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3-17 異世界同人誌二日目の朝風呂

 時は少し遡り、マウは姉達を見送った夕方。ネードに護衛されながら帰路についていた。

 

 


「ネード少し聞いていい?」

「どうしました?」


「私のどこが好きになったの」

「それは――」










 翌日の朝


 マウは起きていた。

 昨日の質問は恥ずかしかった。そして自己嫌悪に陥っていた。

 ベットから立ち上がった。



 おもむろに窓から外を眺めた。

 日の光がとても眩しい。よく見られたものではない。

 夜に目から水分が多く出ていたのでとても目が痛い。

 水で顔を洗おうと共用の大浴場まで移動する。自分の部屋にも調理用の水道やシャワー室はあるが、大きな鏡があるので向かっていた。昨日まで国際会議を行っていたので徹夜帰りの人が汗を流せるように朝早くからお湯も張っている。

 いつの間にかお風呂に入ることに目的が変わってきたので、部屋に戻って着替えも持ってきた。


 今日はどうしよう。姉妹達の世話は打ち切ったから前の予定通りバケットへ参加しよう。

 でも正直楽しみにしていたはずのものが憂鬱だ。



 大浴場には誰もいない貸し切り状態だった。

 助かった。

 かけ湯をしてから、肩までお湯につかった。足を延ばし、湯気のこもっている天井を見つめた。ここに初めて来たとき。昨日の姉妹達のあれこれ――。


「あ久しぶりです。マウさん」


 振り返ると最近見知った顔がいた。胸が大きく、細い腕で抑えていたが隠しきれない。


「ああミサスの幼馴染のカリさん……ですね。見苦しいところ見せてしまって」

「いえいえ。よく評判は聞いています。バイチークの若いおかみさん。戦後バイチーク第二世代最強。世界の英雄の娘。次期……」


 すとんと湯船につかり、合計四つのたわわが浮かんだ。


「カリさん。あなたの身体影王様と同じ……」

「はい。ボックリ閣下と同じ“恩恵”を核にして肉体を生成しています。この状態で人間かと質問されたら泣きますが」


「………………」


「ただこの肉体があって私が自由になれたのは最近です。バイチークに来てミサスの周りには魅力的な女性が多い。私は乳はありますが引きこもり気質が酷いことがわかりました。ボックリ殿下の荒療治のおかげです」

「そう」

 カリはマウの顔を覗いた。

「何で来たのかというと、敵情視察に来ました」

「敵情視察?」

「ええ。マウさん。ミサス・シンギザ好きでしょう」


 ブッと噴き出した。行儀よく浴槽外へ。


「えっ何で?」

「確かな情報筋や直接見て確認しました」

「それ年頃の男女を見たら付き合っているとおだてるものと同じだよ。」

「いえ。確かにミサスを好く人全員を確認しています。ホッチ・センツ。フームという師匠の知り合いの女の子。文通しているアキサンの総督。そしてマウさん。あなたです」


 ビシッと胸を揺らしながら、カリはマウへ指をさした。


「ホッチは当然というか置いておいて、フームはテプという剣士と最近仲が良いし。アキサンの総督のエケさんをミサスには聞かないで。それでひと悶着あったから」

「ほう。貞操観念を強く守っているはずの世界の英雄の血を引くものが、異性の恋愛状況を詳しく知っているのはますます怪しい」

「そうそう。ママからも心中できる人にしか股を開かないように。って何言わせているんじゃぁぁぁ!」


 魔力で湯船の水を持ち上げた。大きく柱が立ち、カリの口を閉ざした。一瞬浸かっているお湯が全くなくなり寒くなったので途中で止めた。


「ミサスが必ずしも世界の英雄のようにハーレムを築くと限りません。もしかしたらたった一人しか枠はないかもしれない」

 なんだろう。ここで毒を吐いている私は少し嫌い。マウは思った。

 カリはそんなこと気にしてなさそうだった。

「なんでミサスのことをそんなに好きなの?」

「もちろん彼はとてもかっこいいですよ。優しいし。」


 好きの理由を延々と聴かされた。


「私は好きになった人をカリのように肯定できない。私より惨めな方に同情いや。見下しているのかも」

「それでも良いじゃないですか? 所詮性欲ですし。私なんかずっと閉じ込められていたので一人でことするしか……ムゴムゴ」


 女の子はそういうことを言わないでと口元を抑えた。




「わかりました。今はミサスは友人として見ていると」

「分かればよろしい。ん?」

「ただ好きになってくれる人を無駄にしてほしくないです。少なくともそんな人と同レベルに。“ヒロの英雄”ネードさんの参考資料脱衣所に置いてますので確認してください」

「――――!」




            ○   ○   〇




 カリは大浴場の扉を閉めた。

 目の前には、正装のマルーン色の隊服を着たミサスがいた。

 カリは、一度整えて笑顔を作った。

「カリありがとうな」

「ふふふ。コミュニケーションお化けとなったカリ・コロコロ様に任せなさい。それにマウさんとは二人でお話したかったので。それはそうとして女の子のお風呂上りを待つなんて気持ち悪いですね。結婚してください」

「いや。交換条件おかしくないか?」


 ははははと二人は笑った。


「かなり落ち込んでいましたけど、どうしたのですか?」

「ボット師匠が悪い。説明が少なすぎる。こんな時にジョー師匠は空気の存在感。どこにいるのか」

「ああ珍しい黒装束で出かけられましたよ。ご友人のご不幸があったとお聞きしました」

「なるほど」

「話は戻りますけど、世界の英雄の娘だからといって」



 世界の英雄は男はひたすらクエストを最前線でこなし、女はその強すぎる魔力を逃がすために大きな船に閉じ込められる。

 それが世界の四大勢力が一つになり、均衡を保っている理由だ。

 血縁は政争の道具にされる。

 二世代目が青年に到達した今、世界中で陣営に引き込もうと必死だ。

 新たな抑止力となる。


「みーさーす?」

「?なんだ」

「私、ここで長いお別れしないといけない」

「え」

「ボックリ閣下から提案されてトントン話が進んだけど、私は他大陸でギルドの経営の勉強をしに留学する。ミサス達が過ごした経験のハンデを追い超えていく」


 ミサスの右手を掴んで胸にあてた。


「私の身体が無くなっている事実は消えない。あなたの中にいるトラウマよりも、欲で傍にいてほしい人間になる。だから覚悟していてね」

 ミサスの手には恩恵“狩猟王”が動いていることを確認できた。心臓とは違う鼓動。作り物と言う人もいるが、目の前の女の子は確実に生きている。


「いやんエッチ。手が出ましたね」

「おいおいおいおい」

 ささっと右手を引っ込めた。

「ここまで好いてくれているのに、振られたような気持ちはなんだろうな」

「……何か言いました?」

「いいやなんでも」

 ミサスは右手を開いて、握りしめた。


「ミサス隊長様。報酬が欲しいです。お願いというか聞きたいことがあります」

「なんだ?」

「文通をしているアキサンの総督であるエケさん。その方に振られたの?」





         〇   〇   〇





 脱衣所の前でミサスが悶絶しているなとマウは気配を感じていた。

 下着や服を着て鏡を見ると、いつもの自分に戻っていたことを確認した。

 同じところには一冊の同人誌が入っていた。

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