3-19 商人ドワード
○マツカイサ城 執務室
「こんな夜更けにどうされました。ルゥカフの方が」
「いやいやお楽しみのところ悪いね。秘書官ちゃんも、口元の白い液体をふき取る時間ぐらいは待つ」
夜遅く――マツカイサ皇帝の執務室に招かれざる客が立ち入った。二人組の男で一人は高貴な香水をつけ、もう一人は鞄を持った金髪の男だった。
席に座っている皇帝プラム。秘書アジサイは来訪者に構えた。
「高貴なウリモ家の当主が、この時間帯に異国の首長と面談するのは常識外れではないですか?」
「以前にも申し上げたが、あなたへ一生嫌がらせをすることを申し上げたはずだ」
頬の口角は上げて笑っているが、目は笑っていない。
ウリモ氏はどかっと乱暴に椅子に座った。
連れの金髪の男は隣に立つ。
「そちらは?」
「ドワードだ。若いがミラレアル出身の商人で頭がたつ。ダーマエ商会の人間で最近はイストール地方の各国を回っている。地方統一のギルドが無い官僚至上主義には参っているらしいぞ」
「夜分遅く申し訳ございません陛下。お初にお目にかかります」
強欲な同行者とは別に誠実な態度でお辞儀をする。
「ドワードはボックリ氏から指導も受けている。有名どころだと青臭い騎士団の隊長もそうだったな」
「ええ。兄上は生前から顔が広いですから。本当に有能な人材を駒にするのが上手い」
「ミサスは欲しい人材だった。師匠がボックリだけだったら奪えたが、あの顔がとんだ食わせ物だった。魔力の無い人間など世界には無い。世界の英雄から脆弱な病人にも魔力を保持している」
そうした会話の中で机の上に鞄を広げる。装置を動かすと大きな立体映像が表示された。
「初見の方は驚く方が多いですが」
「映像の転送魔法常備している。先代皇帝の時代だったら分からないが」
「で、これが」
「プラム。あなた本当に……」
立体映像で流れた人物の姿。剣を持ち、対峙している。そして結末。
沈黙を保っていた秘書官が言葉を発した。
「よく撮れているだろう? 私も社会地位は持っているが、あなたは怒らせたら国が亡ぶほどの権力者になった。切り札は使わないとな」
沈黙する場をドワードは出した。
「先のギール皇帝が崩御されて、次世代の新リーダーに国民は期待されています。ただ世界の英雄の名声には霞み、あなたの兄上さえ及ばない」
「…………」
「しかもマツカイサ帝国は昔から積もった悪名がある」
「…………」
「そこへ火をかけたら面白いことになります。実際にその怖さをご存じでしょう。元総督」
こいつと皇帝は笑った。
「対価は何ですか?」
「この大陸横断鉄道の株式。これを追加で10%もらいたい」
「かなり吹っ掛けましたね」
「後、前にした約束を守る催促に来ただけだ。恩恵“影王”を貰おう。期日はバケットの最終日までだ」
ウリモ氏は脅迫相手に微笑みを送った。
〇マツカイサ城廊下
「ドワード。なぜあなたがここに」
「ホッチか。商談の帰りだ」
石畳に敷き詰められたバイチーク城の通路。国上層部専用の通路。そこで顔見知り二人がばったりと会った。
「おっと知り合いか」
「はい。出身地が同じで」
「そうか。麗しいお嬢さんなのに変な声だ。もったいない。下心が萎えてしまう」
先に行っておくぞ。と若い二人の空間を作った。
「こんな夜更けにルゥカフの重鎮とこんなところに? しかも皇帝室から」
「クライアントの機密情報だ。答えられない」
2人は傍らの手すりに寄り掛かった。
「最近本国の人使いが荒いのだけど。先はフラッグ戦の隊長に抜擢されるわ、誰かさんの尻ぬぐいをさせられるわ」
「他勢力との技術交流が目的だ。顔として留学生である誰かさんは都合がよい」
「それに、この前内の副隊長に吹き込んでいたね。あれは何だ?」
「……ホッチもう留学の期限が近づいている。それを過ぎた後の協力者を作るのは当然だ」
「なら、」
他に情報をくれる人物がいると言ったときに、ホッチは顔を見て我に返った。
「ミサス・シンギザか。重要人物達の弟子で多くの関わりがある。これ以上の情報源はない」
「ただホッチ。いざという時、始末できる覚悟はあるのか?」
ドワードは苛立ちを持った目をしていた。
ホッチは思わず顔を逸らす。
「…………できない」
「なら、最初の計画通りすればいい」
ドワード氏はその場から出ていった。
「本国はこのホイシャルワールドへ喧嘩を売る。帰るためにな。我々二世代目はこの世界が故郷だけどな」
ホッチは小さな言葉を聞き逃さなかった。
「そうだ。青年隊はバケット警護から外れているな。別の任務に移行しているのか?」
「秘匿義務がある」
「そうか良かった」




