3-10 夜のバイチークを社会見学しよう
夜のバイチークにコイコイ
「完全に日が落ちてしまったな」
ミサスは空を見上げていった。バケットを開催するここは、定期的に催しをする空き地にはなっているだけで他には何もない。遠く離れたところに沢山の灯りがついたバイチーク城の様子が見える。
「夜食はいただきましたし、真っすぐ拠点へ帰るべきだと思います」
弓使いのしっかり者のシジキ三姉妹の次女は提言した(面白味がないと残りの姉妹が言っていたが)。
「でも周りはそうではないようだ」
貧血気味のノサシ(ヒーラー)を背負ったケコーンは遠くの一団が列を連なって向かう先を見ていた。
彼らの行く先は港湾地域に隣接した繁華街。バイチークで独立した夜の街であるコイコイに向かっていた。数多くのエンターテイメントや賭博。中には非合法スレスレのマネをしている闇があるという都市伝説があったりもする。
田舎から出てきた青年達にとって、ここまでの魅力のある誘惑が詰まっている。
「日程的に明日はバケットの設営。明後日からは三日間の会期で最終日は撤去作業も入っている。その日の深夜に出発する者もいるから遊びに行くには今日がラストチャンス。中には闘技場で腕自慢達が賞金をかけて殺し合いをしたりする」
脳筋ハンマー使いゲンノの言葉に話半ばで聞いていた三人が食いついた。
「俺より強い者に会いに行ける!?」
「斬り放題?」
「殺しがいのある……かな」
コンスが手を鳴らし、テプとクレパがそれぞれ刀と手裏剣に手をかけた。
「コンス。テプとクレパ。お前ら戦闘狂が一番危険だ。それに帝国騎士団の団員があんな低俗なところに関わるべきではない。あっ」
イーサーは思い出したように口を開けて、イーサーは続けた。
「そこが出身の人物が我らの隊長であるわけだが」
「…………」
イーサーの嫌味にミサスは答えなかった。
「“今の隊長”についての答えはみんなが持っているとして、ああいった不特定多数の街はどこ行ってもよい話は聞きません。噂だと昨日の朝刊に載っていた思想犯が既に脱獄して紛れ込んだという話も……」
胸の空いた服を着たペインの言葉は途中で遮られた。
目の前にホッチが立っていた。襟にはミラレアル国を表す海獣を模したエンブレムがつけられていた。
「どうしたホッチ。故郷の知人といたいなら今は自由時間だ。別にここにいなくてもよいぞ」
「はい。だから個人的な願望です。ミサス隊長今晩付き合ってくれませんか?」
「お。良いぞ。何か飲みに行けるところ行くか?」
「いえ。私の我がままです。夜の街へ行きましょう。」
街の明るさに照らされたホッチの唇はいつも以上に色っぽく思えた。
〇コイコイ
“ヒロの英雄”ネードは今の時間を奇跡だと思えた。
部下達が今夜も飲みに行くということで、肝臓と時間とお金の関係から憂鬱であった。
目線をちらりと移すと、横を通り過ぎる女性がいた。
「あれマウさん。深くフードを被ってどうされたのですか?」
今思えば一人で歩いている彼女に気をつかうことを考えればよかった。
相手は、つい先日束に同年代の戦士が束になってかかっても返り討ちされた強者だ。
「どこか行かれるなら野郎一人護衛をつけていた方がよいですよ」
「酒が弱い隊長が一番良いです」
「なんやかんやでMVPも取った大将。それに北方守護隊第三班の我らですよ」
あっという間に部下に囲まれて、彼女が言う前に断りづらい空気を出しておいていかれた。
「あの。よろしくお願いします」
「そうだよね。よろしく“ヒロ”の英雄」
「おっ若いカップル。お暑いね!」
「芋っぽい騎士さんより俺と遊ばないか」
色々なちょっかいにネードも少々頭が来て、適当にあしらっていく。
少し見栄を張りたいお年頃だった。
そもそもマウはバイチークの人々に広く知られている。顔を隠すのは、コイコイで会う人がいるかららしい。ネードの(ストーカー)情報収集も把握していないことだった。
そこまで手間をかけるということは、それなりの大物という想像は難しくない。
「ねえネード」
「はい!?」
「“英雄”になって何は良かったことはあるの?」
「い、いやあ望んでなった訳ではなく、他人評価ですね。もう見破られているかもしれませんがとてもめんどくさがりなので」
「そう」
マウはそこから無口になった。
ネードは完全にやってしまったと青ざめた。
「凄い。久しぶりの大勝だぞ!!」
二人の前には人だかりができていた。
そこはコロシアム。イストール地方だけではなく、世界中から集められたモンスター同士や命知らずのものが戦う闘技場であった。無論死亡者が後を絶たないが、それ以上の興奮と金が動く。
「皆様この男を覚えているでしょうか。毎晩腕自慢達を屠って来た各国から運ばれたモンスター! これをたった一晩。たった一晩で殺戮した新星。昨晩から飛び入り参加した我らが“英雄”は確実だ!」
周りの歓声に名前はよく聞き取れなかった。
観衆の中心には今、二人の男がいた。
「コイコイの誇るバトルエンターテイメントぅ!! 次は飛び入り参加だ! 長く通い詰めて頂いているファンの方お待たせしました。コイコイの伝説が帰ってきた! 我らがキャプテンカーーールパッチョ!!」
ど派手な演出と共に大きな声援が上った。呼ばれた男は、大きな海賊帽子を被り、鍛えられた胸筋が除く。右手には短剣を抜いており、腰にはサーベルと銃をぶら下げている。
そして魔力を思い存分発揮させ、手から炎のパフォーマンス。
「ミサス・シンギザ? どうしてあんな格好を?」
ネードは呟いた。
ミサスは目の前にいる大バカ者を見た。
周りを見渡してこちらを見てきた。
「海賊か。俺は猛烈に怒っている。なぜか分かるか?」
男はミサスに向けて言った。目はサングラスをかけていて、髪は金髪。上半身が裸で鍛えられた筋肉がむき出しとなっていて、モンスターと戦いにできた生傷が痛々しい。
そして腰には大きな魔力矯正器具がついている。ジョー師匠やホッチのように魔力が弱い。欠乏している可能性がある。
その割に、今日は数多くの力自慢を屠ってきたらしい。
「さあな。あんたの名前みたいにふざけているのか?」
「構想ができて何年経った!」
こちらの話を聞いてはいない。とミサスはため息をついている。
「作者のやつパソコンが壊れてこの異世界物語を一年間放置していて、前座を書くのに年号も変わってしまった」
そのまま歩いてミサスの前に立ちはだかった。
「昨晩のパーティーからの負けは返済はしたが、最後のデザートが残っている」
手には銃の持ち手だけの武器を見せてくる。
「俺はヘンティークリストプー・パンスト!! キャプテンも読者の皆さんも楽しんでいってくれ」
サングラスで目元が分からないが、口角を上げて笑っている。
「なあカルパッチョ船長? いや十徳刀と言ったほうが良いか?」
「俺も有名になったものだな」
「ああ。次の更新話には決着をつける」
両者とも構えた。




