3-7 影王ボックリ・マツカイサ
大規模訓練回クライマックス! ※改題しました
「あっボッドさんだ。後で挨拶しよう」
目の前で繰り広げられた光景に、フームのその言葉に隣にいた観客席の騎士団員が口を開けてみていた。
「みんなどうしたの?」
反応はあまり良くなく、あんまり表情に出さないクレパ(場の空気を読んで)でさえも驚いた顔をしていた。
「えーと初めて会ったのはジョー(サカタ)おじさんが牢屋に入れられたときに、あの人が助けてくれた」
「「「あの人!?」」」
「教科書に載っているほどの有名人!」
「フームちゃんかなりの爆弾発言だよ」
女医ハナが諭した。
「なにかごめんなさい、、、」
よく分からないままフームは深々と謝罪をした。
後日ジョーおじさんに話をしたら「あれ悪いことしましたか?」という異世界転生者あるある病だとからかわれた。
ボックリ・マツカイサ
先の大戦で世界の英雄と共に終結に導いたパーティーの一人。
現マツカイサ帝国皇帝からみて実の兄にあたる人物である。
長く表舞台には出てこなかったため、死亡説がずっと流れていたがこうして公の場に出てきたのは数年ぶりとされる。
まさに伝説と呼ばれているメンバーの一人。
公開はされていないが帝国騎士団に青年隊を創設した人物である。
「それにしても」
テプが話の話題を変える。
「ミサス隊長他の班長と比べてかなり善戦してますけど、決め手がないのは歯がゆいですね。イーサー副隊長はこういった場を嫌うので早々に棄権して帰りましたが」
「…………マウさんが勝っていくのは嬉しいけど、思っていた以上にここまで一方的だとは思ってなかったです」
「2人とも少し違うと思います」
クレパが間に入ってきた。
「ここにいるのはマツカイサ帝国だけでなく、イストール地方から集められた精鋭たち。一人一人が何かマウに負けない才覚がある。殺すことだけだったら私でもできる」
少し間をおいてバンと大きく手を叩いた。
「チク・シジキから皆さん提案です! 応援しましょう! ミサス隊長とホッチさんがバイチーク最強と戦っているのですから」
「うんうんチクがマジなこと言っていてお姉ちゃん尊敬したよ」
「後もう少しだし、声は出すか」
姉妹の援護が次女の真摯さを訴えかけた。
「応援するのですよ。我らのリーダーや友人を大声で!!」
〇闘技台
「以外に結構でかい声で応援してくれるな」
「うらやましいなミサス。うちのメンバーからは自死できなかったから皮肉交じりのブーイングしかこねえぞ」
「そうですかヒロの英雄? 私から見るとかなり慕われていますけど。具体的には何かを急かしているような?」
マウの目の前に残ったのは、ミサス・ホッチ・ネードの三人だった。
無駄にコスプレとしての完成度を高めつつ、同年代の戦士達を圧倒している。
世界の英雄の強さはまだまだ不明なところがあるが、マウの強さは単純な魔力のパワーと容赦のない手数の数だ。ほとんどの技が所見殺しか致命的な負傷を呼ぶ。
しかもマウは事実上の全裸状態で素手だ。
「ミラレアルの大将。今更だけど、確か同人誌即売会実行委員の乱入は客人扱いになっているから、痛めつけては名誉に関わるのだよな。武器の使用もご法度」
ネードがホッチに確認する。
「建前はそうですが、普通に戦っても難しいです。バイチークに来て初めてここまで力の差を感じた一つです」
ネードは言った。
「二人とも。ものすごいわがままでだが、1つ相手に言うことあるから時間をくれないか?」
どうぞどうぞと二人は譲った。
ネードは1人で歩いて、マウの目の前に立った。
「こんにちは。ヒロの英雄さん」
「マウさん話を聞いてくれ! あなたに言うことがある!!」
「去年姿を見た時から好きでした! 付き合ってください!」
「ごめんなさい!」
周りの歓声が届く前に大きな音とともに大きな鉄拳を食らわし、ネードは沈む。しかしそこから根性で立ち上がること
「今度」
ドン!
