3-14 世界の英雄の娘達 姉妹で水入らず
お久しぶりです。異世界で同人誌即売会開始です!!
〇バイチーク フーム宅
フームは掃除をしていた。
ノシン村の実家にいた時は家族と一緒に毎日掃除していだが、家からほとんど出ている暮らしだと片付けが疎かになってしまう。特に大家であるジョーおじさんは連日開けることが多く、すぐに汚くなった。住み込みの管理人さんが殆ど運営の実務や共用部分の掃除を担当している。
だが家の中はプライベートで守られている。しっかり個人で管理をしないといけない。
ジョーおじさんはそこが苦手というかしない。
溜まったゴミを専用の透明な袋に入れ、端を縛る。住んでいた田舎では珍しい頑丈な紙製で開催中の世界会議に合わせて採用したとのこと。世界中で頻発している暴力交渉対策に採用されたもの。マツカイサの製紙技術は世界一ということがよくわかる気がした。
故郷とは環境が全然違うバイチークの暮らしにフームは慣れた。
今は、三日後ミサスとテッラ。テプを呼んでパーティーを呼ぶために準備をしている。
あの来た時のリベンジだ。都会は一人で生きていきやすい環境だが、変に意固地になっていたことは反省する。ノシン村でできるコミュニケーションをなぜ後悔した。
最初に会った帝国騎士団の人員だけを呼ぶのは、、、、正直恥ずかしいから、マウさんを含めて招待をした。4人は明日からはバケットという大きな祭りの運営に携わっているから、必ず4日間はバイチークに滞在している。
もっともフームもハナさんの付き添いで医療スタッフとしてボランティア参加をする。
〇 〇 〇
「さて試作した料理ができたけど少し一人だけだと多いな。マウさんはバケットの運営会議から帰っているかな。感想を聞きたい」
扉を開けて、横に住んでいるマウの玄関の戸を叩いた。横にムフーもついて来た。
「マウさん。ジョーおじさんが他大陸の珍しい食材が入ったから、夕食どう? 明日からのバケット決戦前の腹ごしらえで!!」
「ムフー!」
「はいはい」
扉が開いて出てきたのは、髪を長く伸ばし、胸が露わになっている女性だった。耳が尖っていて他大陸のエルフということはかろうじて分かった。
突然のことに、同性と言えどフームが一瞬頭が真っ白になった。
「マウ! お客さんだよ!!」
後ろに大きな声を出して、声をかけてきた。
「あなたのドラゴンはメリロイだね。珍しいからさらわれないように気をつけないと」
「え、ええ。あの……」
奥からドタバタと急ぐ足音が聞こえた。
「ビオンテ姉さん! だから服を着てと言ったじゃないですか!!」
マウさんが見たことがない赤い顔で突っ込んできた。
ここでフームが我に戻った。
「フームごめんなさい。姉達が来ているの。慌ただしくなっているからごめんなさい」
「え、ということは、平和な華の皆さん!!」
フームのような田舎出身でも、知名度は高い世界の英雄の子供達。特に各勢力の代表として御座艦を持っている娘達を“平和な華”と呼ばれることが多い。
ただフームの目の前にいるのは、ブロマイドで見たベシャリブ地方の幻獣使いビオンテ本人と気づく人は少ない。
「おっ小さな方だ」
「マウさんどなた?」
赤くなっている後ろから、スレンダーなワンピース来ている人とスポブラを付けて腹筋が割れている人が出てきた。
そして全員マウさんと同じ瞳の色をしていた。茶色がかった瞳にとても優しそうな笑顔が特徴だ。
「友達。バイチーク城で一緒にアルバイトしている。ジョーの知り合い、ブノとアオさんの娘さん。姉さん達は一度会っているかもしれないと言ってた」
深呼吸しながら、マウは落ち着きを取り戻した。
「ビオンテ姉さん。家庭用の鍋を爆発させるとかどれだけ魔力を注ぎ込んだのですか」
「いやあ。数カ月前にやった時は上手くいったのだけどね。料理」
「因みに何人前作られたのですか?」
「祭りのときだったから千人前かな」
「それ魔力加減が全く違います。今回は家庭用料理です」
ぴしっとマウが言って、えーんとビオンテは泣く真似をした。
「地下に大きなお風呂があります。ひとまず家族水入らずで会話するのがよいではないですか?」
フームはこの空気を換えようと提案した。
「ふふふふ。フーム言ったね。この姉貴たちと一緒にお風呂とね」
マウは苦笑いが止まらない。
地下 大浴場 女湯
