3-12 世界の英雄の娘たち
ミサス・シンギザはハンターとして一定の認知度はある。これはイストール地方の害獣被害が特に酷かった僻地に行けばいくほどである。
そうした場合、即興のパーティーや役割分担をしてモンスターと対峙することも多い。
結論から言うと特に問題なく怪物を討伐することができた。
三人が周りを見渡すと歓声が起きていたことに気づいた。
「ひゅー! 僕ちゃんのこと見ているか!!」
ヘンティーは手を振っている。その間にネードはミサスの傍に寄って確認する。
「この騒ぎは不味くないかミサス」
「キャプテン・カルパッチョだ。暴れたことは問題ない。それに今日は隣大陸からの船が多く来ていて、表向き使者に同伴して正規軍人もここに多くいる。ネードがここにいたことも問題ない」
「そうか。よかった」
足をガクガクさせていたが、心の落ち着きを取り戻した。
「だが目立つだろうな。借りは返してもらう」
「え」
〇観客席
「落ち着きましたか」
「大丈夫。落ち着いた」
マウはゆっくり立ち上がった。
「マウちゃん久しぶり」
ぎゅーと後ろから抱擁した女性からもがく。
「お母さん止めて! 分かったから」
マウはその女性から脱出した。
黒を基調としたセミフォーマルでまとめて、肌の露出は少ないものの無駄のない体のラインを中年のおじさんの視線は奪うだろう。歳を美しく重ねた美人だった。
そうして傍らから見ていたホッチと目があった。
「この方がマウの恋人さん?」
「いえ友人です。マウさんのお母様。私はホッチ・テッラと言います」
ホッチは答えた。
「ということは、世界の英雄の夫人“舞姫”モウ!!」
カリが大きな声で言った。
「あなたお名前は」
「カリ・コロコロです」
「ここでは珍しい目で見てくるね」
モウは笑顔で答えた。
〇翌日 バケット会場周辺
「なあ沖にある軍艦はどこから来た? どれも独特な形をしているが」
守護隊の兵士が沖の方へ指を刺して言った。兵士の出身地ヒロでは大陸の内陸に位置し、海や船を見たことがなかった。訓練でバイチークに到着した時の海の広さに感動した。
だが遠くに錨をおろしている船はバイチークの港にある帆船とは大きく違い、島と間違えるほど大きなものだった。
一匹の大きなモンスターに見えるもの。
浮島みたいに街が載っているもの。
とても大きな砲を搭載した鉄のものなど。
「あれは他大陸からの派遣艦だな。構造は、ベシャリブ・アチャメリア・シャトラキそれぞれの地方の文化が濃く出ている。海上は魔法の使用が厳禁で、それを可能にするためにまともな大きさが必要なんだね。海のモンスターは基本大きく、一人では倒せないし、あそこの船員たちが昨晩コイコイに行っていたらしいね」
「詳しいんだな。帝国騎士団にいると」
「僕が船が大好きだからだね。陸の上は地脈の影響で体調を崩しがちで、任務では空気だけど」
「ノサシさん。生命線がそれならダメだろう」
「ははは。それに君の隊長も有名人じゃないか。今日の朝刊の一面が凄いじゃないか」
「はははは」
その時遊んでいたとは恥ずかしすぎて言えなかった。
「化け物級の強さを見たことはあるけど、英雄がどのような人間か分かった気がする」
2人は会場のテントの中に入った。日中は人が少ない。同人誌即売会の運営人材はボランティアで設営は夕方からになる。
「話題の二番になっているけど、世界の英雄夫人がここに来ているしね。ミサス隊長羨ましい限りです」
ノサシは今一度、各大陸の勢力が並ぶ洋上を見た。
〇バイチーク湾 会場
「ミサスは船酔いしないのか?」
「慣れた。というかネードは弱すぎじゃないか」
マツカイサ帝国の皇族専用小型艇の縁からネードが離れない。
「ヒロはイストール地方の内陸に位置する。大きな湖であっても海ほどの波は起きない。初めてのことを笑ってはいけない」
「う、はい。モウ師匠」
