3-15 異世界同人誌即売会一日目 開催
コスプレは次元が違っても好きな人は多いと思います
〇バケット 会場内
「久しぶりサンモ!」
「ホッチ久しぶり!」
サンモとホッチは手を取り合った。どちらも先日のコロコロの件から名前呼びが定着した。
周りから見たらイケメンとオタクが手を取り合っている。目線を向けると美少女二人がいて視覚と聴覚が混乱するというバグ。特にバケットの会期中は体験した人が周りに多数発生した。
バケットは三日間に渡って開催される。
一日目は工学、魔術、歴史、現代史といった浅め深めにしろ専門性の高い同人誌。
二日目は、文学、民謡、童謡といった全年齢老若男女を対象にした同人誌。
三日目は、成人向けを含めた漫画を主にした同人誌
とジャンルを大まかに分けられて開催される。
サンモが描く青年御用達のえっちい漫画は三日目に頒布される。脱稿も印刷も既に終わっており、帝国騎士団に入ったことによって、前より格別にスケジュール管理ができるようになったと本人談(それでも直近の一週間は有給を使って追い込む必要があったらしい)
サンモは半袖にスカート。そしてカメラを持っていた。
「サンモ。ここでは見かけないカメラだ」
「ふふふ。可愛い女の子の写真を撮りに来た。機材で使ったお金の差額分をシャトラキ地方渡来の最新カメラだ。ひと昔前だとできなかったことだ。今から行くつもり」
欲望に満たされた顔とよだれが出ていた。
「ホッチの戦利品は何?」
「ええそれはもちろん……」
ホッチは紙袋の中から一冊取り出した。題名は「武器完全版」
「ミサス隊長が行きつけの武器屋が監修している本です。監修も担当しています」
「十徳刀の無駄遣いだ。それが良い」
「そうそう。サンモは参加していないけど、先日のミラレアルの小隊もこの本を読んでイストール地方の未知の武器使い対策でフラッグ戦では入賞したから」
「それマツカイサの国防を損ねているね。だがそれが良い。……良いのか?」
「もうそろそろ休憩が終わるから行くよ。屋外会場の警備だから」
「だったら途中まで行こう」
「ホッチ。余計なお世話かもしれないけど、バケットが終わってからの件はミサス隊長に言ったの?」
「……まだ」
「私は二次元以外で愛する人には会ったことは無いけど、推しが手に入らなくなる心苦しさは分かる。それにライバルで幼馴染属性であるコロコロ家の令嬢も、ボックリ閣下の推薦で他大陸へ留学する噂もある。今勝負をつけないと一生後悔するよ」
「…………」
2人は巨大なテントを抜け、屋外会場へやって来た。
全日程を通して屋外会場で仮装を行っていることもあり、誰もが知っているキャラクターや過激なものまで沢山だった。
「城の方から国際会議へ圧力が凄いという噂を聞いていたけど、見た目そうでもなさそうだね」
「いやいや。原作表現のための長物や魔法使用ができなくなっている。大陸問わず各首脳陣が集う国際会議が開催されるから、暴動対策で城から圧力が来てる」
「そうなんだ」
「相当抵抗したらしいけど、ボックリ殿下が久しぶりに公の場に出て来て調整役を買ったらしい。その前から影王のコスプレして、バイチークの文化を世界中へ普及させていたらしい。今回の国際会議を海外に向けて技術や文化を輸出だったり、逆に他大陸の輸入だったり」
もっとも、私も最近印刷所のおっさんからこういう噂を聞いたのだけどね。とサンモは喋った。
「どっちにしろ表現は権力の規制との戦いの歴史があるし、無事開催できてよかった。バイチークのほとんどの民衆には会議とか関係ないしね。あったら反乱起きるし」
2人は会場を歩いていく。いたるところに人が円を描いて一人の人物や数人のグループを囲んでいる。それぞれ作品やテーマにあったものを表現しているらしく、完成度問わず楽しんでいることが分かった。
「こうして楽しんでいると私も騎士団入ってよかったと思う。守るために戦う。私が描く作品も読む人がいないと作品として成り立たないしね」
「そうなんだ。関心ないこと以外には無頓着だと思った」