「食事でも!!」
ドン!!
と数回。最後はかなり本気で笑わず叩きのめしたので、一番近くにいたミサスとホッチは引いていた。
完全に沈黙したネードを確認し、背を向けた。
「今は喪に服すときだから。どうしても気持ちが乗らないの」
マウは勝負を降りた。
〇バイチーク城 宮廷晩餐会 会場
ミサス達が大規模訓練をした最終日の夜――――
バイチーク城では大きな晩餐会がマツカイサ帝国皇帝をホストに催されていた。バイチークからターピティまで大陸横断鉄道が開通したことを祝すもの。様々な業界における大物や著名人。各国の要人らも顔を見せている。
その中で一番目立っている一組がいた。
「高級魔法の1つである転移魔法よりも安く、大量の物資や人の移動を都市や国間で庶民レベルで恩恵を受けられます」
「はい。線路沿いの保守と乗務員は大陸横断鉄道の社員が。モンスター討伐や列車泥棒はギルド制を導入し、優れたハンターが一口でリスクを低くし、参入しやすい下地を作っています」
「ははは。とてもしっかりした可愛いお嬢さんだ」
とても落ち着いて。話を真摯にしているものと、後ろでにこやかに大陸横断鉄道の社章をつけた男がたって挨拶を回っていた。
その様子を離れた所で、派手に華やかな貴族がまとまって話題にしていた。
この場にいる人間すべてを都合の良い目を細めて判断している。
「あの傍の若い女性は誰だ?」
「カリ・コロコロ。ニルキ・コロコロの忘れ形見らしい。第一夫人に目元がそっくり」
「いつもいつもだなジョー・サカタ。本人は否定しているが、世界の英雄の影武者を務めていたと噂はある意味間違っていないな。容姿を利用して世界の英雄を知るものと交流を深めている。食えない男だ。今回も天涯孤独になった箱入り娘に取り入って、ニルキ・コロコロの財産を手に入れたのだからな。鉄道案件と言い、美味しいところに寄生虫のように関わっている」
「………………」
「カリ。気にするな。ターピティの貴族共はいやらしい。しぶとく手を汚さずに生き残った連中だから」
「申し訳ございません。ボッド様のご友人を蔑む連中がいて悔しいのです」
「うーん。逆に俺はミサス達のように暴言を吐かないカリの優しさがとても素晴らしいな」
ジョーは申し訳なさそうな顔をしているカリに声をかける。
「ボットのやつめ。社交の場にド素人のカリを一人で要人相手に対応するのは限界があるぞ」
突然会場が、がやついた。
「申し訳ない。着替えに手間取った」
「そうだぞボット。若い女の子のエスコート役をおっさんに投げるとかどこで道草食っていた」
入ってきたのは、世界の英雄の盟友であるボッド・マツカイサ。
マツカイサ皇帝の皇族のみに許される紋章をつけて。急いでいるが仮面を取った男は威厳のある堂々とした姿だった。
二人に歩いて、ジョーと握手した。
「今日が解禁なのか」
「ああ。この後、話すことがある」
「ならカリの援護射撃をしてからだ」
何も言わない二人の男の間で行ったアイコンタクトの意味が、目の前でサンモから借りたいけおじびーえるみたいだなとカリは思った。
そんな注目を見ずに、会場の隅でもくもくと食事にありついている青年騎士に一人の男が近づいた。
「失礼私はミラレアルの商人です。今日はとても珍しい客が来る。帝国騎士団の青年隊の副隊長であるあなたにも久しぶりにね」
「はい。お久しぶりです。ナカマタチの打ち上げをサボってここに来た甲斐はありました。あなたのようなズル賢い顔を見るまでは」
「それは酷いな。お互い様だと思います。自己中心さは叔父の影響でしょうか?」
その場から離れようとした青年騎士はピタリと歩みを止めた。
「いえ。センツという罪人を輩出した我が一族最大の恥です。どの場に立とうが消えることはない」
イーサーは商人にそう答えた。




