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3-18 水害特集(同人誌)ヒロの項

 カリに渡された同人誌。地方にいる講師が執筆した水害特集という題名と内容そのままだった。

 手を取ったまま自室まで戻って来た。

 二日目のバケットの準備が始まるまで時間がある。出る準備をして椅子に座り、手に取った。


「私は世界の英雄が築いた平和過ぎるこの世界で、今だ克服できない天災の向き合い方に一石を投じればよいと思う」

 前書きにはそう記載があった。

 

 そのまま付箋にあるページをマウはめくった。



 ヒロ。イストール地方山中に位置する街。バイチークからは北の方角に位置する。

 二年前、観測史上最大の降水量をたたき出した暴雨が襲った。瞬く間に川の水は増水し反乱。土石流や山が崩れるほどの土石流が発生しせき止められた。そのままヒロは街ごと水没していった。


 水の底に沈むという壊滅的被害。犠牲者は全人口の30パーセントまで膨れあがり、住処を失った多くの難民を出した。


 ここまで被害が及んだのは災害時の基本となる情報共有と避難の遅れであった。

 原因として排他的な住民性による風土が強く、当日の対応ではどうにもならないほど壊滅したと言われている。

 長年総督の自治が難しい土地とされ、人材の墓場と称されている。


 歴史から見ても根深い問題だった。

 きっかけは300年前に起きたダム建造論争。イストール地方では大規模な干ばつが置き、早急に治水事業を見直す必要があった。

 一番有効とされる案がヒロの位置する峡谷をせき止める方法だった。これは当時の住民が猛反発し、ショウガク・コロコロ氏を代表とする交渉は早くも決裂した。

 未遂に終わったが、過激集団が川の水に毒を入れて下流域の作物や生活用水を汚染させる暴力交渉に発展していったことも新しい。当時のマツカイサ帝国騎士団が制圧したものの住民の悪感情は収まらなかった。以降、旧スワリン連合の総督府の行政や守護隊も事実上の独立まで譲歩が必要となった。

 そのため村社会になりやすい地方の中で、より一層閉鎖な環境が進んだ。


 因みに給水源を汚染される防衛対策のため、バイチーク首都を街の治水を一から作り直したバイチークへ遷都を行った要因の一つと言われている。



 全ては偶然だった。


 堆積した土砂を撤去することは現実問題として不可能とされている。皮肉にも下流水域に位置するバイチークの洪水を防ぐ天然のダムとなっている。大きな労力がかかるとしてヒロの街は放棄されている。


 生存している元住民達は散っていった。しかし郷土の思いは強く、各地で大なり小なり行政機関への署名や懇願活動が活発になっている。

 火山噴火で大きな被害を出した海洋国家ミラレアル国でも見られる。



 私は仕事柄近くの慰霊碑へ立ち寄ることがあった。その前には、罵声や権力者の圧力も負けず愚直に進言し、生存者の救援を行った青年に会った。


 救った人数は僅かでしかないが、この親愛なる隣人”ヒロの英雄”の存在が増えることを願う。




「ダメ男を好きになる私のタイプではないな」


 本を閉じた。


「なのに心の想いが止まらないのだろ」


 遠くの方を見た。



 〇早朝 バケット会場近場

「ミサス隊長から連絡あって、別任務のため本日からの警護任務から外れるとのことです」

「ふーん。帝国騎士団様は勝手で良いな」

 

「おはよう」

 ネードは入った。そこに見知った顔を見つける。

「あれ師匠。隊に何か用事ですか」

「いや。この新聞の写真に似ているなと話していたのですよ」

「ああ。実は同一人物だ」

 そんな馬鹿なと()()()()()を言って談笑をする。

「聞いたのですけど、ここには世界の英雄と顔が似ている人物がいると聞きました」

「バイチークから西へ伸びる大陸横断鉄道を作った」

「へえ」

 ナメルはその話題に感情だしていたが、ここにいる者は誰も気づかない。


「そういえば隊長。マウさんとデートは」

 話題の注目が全て集まった

「いや。どこが好きになったのですかと聞かれて脈アリかなと思った」

「「「おおう!」」」


 大きな声が上がった。


「だが、そうでもなかった」

 あーーと落胆の大合唱。

「我らの大将がお姫様と仲良くなったらお互い幸せだなと思ったのに」

「そもそもフラッグ戦の快進撃が奇跡だった」

「まさか帝国騎士団の連中にあそこまで追い詰めれるとは思わなかった」

「隊長が死んだら自殺点で勝てたのに」


「ネード良い部下達を持ったな」

「はい」

 ナメルは突然ネードの頭を出し、魔力を込める。抵抗するも次第に手に力がなくなり、そのまま床に倒れ込んだ。

 他の者の様子を見た。誰もが敵意と我慢の視線を送ってくる。


「ヒロのイーゼが世界の英雄の娘と血縁を持って、平和な交渉を出来たら良かったが、無駄な抵抗だったな。約束を守ってもらう」

「なんて事は無い。我々はこの街の玉座に君臨するヒロ総督の首を飛ばして、故郷を戻せれば良い」

 ナメルの言葉に副隊長が釘を刺した。

「ただ勘違いするなよ。ネード隊長はナメル貴様が師匠として指導する前から英雄だった。普段の性格に難はあるけどな」


 牽制をしているが、ナメルは気にもかけない。

 そして崩れていたはずのネードが立ち上がり、片手で副隊長の首を持ち上げた。両手で剥がそうとするがびくとも動かない。

 目は赤く光っているようだった。


「勘違いしているようだがネードを過小評価していない。他大陸の評価で呼ぶと、スキルは“勇者”。苦難を乗り越え、人を率いる剣となる」

「くっ。師匠に洗脳魔法で手駒にされていると知った時、どんな顔するかな」

「サクサクラの暗殺者一家が秘伝として伝わっている催眠魔法。催眠先には強い繋がりを必要とする。つまり信頼関係を構築しないとかからない」

 余談だが、ナメルは、この術習得のため数少ない暗殺一家の生き残りからこの術を奪った。


 薄れゆく意識から副隊長は聞いていた。

 ニルキ・コロコロの暗殺の失敗の尻拭いからだ。松国が管理するホットスポット内の奴に襲撃するも返り討ちにされた。後にナメルが煽ったたかだか門番1人が、先の戦いを生き残った強者一家を虐殺した。

 いや廃墟となったヒロの自然の恵みを根こそぎ盗んだいやらしい商人が消えたのは喜ばしいこと。

 ただ、今日まで至る作戦の主導権が盗られた。


 そして隊長ネードは全て知らない内に洗脳される。


 この場にいる全員がこの英雄狂信者を止められない。



「さて、この街の駄本を処理しなければならない。世界の英雄が導いた平和な世界が唯一の答えだ。これに疑問を持つのはならぬ」


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