バイチークの首都は都市設計で優れている。その中の一つ治水事業は建造当時の世界水準では過剰と言えるほどの完成度を誇っている。悪天候下でも安定した浄水と下水の処理を行い、都市全体に清潔な水道サービスと洪水対策を行っている。旧首都モノ要塞からの遷都理由として、増加していく人口を支えきれなかったものがある。それは世界の英雄が人類史上稀な平和的時代へ導き、各国で観測中の人口爆発にも対応する設計者の先見があったと評価されている。
蛇口から直接飲料水が飲めることは、人々の生活水準をあげることに成功した。
バイチーク湾上で行われている国際会議の中に、バイチークの治水事業を視察に来た他大陸の使節団も派遣してきた。
「あー極楽」
「お風呂入らないとなかなか汚れや臭いが気になりますね」
「ヤスやムフーちゃんもお湯を怖がらないから大丈夫だね」
大浴場はとても大きくて、タイル張りがされている。
姉達は足を延ばしてゆっくりしていた。二匹も桶の中でゆっくりしていた。
その中でマウは気持ちよさそうだが、心ここにあらずそうだった。
「フームさん。あなたはとても珍しい魔力だね」
フームはドキッとする。マウの普段との変わりように伴って気を取らせようと思った。自らの属性である黒魔法は偏見に晒されてきたもの。
「マウは良い友達持って安心した」
「イストール地方にはボット閣下や影武者のジョー様という信頼たる方もいらっしゃる。私たちは世界の英雄の娘やらで。いつもなら会話も盗聴してくるような護衛(笑)も本当にいないから」
「ジョーが本当にお父様の影武者かよくわからない人だけど」
「モウお母様も旧友の方へ挨拶まわりがあるからね。お父様はずっと帰ってこないし」
「そりゃそうだ。お母様たちが隠している。お父様の名前さえも」
「本当に実在するのか最近疑問に思うけどね」
姉達が三人で盛り上がっているときに、マウは少し笑った。
「で、ここから嫌なこと言うけど……」
とても暖かい大浴場なのに、空気が変わった。
「言われたかもしれないけど、二十歳になったら自由が利かなくなる。貴族みたいにどこかの名家に嫁いで嫌みを言われながら、物資が潤沢で不自由な生活をするか私たちみたいに地方の勢力を均衡させる人柱になるか」
「別に周りは悪い人ばかりではないですし」
「…………」
マウの初めて見る無言に、フームは戸惑うしかなかった。
〇同人誌即売会「バケット」一日目
バケットは、バイチークで催される年二回のお祭りだ。
初めはバイチーク大学の講堂で始まり、小規模で始まった。今は再開発計画で湾岸部の埋め立て地に大きな会場が設置し、合計三日間の日程で組まれた。
今回は“世界英雄の娘”を載せた御座船である三隻がバイチーク湾に錨を下ろし、世界の四勢力が集う会議が行われていた。かつてない平和な時代になったといえ、遠い異国の地まで。
しかも無血の四都と言われたバイチークまで足を踏み入れるのは、他大陸の人間にとってはまだまだ障害が高い。
「へー輸血車とか来ているんだ。珍しい」
「初めて輸血に成功したのはシャトラキ地方の医療国家だ。最先端の魔術を使わない外科手術が盛んで、魔力が極端に使えなくなる海上や地脈の恩恵が得られないデススポットでの医療に期待されている。この車はイストール地方での導入車第一号車だな」
ガイノは輸血をしているミサスに話しかける。
「ここはおもしろいです。博物館とは違う。身分関係なく各人が考え、しるしている。先代マツカイサ皇帝の成したイストール地方の識字率9割越えの偉業がすばらしいですわ」
時々毒が出る言葉で、変に場を凍らせてくるビオンテの手を焼いた。
「ほう。マウが全員が参加者だからと口を酸っぱく言っていたが、ここまで統率が取れているのは世界でも稀だな。誘導を青年騎士隊が担当しているのか」
饒舌に姉妹達が会話していることをネードは黙っていた。
〇バケット運営事務所
「パペットさん申し訳ございません。私事ながら当日の運営に参加できなくなってしまって」
姉達の案内で参加できません。と普通の羞恥心なら耐えられないところをマウはこらえていた。
「いいよ。ボット閣下自らご説明してくれた。正直あの方の話すものは、大儀はあるがあまり関わらないほうがいいしね。最近は影王のコスプレにはまっているらしいし」
軽く快諾した。
それは言えています。と大きく笑った。
「マウさんには前段階で、警備員の増員や準備段階でとても手伝ってくれたからね」
「それに……」
パペットさんは少し考えて。
「バケットは身分や種族。性別問わずみんなが参加者だから拒む理由もない」




