ込んで、医務室から追い出した。


「バケットのいる人は寝不足な人が多すぎます」

「ここにいる人は本しか頭にないからね。特にこういった運営の人間は冷静にさばいていかないといけない」


 ハナが諭した。二人は先日の守護隊の医療班からバケットの医療ボランティアとして参加していた。

 この晴天のおかげで熱中症が起きる人が多く、水が大量に備蓄して準備されていた。


「ハナさんいつも医務室のボランティアありがとうございます」


 マウが弁当を二人分袋に入れて医務室のテントに入ってきた。


「いいのいいの。祖母の時代から参加し続けているし、最後だから」

「最後?」

「そうそう。マウには初めて言うけど、産休に入らないといけなくなるからね」


 マウはお腹をさすった。マウは大きな笑顔で祝福をあげた。


「エケさんにも連絡とったのですか?」

「アキサンにも手紙を送らないと。忙しくて忘れていた」

「エケ先輩ですか?」

「今はイストール西の玄関口であるアキサンの総督をしている人。私や旦那(ケコーン)と同期。バイチークにいた時はマウと同じようにバケットの運営を携わっていた――」


 フームへ少し説明した。


「そう。そして私が憧れていた人。ミサスがガチ告白していた初恋の人」

「そうなの!!」

「そうそう。会ったら分かるけどミサスの好みが分かって幼馴染としたら複雑なんんだよね――」


 少しの時間、三人で雑談が盛り上がった。



 医務室から離れて少し歩くと、マウは急に違和感があった。

 周りを見渡すと、にぎやかであるはずのバケットに人間の動きがなかった。

 まるで時間が動かずにたった一人世界で取り残されたように。


 近くにいた同じ運営のスタッフの額を触ると体温を感じる。そこらに立ったままの人間は生きているようだ。


「固定魔法? しかも空間が歪んでいるほどに。私しか認識していないみたい」


 守護隊の演習に使ったピチピチの戦闘服の上から服は着ている。このような高度な魔力の攻撃は初めてではない。実家にいた時の鍛錬やバイチークで見知らぬ人間であったり。


 こんなことの積み重ねが、英雄の子供たちが戦後第二世代で最強といわれる理由だった。

 姉妹達は軟禁状態だが、まだ自分勝手にできる海へ活動をしていた。

 ただミサスの再開から、(まだまだ私たちの強さに及ばないものの)二世代目が台頭してきたのは嬉しかった。


 これで私は普通になれる。



 私は願った後、このような最悪な場面に遭遇した。

 最悪の最悪で私の手に負えなくても、彼らや影王。介入することは難しいが姉妹達もいる。


 魔力の強い中心に向かった。


「これは………」


 マウが目の前にいたのは、過去に見たことのあるマツカイサ帝国の皇帝が拘束されていた。

 周りは見覚えのある守護隊の顔が見えた。口元を隠しているが北方守護隊第三班。ネードの周りにいた者ばかりだった。


 それよりも中心。片手で影王の首をつかんでいる。昨日や一昨日その人物が笑顔で気を取ろうとしてきたことを覚えている。


「これはこれはマウ姫様」


 気持ち悪く抑揚のつけた声が呼んでくる。


 その言葉に私の存在を認識した。その手の力をゆるませ、首を離した。

 影王はそのまま力なく地面に倒れ、顔がマウの方へ向いていた。目に力はなく、生きていたら出ているはずの魔力も感じられない。


「人形は魔力を奪ったら動かなくなる。完全に隙をついたのは偉いぞネード」


 声の主が目の前に現れた。

 微かな記憶の中にいる実家にいた時の人物。

 新聞の朝刊。手配書に描かれている犯罪者。


 そして会ってはならないと警告を受けていた人物がいた。


「ナメル・ナメ……」

「お迎えに来ました」


 マウの前に膝をついたナメルの姿があった。


 困惑した英雄の娘の姿に赤い目をしたヒロの英雄は確認した。


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