ミサスが振り返った時にマウはぎゅーと抱擁をした。とても豊かな胸の膨らみでミサスの呼吸が苦しくなり、両腕を使ってもがいた。
「ミサス。伝説の人を師匠にしているのか?」
「いやいや。マウとミサスが初めて会った時、こいつの常識が無さ過ぎたから教養を教わる時点で……」
後ろから来たマウに気づかず、ジョーは宙をきって後ろに飛んで行った。
「勝ってに話し始めた仮面のおっさん誰だ」
「ジョー・サカタ。こいつは師匠と言いたくは、、、ない」
こそこそと話をした。
「ミサス。もうそろそろしっかりしろよ」
さらに奥からはボット師匠が現れた。代々マツカイサ帝国の騎士団皇族が着るマルーン色を基調とした正装姿だった。
「ミサス。マイネン団長から聞いたと思うけど今回の議題は大規模通信魔法陣だ。外敵からの脅威。特に隣大陸や辺境。場合によっては人類に関わる」
大陸の覇者マツカイサ帝国の首都に大陸ごとに分かれた四つの代表勢力が集っていたのは国際会議のためだった。
悪天候によってバイチークへの到着が遅れたため、バケットの前日まで日程がずれた。祭りの開催で賑わう街の空気を壊さず、警備上の理由から国際会議の急遽縮小を行った。
パレードといった交流を目的とした上陸したイベントは大幅に削減され、お祭り需要を見込んでいた商人はかなりがっかりしたとか。
「あのボックリ閣下」
ネードが手を挙げた。
「あー。絵になるからな。今日の朝刊といい記者もネタには困らないだろう。広報活動も民衆の心を掴むのも仕事の一つだ」
ネードは口が開いた。
横見ると、ミサスはガン無視しているので知っていたなこいつと恨んだ。
「…………」
「マウさん何かありますか」
「口ゲロ臭い」
ネードが海水でうがいをして悶絶し、ミサスに馬鹿かと突っ込まれているのを横目に見つつ、マウはこれから久しぶりに会う親族に緊張をした。
ドン!
近くに大きな水柱が立った。
一同は足場が揺れて縁につかまり態勢を整える。
「砲撃! おいおいおいおいおい」
舟の周りには大きな触手が伸びて来て、そのまま宙を浮く。
「あわあわこの地に足がついていない感じいけない」
そしてそのまま海に落下したと思ったら、深く沈み続けていき海水が足元に上って来た。
「!?」
ネードが慌てて、海へ逃げ込んだ。
ミサスは慌てて首根っこを掴んだ。
「ネード。安心しろ守護魔法がかけられている」
「え?」
そのまま舟は浮上し、甲板に流れ込んでいた水が引いていく。濡れたはずの服も全く水を含んだり、潮の臭いもしてこない。
目線を変えると、マウが右手を上げた魔法の展開を終了し、空に向かって叫んでいた。
「お姉さま! 知り合いの方はともかく、ヒロの英雄は客人ですよ!」
「久しぶりに可愛い妹の顔を見たかった」
「私たちのおもてなしを受けてここまで気持ち良い反応を見たのも久しぶりですわ」
「そもそも我らを謁見できる者も強者に限られている。社会勉強に必要であることだろう」
そこには3人の異形の女性が空に浮かんでいた。
ローブを着た賢者。空中に大きな文様のある魔法陣を展開している。
―アチャメリア地方を代表する古代魔法使いクモン
海面から大きな鱗の巨体の竜。その頭の上に載っている耳が尖ったエルフ。
―ベシャリブ地方を代表する幻獣使いビオンテ
軍服を見に付け、腰に噴出機構を出して浮かんでいる。肩にはキャノンがついている。
―シャトラキ地方を代表する巨砲ガイノ
「久しぶりだ。英雄の娘達!」
ボットを見て3人は軽く会釈を行った。
「二人とも見ておけ」
殴り飛ばされたジョーは、固まっているミサスとネードに語った。
「大陸が異なっても、あの戦略魔術師の存在は有名だ。特に成人になった世界の英雄の子供たちが戦後第二世代を引っ張る優秀な人材達だ」
「詳細はボットから聞くと思うが、これから祭りが終わるまでじゃじゃ馬たちをエスコートしろよ。それそれ女を知っておくことだ」
ジョーはニヤニヤ顔が不穏だった。




