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3-16 政治犯ナメルのトウソウ

〇バイチーク城 帝国騎士団第二隊室


「これでマツカイサ帝国騎士団第二隊勢ぞろいだな」

 ボックリは黒板の前にある壇上でミサス達青年隊のメンバーを前に発言する。場所はバイチーク城。帝国騎士団の本隊が使う作戦会議室には青年隊の全メンバーが出席していた。他に団長であるマイネンと目線を全て集めている壇上にはボックリがいる。

 この部屋には部外者であるが、世界の英雄の娘達三人と“舞姫”モウ。


「あらあら独特な空気で空気が固いですね」

「ダベラエ(ねえ)マウが申してたではないですか。愛しの影王様が管理課のホットスポットで皆さんをしごいて全滅させた(※第一章参考)らしいです」

「んー。それは心配ですね。秘密ですけど世界の英雄(父上母上)と同じパーティーで肩を並べた犯罪者からの警護はできるのですか?」


 後ろからボロクソに言われているが、逆らえ切れない魔力の放出を感じて誰も言い返せなかった。

「全員あなた達を殺せる」と短剣使いクレパは口に出したが、魔術師サンモが必死に口を抑えたので未遂に終わった。


「お嬢様方。私たちは味方です。なので威圧はおやめください」

「そうね。大船に乗った気持ちでいるわ。これからの話まとめるとその船に閉じ込められるけど」

 影王とマウが大人の会話でその場は終わる。



「諸君これを見てくれ」

 バイチーク大学にもある絵の動く黒板でボックリは説明していく。

 最初は顔写真とその男の詳細が出てくる。


 騎士団長マイネンの説明が入る。


「悪名高い政治犯であるナメル・ナメだ。この男が脱獄し、バイチークに潜伏中である。今回はその対処に諸君らを動員する」

 守護隊の尻ぬぐいだなとケコーンは思ったが、それより早く剣士テプが口にし副隊長イーサーに殴られた。


「世界中の各国がやられているが行動原理はシンプルだ。過激な“世界の英雄”信仰を上げて、平和な世界を変えようとするテロリスト。この時代に何を望んでいるのか愚か者だ」

 憤慨している武道家のコンス。腕組しながら話を聞いているハンマー使いケコーン。

 椅子の背もたれにもたれかかり死にそうな回復役ノサシ


「ナメルの目的。それは説得の増す力の保持だ。今では過去の栄光を糧に世界中の情報弱者を扇動して内戦の火種をバラまいている。世界の英雄(イーゼ)の功績は誰もが知っている。イストール地方では高い識字率を背景に被害は広がっていない」

 世界の統計を合わせた円グラフが出て来た。作成日時は昨日。表には出ていないが国際会議で信頼性の高い情報共有されたものをすぐに使ったものだ。

「だが全てを抑えていない。諸君の記憶にもあることだが、先日のバイチーク城の青年騎士が名家一族を殺戮し“恩恵・狩猟王”を強奪。市内でそれを暴走させた事例の関与の裏が取れた」


「誰?」「コロコロ一族とカズルの件!」「おなか空いた」弓兵シジキ三姉妹は次女が世話を焼く。


 その話を聞いてホッチは前に座るミサスの顔を見たが、後頭部からだと確認できない。


 ミサスは手を上げた。


「ボックリ閣下マウはどうなるのですか。彼女も世界の英雄の娘ですが。」

「彼女は血縁はあれど一般人だ。マツカイサ帝国の一般市民をテロリストから守るのは守護隊の騎士たちだ。お前たちはマツカイサ帝国の国益、次世代の財産を担っている。与えられている力をはき違えるな」


 マイネンがその質問をバッサリ切った。ミサスは納得はしていない。

 

 その頃合いをみてボックリは言った。


「先ほど伝達したものもいるが、任務は他大陸からの客人である“世界の英雄”の力を汚さないためだ。ここにいらっしゃる四名は特にそうだ。イストール地方の大国たるマツカイサ帝国の威信をかけて行わなければならない。本隊は他の各国要人の守護で一杯だ。同年代である諸君の活躍に期待する」