「でも、今回戦いができなくなった騎士が闇落ちするものが入っているけどね」
「性格悪い?」
「そうかも」
2人は笑った。
「あれ大きな囲みができている」
ふっとサンモがレンズカバーを取り、臨戦態勢に入った。
そこは間違いなく会場全体で一つの渦状になっていた。
「進めホイシャルワールド。バケットで生まれたオリジナル同人作品の合わせ。しかも四人が美少女だぞ!!」
「あのコスチューム。それに有名ブランドセラームを生んだアビー国の生地を適所に使っている。思っているよりお金がかかっているぞ」
「見たことないレイヤーの方だが撮影慣れしている。さる他大陸の令嬢か? まあそれはどうでもよいか」
2人が集団を抜けた先には、獣耳と丁寧に編まれた民族衣装を着る魔導士。ゼンマイ仕掛けが特徴なエルフの兵士。胸を強調した羽をついた精霊がいた。それぞれ、アチャメリア、シャトラキ、ベシャリブ地方を代表する固定概念を押し出しているキャラクター。
そしてキャラクターの体形と人物の体形には違いがあるが、それを吹っ切るほどの完成度の高い衣装と美少女が話題を呼んでいる。
そしてもう一人、赤面している騎士に二人は気づいた。
「マウさんですね」「そうだ。ウェッグつけてメイクを最新の挿絵よりに濃くしているけどマウさんだ」
ホッチの問いかけにサンモは、ファインダーを覗きながらシャッターを何度も押し込んでいた。
「バケットの運営委員会で頑張っていらっしゃったけど、」
「はい。休憩でーす。道を開けてください」
四人の前に聞き覚えのある声が聞こえた。
「ミサス隊長」
〇 〇 〇
「で、ボックリ閣下から特命を受けて護衛任務と」
「そう。正体は魔力を抑える器具付けているけど、名前は言わないで」
「私、魔力を感知できないのですが」
「サンモさんだっけ。あの二人は恋人?」
「修羅場ですね」
「こういうのはどっちにしろ男が悪いから」
少し険悪な雰囲気から四人は避難していた。
年長者は微笑ましい目で見た。
「たしかマウの初恋ってミサスって子じゃなかった?」
「そういえば。スラムの男の子と一緒に遊んでお母様に怒られていたね。危険な場所だからって」
「お姉ちゃんやめて! 小さい時のことだから!!」
「マウさんはちょっと欠点の大きすぎる男の子を好きになるからね。ダメ男に引っかかるか冷や冷やする」
マウは姉達をポコポコ殴る。
このツッコミがいない状態。キャラクター同士の掛け合いだと至福だが、現実だと胃がキリキリ痛くなるとサンモは思っていた。
「よおミサス」
ミサス達に声をかけた人物。
仮面を外した黒装束の男。
「ボックリ閣下」
マウの姉達はそれぞれの礼をした。
「影王様……いえボックリ閣下」
マウも遅れて続いた。
「これはこれは世界の英雄の娘達。楽しまれていますか?」
「はい。ありがとうございます。今となっては姉妹でゆっくりするのも貴重で……」
最年長のクモンが応対に出る。
「結論から言いますとクモン姫、ビオンテ姫、ガイノ様。急を要することがあります。ひとまずバイチーク城へお越しください。あなた方家族に関わることです」
「ということは、私もですか」
「一般人には関係ない。肉親であっても国の機密に関わることだ」
マウの言葉をボットは切り捨てた。強く言い放ち、マウの肩がびくっとした。
「ミサス。青年隊も現地点を持って継続中の任務を中止しバイチーク城に集合。そしてネード隊長」
ネードは姿勢をただした。
「彼女を送ってくれ。以上でマツカイサ帝国からの特命要請は終了だ。あとは守護隊の上官から命令がくるはずだ。そして、ここであったことは他言無用だ」
ボットと三人の姉が歩いてく中、一時ミサスは二人へ抜けて来た。
ちょいちょいとミサスはネードを呼んだ。
「気づいているかネード。ずっと見られているものがいる。最悪、彼女はマツカイサ帝国で最強だが、気を抜くんじゃないぞ」
「分かっている。見栄を張りたいからな」
ミサスはちらりとマウの方を見た。顔を下げたまま表情を確認できなかった。