 演説が終わった。


 マイネンにまた進行は戻る。

「護衛する班を三組に分けていく。隊長のミサス、副隊長のイーサー。そしてもう一人だ。ミサス推薦者はいるか?」


「私にやらせてください」

 ホッチが手を上げた。ミサスは少し驚いた顔をしたが同意した。




「大学の一般教養で履修済みだとおもうが、各国の上流階級のたしなみを確認してもらう。ザミ、ペイン。仲間を鍛えてやってくれ」

「はい。今回指定の服装があるので指定の更衣室で着替えてください。そして集合お願いします」

「時間が無いので特急でいきます」



 青年隊が移動していく。

「マウお母様。私たち三人今の内にここにいる各陣営の方に挨拶しておきます」

 世界の英雄の娘達も退出していった。


「マイネン。後の総合指揮は任せた。本隊と合流しろ」

「はい閣下」

 マイネンも一礼して退室した。


 人払い後、部屋には影王ボットと舞姫マウが残った。


「ボット。この非常時でも私たちを利用してこの子たちを鍛えているね。予定通りではないけど」

「申し出を快諾してくださりありがとうございます」

「大丈夫です。マウが伸び伸び生活しているので満足です」

「ただあれを相手するには早すぎる」

「そう? 力を隠して(イシャララ)を討伐した無謀者とは思えないけど」

「あの時は偶然伴にする仲間がいたからです。一人で、世界の英雄の後追いはあまり効果が無かった」

「懐かしい。ジョーは会ったけど、ミフやマロンはどうしているかしら。帰りに北へ寄ってブノ、アオの顔も見るのも良いね。娘さん二人も大きくなったと思うし」

「娘のフームは今ジョーのアパートに住んでいますよ。黒魔法のことを研究しに大学へ入学して、世界中旅できるように準備として医療を学んでいます」

「……生まれながらの体質だからね。彼女の答えを聞けたら楽しみ」


 2人は昔のことを思い出していた


「私の娘のマウは先送りにしていた現実に引き戻されている時。それは世界中が見ている」

 影王は軽くうなずいていた。



      〇  〇  〇


 その日の夜――

 バイチークに駐留している守護隊はナメル・ナメの身柄を確認していた。

 ナメルは長く世界中の名だたる諜報機関の追っ手をかわし続けていたが、この仕事の出来の速さだけ感心していた。


「ほう。守護隊にも骨のいるものがいたか。想定の最短時間に近い」

「当たり前だ。孫が祭りに合わせて遊び来ているのに緊急招集だ。有給が水の泡。しかも相手は国際指名手配、英雄狂信者、ストーカー……。そして、わしの休暇を邪魔した!!」


 当たり前だが、目の前のベテラン守護隊員の事情に興味は持ってない。


「マッさんここは俺が行きます! 影王ボックリ閣下の討伐のお手本は見た!!」


 若い隊員三人が突撃した。先日の第一回の遭遇の時は手も足も出なかったが、途中挟んだ大演習のフラッグ戦にて、ネード率いる北方守護隊第3班へ一発目の白星献上の屈辱を味わった。

 その糧を元に反省と訓練と八つ当たりを元に突撃していく。


 討伐のお手本というのは属性変化(スタイル)による手数の圧倒と見ている。

 影王ボックリ程の速さは頭数で補助させるとし、それぞれ訓練通りの動きを同時に異なるものを放つ。

 それは動きが直線すぎた。


 軽くあしらわれて、一番に突撃した者の背後を取り拘束させた。


「守護隊の始祖フェウリが整備した4×7×5の140通り三単唱の型。いくら速さや力があっても技は共通だから容易く対処できる」

 ナメは若い守護隊の首を回し、絶命させた。二人は腰が抜け、ネードが魔力でまとった魔弾攻撃で息の根が止まった。


「そもそも属性変化(スタイル)はあの素晴らしき方が魔力欠乏症に陥っている弱者のため発展させたものだ。たかが若造が浅知恵で身につくものではない」


「ぬう。三人とも仇は取る。サーダイ・ゼンリー・イブタン!!」

「動きの単純な大型モンスターを相手にしているのか? この異世界(ホイシャルワールド)にて戦闘の魔術の無詠唱など基本。流石に三単唱で詩を読んでいる頭お花畑には丁度良い」


 剣を構え突撃してきたベテラン隊員の攻撃をかわす。それと同時に隠し持っていたナイフで首を宙に浮かす芸当を見せた。


「弱すぎる。あの方が築き上げた世界はこのような軟弱なものではない」


 赤いシャワーが顔にかかり、そのままナメルの頬をしたたり落ちた。


「ああかつての強キャラと戯れても仮初の平和な時代では渇きが続くばかり。世界の英雄(イーゼ)よ! 私は待ちました!! あなたがどこかへ行かれて異世界物語(ホイシャルワールド)は面白くなくなり、流石に一世代ほどの時間を待てば新たな人材が台頭すると思いましたがそれもない」




「なら私自らが弟子を育てれば良い。途中で暴発した愚か者もいるが、今最高の収穫の時だ。



 全ては――」


 その言葉が“世界の英雄(イーゼ)に届いていると信じて叫ぶ”



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